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エクストリームユーザーとアーリーアダプター

デザイナー界隈で話をしているときに、エクストリームユーザーとアーリーアダプターって同じようなもの?それとも違うもの?という話が出ました。答えとしては「違うよ全然違うよ」なのだけれども、どちらも正規分布のような図を使って説明されることが多く、混同しやすい概念なのかもと思わなくもありません。そこで、これら2つの違いに触れつつ、エクストリームユーザーについて書いてみようかなと思います。

まず、アーリーアダプターとは、イノベーター理論で提唱される5つの分類のうち、イノベーターについで製品やサービスに手を出す人たちのことを指します。

https://en.wikipedia.org/wiki/Early_adopter から引用)

次に、エクストリームユーザーを説明するときによく使用される図を見てみると、アーリーアダプターを説明するときの図にカタチが似ていることがわかるかと思います。

( https://stevebrophy.com.au/2016/10/16/lessons-to-learn-from-the-naughty-kids/ から引用)

これらのうち圧倒的に知名度があるのは、イノベーター理論を説明した図ですので、エクストリームユーザーの話を聞いたときに、イノベーター理論と関係があるのかな?と思ったとしても。あるいは、デザイン思考のプロセスにおいて「エクストリームユーザーに話を聞け」というのは、つまり「アーリーアダプターに話を聞け」と言うことなのだと早合点してしまう場合もあるのかも知れません。ですが、これらは別の概念であり、目的も、方法も、得られる結果も、そしてリサーチ後のプロセスも異なってくるはずです。

前置きが長くなりましたが、それぞれ説明していきましょう。

アーリーアダプターとはなにか

アーリーアダプターとは、プロダクトリリース後、比較的早い時期に製品やサービスを使うユーザのことです。

上記サイトからの引用になりますが、概要としてはこんな感じでしょうか。

アーリーアダプターは、新しいものを自らで判断して採用する先進性を持ちながら、しかも一般的な価値評価とずれが少ない価値観を持っているとされる。このため、後続のアーリーマジョリティやレイトマジョリティ層の判断を牽引するオピニオンリーダーとしての役割も果たしている。アーリーアダプターに受け入れられるか否かによって、商品やサービスが普及するかしないかが決定するとされている。

一般的な価値評価とズレが少ないにも関わらず、新しいものを自らの判断して採用する性格が、いわゆるゼロイチフェーズでアーリーアダプターに注目が集まる一因だと思います。

製品企画/開発のフェーズにおいて、我々のファーストターゲットはこういった人たち、セカンドターゲットはこういう人たち、サードターゲットは…のような話をすることがありますが、このいわゆるファーストターゲットに相当するユーザ層と考えても良いかもしれませんね。

なお、よく勘違いされるので念の為に書いておきますが、世の中に絶対的なアーリーアダプター(別の言い方をすればアーリーアダプターという人種)は存在しません。「開発中の製品について話を聞きたいから知り合いのアーリーアダプターを紹介して欲しい」と言われた事があるのですが、製品やサービスに対して、アーリーアダプターが存在するのであって、アーリーアダプターに対して製品やサービスが存在するわけではありません。

デジタルガジェットが大好きで新しいものが発売されると人より先に、とりあえず買って使ってみる人が居たとしましょう。彼はそのデジタルガジェットについてはアーリーアダプターであるけれども、iPhoneのアプリやWebサービスについてアーリーアダプターであるとは限らないし、ペット向けの製品やダイエット関連ビジネス、あるいは料理が好きな人のための調味料に関するアーリーアダプターであるとも限りません。つまり、ある人は、特定の領域においてはアーリーアダプターかも知れないが、他の領域においてはレイトマジョリティかも知れないし、そもそもそのカテゴリに全く興味を示さない場合もあるわけです。プロダクトに関するリサーチを行う際には、自分達にとってのアーリーアダプターを見極める必要があります。

エクストリームユーザーとはなにか

次に、エクストリームユーザーの説明に入りましょう。エクストリームユーザーとは日本語にしてしまうと極端なユーザーでしょうか。

エクストリームユーザーを対象にしたリサーチの例としてはキッチンツールに関するリサーチがよく取り上げられます。キッチンツールは多くの場合、主婦がメインのユーザーであると考えられています。メインのユーザーが主婦だとした場合に、メインでは無いユーザーとはどのような人達でしょうか?様々な軸から解釈する事ができると思うのですが、スキルや経験という軸で考えると、主婦より料理経験の少ない人や、主婦より料理経験の多い人が該当します。例えば、そもそも料理経験をしたことがない子供だったり、毎日何時間も料理をしているようなレストランのシェフが該当しそうです。

