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「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」を読んで

Photo by Aaron Yoo
https://www.flickr.com/photos/thebetterday4u/

「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」(藤井保文、尾原和啓)

読んでいると「そうそう、こういうことがやりたいんだよなぁ」と思いワクワクしてくるような内容だった。また、中国の事例が非常にわかりやすく詳細に書かれているため、とても勉強になる1冊だった。

以下、私が特に面白いと感じた箇所について、中国の具体的な事例を中心に書いていく。第3章・4章はあえて書かないので、ぜひ読んでみてください。

第1章 

第1章は中国の事例が豊富に書かれており、現在の中国の状況が詳しくわかるセクションになっている。
その中でも特に興味深かった2つの事例を簡単に紹介する。

1. ジーマ・クレジット(芝麻信用)
アリペイを提供するアリババ参加の金融会社「アント・フィナンシャル」が2015年に始めた、アリペイの機能のひとつ。

アリペイが既に様々な店舗での支払いや公共料金支払いなどを行えること、もともとECを手がけていることから、アリババは大量の購買データを保有している。そのデータをAIで分析してユーザーの「信用スコア」を算出し、そのスコアの高低によって得点が受けられたり、逆に制限が設けられたり…というシステムを構築している。

その信用スコアを企業が使用料を払って活用していたり、ユーザーがSNSでスコアを開示していたりと普及しているよう。

農村部出身であっても努力次第で高スコアを取得し、メリットを享受できるということは非常に面白い。きちんと基準があった上で評価されるのであれば、うやむやで評価されないよりはずっといいと思う。

一方で、その評価基準をつくり運用する人たちがいちばん得をしたり、なにか恣意的な操作が行われないとも限らない。手放しで褒めるというよりは、運用方法などを誰もが納得のいく形にする必要はありそうだと感じた。

2. 平安保険グループ
1988年に深センで創業の保険会社。保険事業から保険銀行投資と拡大して金融系全般、医療、移動、住居などの生活サービスまで手がける。2017年からの1年で時価総額が倍の約21兆3000億円に到達。2018年度末の株式時価総額ランキングで、私企業ではアリババ、テンセントに続く第3位に。

エクスペリエンス×行動データを重視し、長期的かつ徹底した顧客思考経営を行っていると書かれている。

具体的には、保険は一度ユーザーが加入するとなかなか接点が持てないということに危機感を持ち、ユーザーの生活圏にビジネスを拡大し、接点を増やそうとしたのだ。

その取り組みの中でも「平安グッドドクターアプリ」という医療系アプリが特に成功している。

上海の多くの開業医の医療サービスはピンからキリまでなので、ユーザーは安心できる大きな総合病院に殺到。そのため総合病院は整理券が配布されるような混雑状態となる。その整理券を転売する人も現れ、患者の分配が正しく行われていないという状態だったそう。

そこで「平安グッドドクターアプリ」を平安保険が開発。アプリ上で開業医に無料で問診できる機能や病院予約機能、さらに歩くだけでポイントがたまる機能という、社会問題を解決する機能とアクティブユーザーを増やす仕掛けの両方が備わった、まさに画期的なアプリである。

このアプリによってユーザーの行動データを取得することができ、さらにユーザーの信用を得ることができる。短期的な売上のためではなく、長期的にユーザーとつながるためのツールとして運用している点が非常に興味深い。

また、コールセンターなどのCS部門とアプリによって取得したデータ、そして営業部門がつながってサービスを提供していることで、CXも非常に良いものとなっているようだ。

第2章

OMOの考え方
アフターデジタル時代における成功企業が共通して持っている思考法が「OMO(Online Merges with Offline)」という概念。

オンラインとオフラインを融合し一体のものとしたうえで、これをオンラインにおける戦い方や競争原理として捉える考え方であると述べられている。

顧客がどのチャネルでも好きに選べるように、企業側は選択肢をできる限り増やしてシームレスにすることで、データ収集できる接点を増やす。そしてそのデータを用いてプロダクトとUXを高速で改善できるかどうかが競争原理になる。

OMOにおいて重要な考え方は以下の3点であると章の後の方で述べられている。
チャネルの自由な行き来ができる、つまり顧客が自由に多種多様なチャネルを選択できるようにする。
データをUXとプロダクトに返す、つまりたくさんの接点から得られたデータを用いて高速でUXとプロダクトの改善を行うことで、ユーザーは再びサービスを使ってくれ、また改善できるという好循環が生み出せる。
③得たデータでリアルも高速改善していく、つまりリアルの接点もたくさんのユーザー接点の一つであることに変わりはなく、オンラインと同じようにデータによって改善していくべきである。

まとめ

第1章に、デジタル時代のビジネスは寄り添い型であるべきと書かれていた。
商品はもちろん高品質であるが、それはユーザーとの接点のひとつでしかない。そのような高品質な接点をたくさんつくり、継続的に価値提供できるかどうかが大切になってくるという趣旨だ。

今まで大切だったのは、いかに良いプロダクトを作るかとか、いかに今月の売上計画を達成させるかとかで、とにかく刹那的で、お客様との関係を築いていくという雰囲気ではなかったように思う。

口ではお客様との関係を大事にしようと言っても、結局買ってくれればOKという感じだった。
それに、会社をあげて継続的な関係を構築しようというよりは、販売員がお客様の顔と名前と前回買ったものを覚えて、オススメしてください!おわり!という感じで、なんともマッチョな思考だよなぁと思う。

この本を読んで思ったのは、テクノロジーを駆使することが大切なのではなく、もう一度お客様とどんな関係を築きたいのかを考える必要があるということ。
そして、おもてなしの心(曖昧じゃね?って思う。言語化してくれ)とか、カリスマ販売員(その存在は素晴らしいけど、再現性なくね?って思う)に任せきりではなく、データありきで、できる限り多くのお客様に高品質のサービスを提供することが、目指すべき姿なのではないかということだ。

そして何より、組織が「アフターデジタル的な思考」に切り替え、少しずつでも変わっていくことが重要なのだと思う。1人では決してできないし、意思決定する人がこの思考になってなければまずできないというのはひしひしと感じた。

曖昧な「顧客満足」をなんとなく追求するのではなく、顧客も企業も社会もwin-win-winな事業ができたら、それはめちゃ楽しそうだなと、読み終わってワクワクするような本だった。

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