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【美術展で考える】対話鑑賞を考える

2023年が始って早10日。なかなか書き終わらずお正月も終わってしまいました。本年もつたない記事となりますが、どうぞよろしくお願い致します。
今回は昨年12月に参加した東京国立近代美術館MOMATコレクションの所属品ガイドから「対話鑑賞」を考えみたいと思います。

1.対話鑑賞とは

美術好きの方なら「対話鑑賞(対話型美術鑑賞)」という言葉は一度は聞いたことがあるかと思いますが、改めて対話鑑賞とは何なのか?
東近美のHPではこのように説明されています。

対話鑑賞は、複数の参加者で話し合いながら進めていく、鑑賞の方法です。
受け身で解説を聞くのではなく、まずはよく観察し、自分が感じたことや考えたことを言葉にし、みなで推理したり解釈を作り上げたりします。ファシリテータ(進行役)に導かれながら話し合うことで、思いもよらなかった発見や意見に触れ、自由なアートの世界を楽しむことができます。欧米の美術館で盛んに取り入れられている、探究的な鑑賞(Inquiry Based Appreciation)のひとつです。

東京国立近代美術館HPより

artscapeでは以下のように説明されています。

子供の思考能力、対話能力の向上を目的に実践される対話による美術作品の鑑賞法を指す。ニューヨーク近代美術館で1984年から96年までギャラリー・トークなどの教育プログラムを担当し、「視覚を用いて考えるためのカリキュラム(The Visual Thinking Curriculum)」制作に参加したアメリア・アレナスが対話型鑑賞の第一人者とされる。(中略)
対話型鑑賞では、美術作品を専門家による研究対象としてのみ捉えることを否定し、作品の解釈や知識を鑑賞者に一方的に提供するような解説を行なうことをしない。 鑑賞者が作品を観た時の感想を重視し、想像力を喚起しながら他者とのコミュニケーションがなされることで、組織化された対話や交流が可能となる。
そこには、作品を作者の経歴や美術史的考察によって価値づける既存の作品観や鑑賞法ではなく、作品と鑑賞者のコミュニケーションを通じた関係によって意味が付加されるという「開かれた作品」としてのアレナス独自の作品観がうかがえる。(以下略)
著者: 森啓輔

artscape対話型鑑賞より

子どもへの教育から派生したことで、作品の解釈や知識を一方的に伝えるのではなく、作品を見た時の感想を参加者同士が対話することで、作品への想像力を喚起し他者とのコミュニケーション力を育む試みというところでしょうか。ワークショップに近いものと思います。なのでガイドの役目は、作品の来歴や歴史的な知識などを解説することが目的ではなく、ファシリテーターとして参加者が発言しやすい進行することのようです。

2.「MOMATガイドスタッフによる所蔵品ガイド」に参加する

昨年12月のとある日に所蔵品ガイドに参加しました。
参加のきっかけは昨年秋に通信制芸大の学友Lさんがボランティアガイドに就任させたことから。
Lさんは大学在学時より対話鑑賞について学ばれていて、一度実際に体験してみたいと思っていました。
所蔵品ガイドは50分でギャラリーに展示されている3作品をガイドする構成で、参加者は私を含め4名(全員女性)、途中で知らされたテーマは「まなざし、何を見ているか」でした。

原田直次郎作『騎龍観音』
アントニー・ゴームリー作 『反映/思索』
秋岡美帆作『そよぎ』

鑑賞の手順としては、ギャラリーで各作品を5分程度鑑賞し、ガイドのLさんから参加者に「どのような印象を受けたか」の質問があり、参加者は自分の印象や気になった部分などを各々自由に話します。そして参加者は他の参加者の意見に共感や反対の意見など自由に対話していきます。
Lさんはその間、作品の来歴や作者の情報などを若干話しつつ参加者の対話を促していき、今回のテーマ「何を見ていると思うか?視線はどこにあるか?」の質問を重ねていく構成で、鑑賞時間は1点あたり約15分でした。

3.で、「対話鑑賞」ってどうよ

たった1度の体験で「対話鑑賞」を語るのもどうかと思いますが、面白いと感じつつ引っ掛かる部分もあったので、改めて考えてをまとめてみます。
まず良いなと思った点は、
①参加者は作品を見た印象などを話さなければいけないので、短い鑑賞時間でも意識して集中して作品を見る。
例えば最初の作品『騎龍観音』は以前も見た作品ですが、集中して見てみると「あれっ?、こんなに観音様の胸元はだけてたっけ」とか、「龍の顔が結構可愛いぞ」とかに気が付きました。今までいかに漠然と作品をみていたのか反省した次第です。

②参加者各自が持つ作品への印象が、かなり異なることに気づく。
当たり前のことですが、参加者によって作品から受ける印象がかなり違っているのが面白かったです。例えば秋岡美帆の『そよぎ』は、穏やかな印象と不穏な印象の参加者が半分に分かれました。私は「穏やかな光に照らされた木」と見えましたが、「木の上部と下部で向きの違う風に吹いていて、不穏に感じ不安になる」と言われた方がいました。視点の違いがここまで違うのかと驚きました。作品を理解する上での視野が広がり、より作品を知りたくなると思いました。

引っかかる点としては、
①自分と相性の悪い人が一緒だと楽しめないかもしれない。
例えば私の場合ですが、対話鑑賞なのに自分の蘊蓄ばかり話したがるような人、他者に攻撃的な発言をする人、細かい指摘ばかりする人などと一緒だと楽しめないと思ってしまいます。ワークショップとして「こういう感じ方もあるよね」と思えればいいのですけれど、参加者同士の相性はあるかもしれません。

②ガイドのファシリテーションにかなり左右される。
参加者同士の対話が活発に行われるには、ガイドさんのファシリテーションがかなり重要になると思います。やはり参加者は対話鑑賞によって「新しい鑑賞体験」を期待するでしょう。ガイドさんのファシリテーションの技術(作品の特徴・作者の情報など適度にアナウンスしたり、作品の見る位置を変える⦅『反映/思索』は館内で鑑賞した後館外からも鑑賞⦆などの工夫)によって参加者の充実感はかなり変わってきそうです。

4.なのでまた参加してみたい

以上対話鑑賞について考えてみましたが、とても作品の理解をより深める有意義な体験でした。また東近美ではもちろん他の美術館・博物館で対話鑑賞のイベントがあれば参加したいと思っています。