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かおりのするもの《ショートショート》

診断メーカーショートショート
「謎は謎のままがいい」で始まり、「そう小さく呟いた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。
#書き出しと終わり
shindanmaker.com/801664

《かおりのするもの》
「謎は謎のままがいいでしょ」女はそう言った。薄い唇が弓のように弧を描く。場末のバーというやつだ。客は俺と目の前にいる赤を着たこの女しかいない。月曜の深夜はこんなものだろう。お互いの素性もわからぬまま意気投合して隣り合わせて飲んでいる。一応ここは馴染みなので、それとなくバーのマスターに彼女のことを目配せで問いかけたが初めての客のようだった。無理もない。ウィークデーのこんな時間に飲み明かしている男なんて「堅気じゃねえよなぁ」うっかりそう口走ってしまったが彼女は気にせずにグラスを傾ける。その横顔は陰りがあってどこか匂い立つように美しかった。
 数時間を一緒に過ごしただけでお互いを知りあった気になった俺たちはマスターに明け方の街に追い出された。
「始発までまだ時間あるわよ、どうするの?」まるで誘うようにおんなは栗毛色の髪の隙間からこちらを見る。少し飲みすぎたようになんとなく自分の足元がおぼつかなくなっていた俺は彼女にもたれかかるようにして狭い路地でくちづけを交わした。

その後もう夕方に差し掛かる頃だ。寝ている背中はしなやかで若木のように美しかった。背中の香りを楽しみつつ手をやると何か違和感があった。
(髭剃りしてないみたいじゃねぇか)俺は慌てて正面に向かせた。
「あれ?ようやく気づいたんだ」薄い唇はそう小さく呟いた。

ちょっとてっぺいちゃんの楽曲に寄せてみた
すみません

各地をお散歩して歩いでいます 小説家未満 自分の文体をきちんと向き合って作っていこうと思っています。