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連載小説 砂上の楼閣26

『最終話』

真冬の札幌は空気が張り詰めている。

街を往く人達は白い息を吐きながら、待つ人の元へと帰っていく。

ホワイトイルミネーションは最後の彩りに華を咲かせ、まもなく行われる雪祭りへと繋いでくれる。

清香と充は大通公園を歩いている。余りにも色んな事が有り過ぎたこの数ヶ月。いやこの10年を振り返っていた。

「少しは落ち着いたのか?」

充は、そんな筈はないと思いながら、在り来たりの言葉を掛けた。

『暫くは無理ね。』

それはそうだろう。

あのパーティーでの出来事。あのあと拳銃を取り出した河村は清香に向かって発砲した。

かつての誘拐について証拠を隠滅する為か?手に入らないと分かっての自暴自棄か?理由は良く分からない。

それに気づいた春彦は咄嗟に清香を庇って射たれた。最後まで彼女を守って。

河村は逮捕され、松永泰三も事情聴取を受けた。清香と充も同様に。

10年前の誘拐から今回の騒動に至るまでの全てが明らかになった。

松永泰三は社会的糾弾を受け第一線から退き、松永グループは事実上崩壊した。

『私はどうすれば良かったのかな?』

清香は、充へというより自分に向けて問い掛けた。

それを理解した充は黙って歩き続ける。

そして、その問いを自分にも投げ掛けた。

俺はどうすべきだったのか?どうすれば春彦を失わずに済んだのか?

ほんの少しの弱さを河村によって利用された。それをきっかけとして全ての歯車が狂ってしまった。

河村の口車に乗って拉致を止められなかった山上充。

拉致事件の真実や松永家の呪縛から目を逸らし続けた松永清香。

清香を守ることだけを愚直に貫いた諸井春彦。

それぞれが信じた未來は、どんなものだったのか?

それを思う時、砂漠で死期を悟ったものが有りもしない楼閣を目指すように遣りきれない。

二人の進む先にテレビ塔が聳え立つ。

「清香。今度迷ったらさ、ここに来よう。」

清香は首を傾げた。

充はテレビ塔を見上げ、

「ここから始めよう。」

二人は首が痛くなるまで上を見詰めた。

確かな目印を見つけたのかもしれない。




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