連載小説 砂上の楼閣25
『フィナーレ5』
何故ここに春彦が……。
会場は静まり返っている。
充は今までの事を振り返っていた。
なぜ春彦が自分と清香を近づけたか?
清香に10年前の事を悟らせ、もう一度人生をやり直すチャンスを与えたかったのでは?
それには真実を知る必要がある。充と河村の関係に気づいていた彼は、二人を引き合わせる事でそれに近付くと信じた。
思えば春彦はいつも清香を想っていた。
彼女とガソリンスタンドで出逢い、拉致現場に遭遇し、捜しだし、救出した。
きっとこの10年も清香の為に動いていたのだろう。
そして今日……。
不味い。止めなくては。
「そこにいる河村謙二は10年前、松永清香さんを拉致、誘拐した。」
春彦は、淡々と真実を話し始めた。
“ 河村!お前だったのか!”
松永会長が叫んだ。春彦はこめかみに充てた銃口に力を込める。
「松永会長も身代金の支払いを躊躇した。自分の保身の為に……。」
会場がざわつき始める。
“ 諸井!”
次々と明かされる真実に、河村は怒りの頂点にいる。
清香は春彦の直ぐ側まで来ていた。充は少し離れて様子を伺う。
『貴方が今まで守ってくれていたのね。』
清香は春彦を見詰めて言った。
『ありがとう。』
春彦は泣きそうな笑いそうな複雑な表情を浮かべた。そして、
「俺は……。もっと早くこうすべきだった……。」
「充の事も……友達だったのに……。」
「俺が悪いんです……。」
『違う。私がいつまでも先に進もうとしなかったから。きっかけは貴方達がくれたのよ。』
遠くで微かにサイレンが鳴っている。
『諸井君。もう止めて。もう十分だから。』
春彦は穏やかな表情で清香を見つめる。そして松永会長を離した。
会長に向けていた銃口を自分のこめかみに当てる。
『止めて!』
清香が叫び、充が駆け寄る。
春彦は清香を見詰める。……その後方に河村が。
春彦は清香に向かって走る。銃声が会場に響き渡った……。
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