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バイリンガルへの道5

私が住んでいたコロラドはザ・中西部。子どもの頃に好きで見ていたドラマ『大草原の小さな家』(原題:Little House on the Prairie)に似た風景が広がっています。

特に南部は平原ゆえ、あちこちに大きな牧場があり、カウボーイ、カウガールがたくさんいました。Marie & Duane夫妻が仲良くしていたとある家族も、町の中心部から車で1時間以上離れた草原のど真ん中で巨大な牧場を経営していました。

この牧場には何度もお邪魔して、リアルな牧場生活を垣間見ることができたのですが、自分でカッテージチーズを手作りしたときの驚きは今でも覚えています。あまりに簡単で「これだけ?」と。

ある週末、M&D夫妻とこの牧場に遊びに行ったのですが、草原のずっと向こうに嵐っぽい雲が見えたので、急いで自宅に帰ることにしました。コロラドの平原では遠くの雨雲や竜巻が見えるので、雨雲の場合は風向きを考慮して判断します。

牧場を出て30分ほど経ったところで空がみるみる暗くなり、私たちは「急ごう」と焦っていました。後部座席に座っていた私は、何の気なしにリアウィンドウを見ると、そこには地面から出てきたお月さまが、リアウィンドウいっぱいに広がっていたのです。

これはMoon Illusion と呼ばれるものらしく、初めて見る巨大な月を大きな口を開いたままずっと見ていました。美しさもあり、荘厳さもあり、畏怖もあり……圧倒されるしかない状態でしたね。

途中で雨が降り出したとは言え、土砂降りになる前に自宅に到着して、3人ともほっと一安心。

こんなふうに、コロラドでの生活は驚きの連続で、日本とは全く違う生活スタイルとものの見方の中で、心身ともに純ジャパから遠ざかっていました。ただし、これに気づいたのは帰国後です(笑)。

ここまでは楽しいことや良いことばかり書いてきましたが、実際に嫌な経験がほとんどありません。しかし一度だけ、私の代わりにファミリーが激怒する事件がありました。

ある日、Marla家族と誰かのお宅に昼食会か何かに呼ばれて行ったときのことです。そこにいた一人の老人が初めて会う私を指さして、突然「黄色い猿」と叫びました。

私は「まあ、そういう人もいるよね」的に無視したのですが、Marlaの旦那Robbieが怒って「彼女は黄色くなんかない。ほら、俺より白い」と私の腕と自分の腕をその老人の前に差し出したのです。そして「もう帰ろう」と全員でそのお宅を出ました。

帰宅後、Robbieは自分の家族が差別されたことにブチギレてしまい怒鳴ったことを私たちに謝ったのですが、それほど彼にとってこの老人の差別は許しがたかったのです。この一件で、私はアメリカ人が明らかな差別を感じたときの反応を初めて知りました。

その老人の差別が実体験に基づいたものなのか否かは知りませんが、少なくとも私を通して初めて日本を知った周囲の人たちからの差別は一度もなかったです。人種は違っても互いの理解が深まれば、人は差別しようなんて気は起きないのが普通です。

しかし、相手を卑下することで優位に立とうとする人も確実にいるわけで、そういう人は相手にしないのが一番と、私は思ってしまいます。

何よりも他者と自分を比べて、常に自分が上に立ちたいと思うこと自体がナンセンスです。能力は相対的にしか測れないとしても、人としての有り様は比較すべきものでも、競争すべきものでもなく、他者を思いやりつつ、互いにありのままを受け入れればいいだけ。

事実、コロラドのファミリーも私も、互いにそのままで受け入れていたので、誰でも実現可能なはずです。差別は不幸しか生みませんから。






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