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お子様ランチへの道のりはとてつもなく険しい

わたしが小学2年生くらいの頃。
実家から車で15分圏内のところに、ついにあいつがやってきた。

ファミリーレストラン。略してファミレス。

ご飯食べるところなんて、個人経営のお店しかない(好きだけどね)このド田舎に。
満を持して、COCO'Sがやってきたのだ。

わたしは歓喜した。
ドラマやアニメでしか見たことのない、
お子様ランチが食べられる!!!!

ハンバーグやオムライスなど、子どもの好きそうなメニュー。
ご飯の上に立てられた旗。

かわいいと美味しいを兼ね備えたそれを、いつもテレビに齧りついて見ていたのだ。
ファミレスができたのであれば、テレビではなく本物に齧りつきたい!!!

家族で車に乗り、COCO'Sへと向かう。
当時COCO'Sはドラえもんと契約を結んでいて、アニメの時間によくCMを流していた。
そこには、ドラえもんの形のランチボックスに盛り付けられたお子様ランチが映っていた。
車内でそれを思い出しながらわくわくしていた。

ついにCOCO'Sに到着すると、席に案内される際にメニューが渡された。
当時は、メニューが席には置かれてなく、案内するたびに手渡されるシステムだった。
メニューは普通のものと、お子様メニューの2種類ある。

しかし、私たち家族に渡されたのは普通のものだけだった。
入口の棚には、お客さんを待ちわびるお子様メニューが数冊あったのに。

実は当時のわたしは小学2年生にして身長が140cmを超えていた。
私より低い成人もたまにいるし、子どもだとしても、そろそろ大人に見られたい年頃だと思われても仕方ない。

店員さんはきっと気を利かせてお子様メニューを渡さなかったのだと思う。
しかし私はそれが欲しかった。それが目的だったのだ。

落胆したけれど、自分から「お子様メニューください」と言うのは恥ずかしい。
周りにはお子様ランチを頬張る他の子どもたちがいる。今にもハンカチを噛みそうな気持ちだった。

その日、わたしのお子様ランチデビューは叶わずに終わったのだ。

それから何度か家族でCOCO'Sに行った。
"わたしは一生お子様ランチを食べられないのかもしれない"
そう思いつつも、毎回どこか淡い期待を抱いてしまう。

そしてある日、なんとウエイトレスのお姉さんがお子様メニューを渡してくれた!
ドラえもんの形に製本されたお子様メニュー。
そこには私が欲しくて欲しく堪らなかった、ドラえもん型のランチボックスが載っている。

溢れんばかりの喜びを全身で感じながらメニューを凝視している私に、父がひとこと言った。

「おめぇ子どもみてぇなもん食いてぇのか」
(口が悪く見えますが訛りが強いだけです)

ネット上だったら"w"を添えられたであろう、小バカにする感じでそう言われた。

わたしはすぐメニューをパタンと閉じ、「別に違うし!」と言った。

心は100%お子様ランチなのに、普通のメニューから食べるものを選んだ。
せっかく回ってきたお子様ランチチャンスを手放してしまったのだ。

本当に本当に一生食べられないかもしれない。
そんな悲しみを胸に秘めつつ、2年ほどの時間が経過した。

当時野球が大好きだったわたしは、東京ドームへ野球観戦へ行くことになった。
スタンドではお弁当を食べることができる。
計画を立てるのが好きだったわたしは、さっそくインターネットで、東京ドームで売っているお弁当を調べ始めた。

そこには、ジャビットのイラストが描かれた、バット型のお子様向けランチボックスがあった。
一目見て、鎮火されつつあったお子様ランチへの情熱が再び燃え上がってきた。ジャビットも大好きだし、とてつもなく欲しい。

しかし、一緒に行くのは父と兄だ。
お子様向けのものを選べば小バカにしてくるであろう二大巨頭と一緒に行かなきゃいけない。
またしてもお子様ランチへの道は閉ざされてしまうのか。

ふと、私は思いついた。
"記念だから!"
そういう事にすれば良い!
東京なんて滅多に行けない。しかも当時はジャイアンツの観戦チケットは激戦でなかなか取れるものじゃなかった。
ジャビット型のランチボックスは、東京ドームへ観戦に行った記念として違和感はない。
わたしはお子様ランチが食べたいのではなく、記念として欲しい!そう振る舞えばいい!

こうしてわたしは、念願のお子様ランチを東京ドームのスタンドで食べていた。
隣の老夫婦のご婦人が「あらぁ。いいわねぇ。」と声をかけてきた。
子どもっぽいからわたしに相応しくないとか、そんな意図が全くないその言葉に、
わたしは「はい、記念なんで!」と返した。

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