デザインリサーチでは、メインとなるユーザーだけではなく、メインから極端に距離のあるユーザー、つまりエクストリームユーザーを対象に含めてリサーチする事があります。この目的としては、インスピレーションやインサイトを得たり、一般ユーザとの違いを明らかにしたり、ユーザーのニーズを浮き立たせたりなど様々なものがあります。

前述したキッチンツールの場合で考えますと、子供、主婦、シェフの間にはどのような違いがあるでしょうか。例えば、キッチンツールを子供に使用してもらうことによって、仮にその子供がキッチンツールをうまく使えなかったとしましょう。大人と子供の違いは色々ありますが手が小さいとか、握力が弱いという点は挙げられます。こういった発見から、既存のキッチンツールは握力が弱い人には使いにくいのではないか?という推論を導く事ができます。こうした問題は子供に限らず、握力が弱い人やお年寄りにとっても共通している可能性がありますし、そもそも一般的な握力の主婦であったとしても、今より軽い力で使用できるキッチンツールがあれば喜ばれるのではないか?と考える事ができます。もし子供を対象にリサーチしていなかったら、キッチンツールを使用するにはある程度の握力が必要なのは当たり前で、そこに改善の余地を見出すことはなかなか難しいのではないでしょうか。こうしたインサイトは新しい製品を生み出す上で、あるいは既存製品を改良する上で有用なヒントとなるでしょう。

一方でレストランのシェフの場合は家庭のシェフに比べて効率、つまり料理を短時間で仕上げたいという要求があります。効率よく仕事ができれば、お客さんに対する料理人の数を少なくすることもできるでしょうし、お客さんを待たせることもなくなるでしょう。また、お客様の様子を伺いながらベストなタイミングで料理を提供するなども出来るはずです。このように、シェフにとって料理に対する効率が重要である点については想像に難くないですが、よくよく考えてみれば効率よく料理したいという要望は多くの主婦が持っているのではないでしょうか。このように、すべてのユーザーがある程度共通して持っているニーズであるが、表面化していない欲求をすくい上げるためにもエクストリームユーザーを対象にしたリサーチは有用です。

メインターゲットとなるユーザーへのインタビューを行い、ペルソナを作る事によって典型的な想定ユーザーを可視化することはこれはこれで重要ですが、ペルソナなどを通して典型的な想定ユーザーを作り出すという事は、回帰直線を引くことや、モデルのフィッティングに近いのでは無いかと感じています。

つまりひとつひとつのデータには様々なイノベーションの可能性を含んでいるにも関わらず、それらを点群として捉える事によって、だいたいこんな感じの線になるよね、と考えてしまう事に近いのではないかと。そういった意味でエクストリームユーザーへのリサーチは、ニーズの増幅装置のようなイメージを私は抱いて居ます。

おわりに

エクストリームユーザーを巻き込んだリサーチは大変有用ですし、面白いのですが課題もあります。ひとつは、そんなに簡単にエクストリームユーザーが見つからない場合があるということ。エクストリームユーザーへのインタビューが大事らしいぞ!やるぞ!と意気込んでもその対象者が見つからなければ仕方ありません。

前述したキッチンツールの例で、子供やシェフであれば見つけるのは難しくないかも知れませんが、オーガニック食品しか口にしない食に大変なこだわりのある人だとか、鍋や皿や調理器具どころか冷蔵庫やコンロなど一切の調理関連器具が家に無い人など、インタビューの対象としては大変興味深いのですが、果たしてどうやって探せば良いのでしょうか。

また、エクストリームユーザーは通常のインタビューのなかで、突如として現れる事があり、登場を予測することが難しいという点もリサーチを困難にする一因でしょう。私の経験では、1つのテーマについて10人ぐらいデプスインタビューを行うと、そのうちの1人ぐらいは、我々が予想していなかった使い方をしている場合があります。しかしながら典型的なユーザーのモデルを作る/ユーザの行動を理解するという目的からすれば、1つのテーマについて10人にインタビューできれば十分な場合も多く、エクストリームユーザーを探すためにそれ以上のインタビューを行う価値があるのかは考えなければなりません。

以上、少々長くなってしまいましたがエクストリームユーザーへのリサーチをデザインプロセスに取り入れ新たなインサイトを得るための一助になれば幸いです。


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