あなたに殺されたかった

ある夜のこと
15歳年上の元カレから電話があった。
「俺達の関係性は何?」
即答で「セフレ」と答える。
私が19歳のとき10回も別れようと言ったのはどこのどいつだよ。10回目の別れようで私は分かりましたと答えたのにと思いながら話をする。
彼と離れたくて、だけど離れられなくて共依存の状態だった。

私が彼から離れようとすると彼は自殺未遂をした。病んだラインをしてきて、私の気を引こうとして引き止める。
その繰り返しに私も疲れていた。
そんな負のループから抜け出したくて逃げたくて、
新しい彼氏を作った。
彼氏ができたことを元彼に伝えたら、怒らせてしまったらしい。

彼は怒りに任せて私のアパートにやってきた。
助手席に乗り、車を走らせ、無言の中を過ごす。
無表情で、何を考えているか分からない元カレが怖かった。
きっと殺されるんだろうなと察していた。

以前に元カレは、カフェインタブレットを瓶ごと飲んで車にひかれにいって緊急搬送されたのち、カフェイン中毒で透析入院のあと精神科の閉鎖病棟で隔離された。
一度面会に行ったが、Facebookを見られて同室者がうわさ話をしていると言って興奮し、狂っている姿に恐怖心を抱いたのを憶えている。
症状が安定して退院したのち、実家療養中の彼に半月ほど寄り添った。

元カレはセックスが好きだった。性欲が強かっただけなのもあると思うが、きっとセックスをすることで愛し合っていることを確認したかったのだと思う。
私は求められたら求められるがままにセックスをした。だけどそこに私の心はなかった。

元カレが元気になってきた頃、私は静かに連絡の間隔を伸ばし、会う頻度も減らした。
もうこんな関係は終わりにしよう、そう思っていた時にタイミングよく仲良しの男友達に告白をされた。
悪い人ではなかったし、付き合うことにした。しかしこれがよくなかった。彼を怒らせてしまった。この場をどうおさめようかと考えたけど、いい案が浮かばない。
もはや、どうでもよかった。私も人生疲れたし。

海の駅に着いた。車から降ろされ海辺にいく。
彼は私の上に馬乗りになって、首を絞めた。
無表情で黒く濁った目と視線が合う。
心の奥で静かに深く沈んでいく。鈍麻した心。
父に殴られながら無感情になってたあのときの自分と同じ姿がそこにあった。
父に殴られながら、あのときも殺してくれって願ってた。
このまま彼の手で終わらせてくれるなら、死んでもいいかなと思った。
死ねるなら本望であった。
私が死んだら、彼にも死んでもらって、ふたりで楽になれたらそれが幸せなんじゃないかと思った。
共依存の成れの果て、共に死ぬのも悪くない。
意識が遠のく。これでやっと死ねる。そう思いながら意識失った。
意識を失っているとことを今度は頬を叩かれた。
「みほちゃん、みほちゃん」
そういって何回も私の名前を呼んだ。
意識が朦朧とする。夢か現実かもわからない。
「殺していいよ。もう人生疲れたし。」
そう答えたら今度は悲しい顔をして再び首を絞めてきた。
何度も意識を失っては起こされてを繰り返した。
結局殺されることなく、朝日が登り、アパートに帰った。
きっと私は彼から離れることはできないんだろうと思った。
洗面所の鏡をみると自分の顔、耳、首全体が点状出血で、見るに耐えない姿でぐちゃぐちゃになっていた。
この状態で仕事に行くとみんなに心配されるから、いつもよりファンデーションを厚めに塗る。
仕事に行く前に「どうして殺さなかったの?」とラインを入れておいた。

休憩時間に返信がきていた。
「みほちゃん、生きたそうに見えたから」
殺してくれてもよかったのに。
気持ちとは裏腹に、救わなければいけない命が目の前にあった。私はその日、乳がん手術の直接介助に入った。

このままではよくないということは自覚してた。
私が居る限り彼を不幸にしてしまう。
無責任に愛して、彼を傷つけてしまう。
私の存在が彼を苦しめてしまう。
私も彼に依存していたから、そろそろ自由にしてあげたかった。
このままだと彼を壊してしまう。

後日退職届をだした。アパートを引き払い、帰りたくなかったけど実家に戻った。

その後私は彼の前から姿を消し、連絡を絶った。
その後は彼がどうなったかは知らない。
共依存の成れの果て、抜け出せない洗脳が現在も残る。
良くも悪くも共依存は居心地が良い。だけど時にそれはお互いを壊してしまうことを知った。このまま一緒に居たら今頃心中していただろう。

ごめんね。大好きだったよ。
うまく幸せになってね。


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