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野良猫のアスタリスク

登場人物:
・主人公① 茅島 直(かやしまなお)
・主人公② 瀬原 藍衣(せはらあい)
・主人公③ 棚川 薫(たなかわかおる)
・葛城 圭太(かつらぎけいた)
・水島 麗奈(みずしまれいな)
・羽山 慎太郎(はやましんたろう)

あらすじ:
芸能事務所『オーロラプロダクション』が経営する歌手や役者、声優を目指す若者達のために造られた養成所『オーロラスクール』に通う茅島直・瀬原藍衣・棚川薫の3人…

この日も養成所のレッスンのために3人は養成所に向かっていた…

3人が養成所のフロントに着くと、そこにはマスコミの記者やカメラマンでごった返していた…

第一章:
ナオ・アイ・カオルの3人が養成所の前に着くと、そこは朝の通勤ラッシュかのように黒山の人だかりであった…

ナオ『ふぇ!?え?え?なに?』
アイ『なんだろねぇ…』
カオル『なに?なに?』

顔を見合わせる3人…

カオルが先頭を切って、黒山の人だかりを掻き分けて中へと入って行った…

その後を2人も続く…

やっとの思いでフロントまでたどり着くと、そこには一枚の張り紙が貼られていた…

ナオがその張り紙を読みはじめる…

ナオ『・・・!?』
ナオ『・・・民事再生法の手続き!?』
アイ『民事再生法って?』
カオル『それ…って…。』
ナオ『ある意味、会社が倒産したみたい…。』
アイ・カオル『・・・!?』
アイ・カオル『えええ!!!!』
ナオ『とりあえずここ出よう…』
ナオ『マスコミの人たちいるし…』
アイ・カオル『う、うん。』

3人は地下駐車場の隅にある、出入口から外に出た…

マスコミにつけられてないか後ろを気にしながら、小走りで歩く…

しばらく歩き近くの公園にやって来た…

ナオ『ふぅー…』
ナオ『もう大丈夫かな?』
アイ『うん…たぶん…』
カオル『誰も来てないぽい…』
ナオ『そう…よかった…』
ナオ『でさ…あたしたちはじめましてだよね?』
アイ・カオル『う、うん…だねぇ…。』

3人は照れくさそうに顔見合わせてはにかんだ…

ナオ『じゃ自己紹介でもする?』

2人に尋ねた。

アイ『いいよ…』
カオル『わかった…』
ナオ『よし!!じゃあたしからで…』
ナオ『名前は茅島直(かやしまなお)…ナオでいいよ…』
ナオ『将来、歌手になりたくて、あそこのボイスレッスン受けてた。』
アイ『次はわたしかな?』
アイ『名前は瀬原藍衣(せはらあい)…わたしは声優志望で声優養成コースに通ってた…』
カオル『最後にわたし…わたしは棚川薫(たながわかおる)…俳優目指して、俳優養成コースに行ってた…よろしく…。』

ナオ・アイ『よろしく…。』
アイ『これからどうしたらいいんだろう?』
カオル『うーん……。』
ナオ『とりあえずなにかしないと!!』

3人はしばらく考え込んだ。

ナオがふと時計に目をやると時刻は18時になろうとしていた。

ナオ『そろそろ行かないと…』
アイ『どこに?』
ナオ『路上ライブやってんだ〜』
アイ『ねぇー見にいってもいい?』
ナオ『え?う、うん…べつにいいけど…。』
アイ『カオルちゃんも行く?』
カオル『そうだね…べつに予定ないから行こうかな?』
アイ『よし!!じゃあ行こ〜う!!』

アイは2人の手を引っ張り駆け出した…

3人はナオがいつも路上ライブをやっている駅前のスクランブル交差点にやって来た…

アイ『ここでいつもやってるの?』
ナオ『うん…まあね…』
アイ『すごいねぇー!!』

ナオは照れくさそうに路上ライブをする準備をはじめる…

準備が一通り終わるとナオはマイクとスピーカーのスイッチを入れた…

ナオ『こんばんは!!』
ナオ『ご通行中の皆さん!!お仕事お疲れ様です!!』
ナオ『わたしは歌手になるために上京して、とある芸能事務所の養成所に通ってるナオっていいます。』
ナオ『いつもここで短い時間ですけど…路上ライブをやらせてもらってます…』
ナオ『今日もすこしですけど…よかったら聞いてください。』

ナオは2人が見てる目の前で曲を歌いはじめる…

街ゆく人流れはまるで川の真ん中にある岩を避けるかのように流れていく…

アイ・カオルの2人はナオを避けるかのように流れていく人をみながら虚しさを覚えた…

するとアイは意をけしたかのようにナオの横にスっと立ち、ナオの歌う曲にハモリだした…

それを見たカオルもナオがライブの機材を入れいたキャリーケースにまたがり、まるで『カホン』を叩くかのように曲にあわせてキャリーケースを叩きはじめた…

ナオは2人の顔を見て笑顔を見せる…

すると次第に街ゆく人の流れが止まりはじめ、3人を囲むかのように人だかりが出来ていた…

そこに1人の男が通りかかる…

その男は酷く酒に酔い、足どりも危なげに人だかりをかけ分け、ナオたち3人の前に陣取った…

ナオたち3人もその男と目が合いつつも、気にせず曲を歌う…

何曲かの歌を歌い終わり、休憩していると、その男が3人の前にやってきた…

男『なあーおい!!』
ナオ『はい?なんですか?』
ナオ『警察?ライブならもう終わりますから!!』
男『ふっ…ちげーよ!!』
男『まあいいや…ちょっと来い!!』

男はナオの腕をつかみ、どこかへと連れて行く、その一瞬の出来事にアイ・カオルの2人は呆気にとられつつも、荷物をまとめて2人の後を追った…

ナオ『痛い!!痛いって!!離して!!』

ナオは男に掴まれた手を強引に振りほどく…

男『ここ…』

男は目の前の建物を指さしそう言った…

ナオ『え?なに?』
男『お前らここで1曲歌え…』
ナオ『は?なんで?』
男『いいからいいから!!』

男はナオの背中を押し、中へと入っていった…

そこにアイ・カオルの2人も追いつき、中へと入っていく…

薄暗い階段を降りて、中へと入ると、そこは小さなライブハウスだった…

ナオ『ライブハウス?』
男『そう!!ライブハウス…』
男『ここオレのライブハウスなわけ…』
ナオ『てかさーあんただれ?何者?』
男『あ、オレ?』
男『オレは…葛城圭太(かつらぎけいた)…』
葛城『まあここの雇われ店長みたいなもんだな…』
ナオ『葛城…圭太…。』
ナオ『で?その葛城さんがなんの用なわけ?』
葛城『用?用があるのはお前らだろ?』
葛城『お前らはここで歌って、ここからデビューするんだ…』

そこに、アイ・カオルの2人が中へと入ってきた…

アイ『あの〜!!ここって…』
カオル『あのアスタリスクですか?』
ナオ『アスタリスク?なにそれ?』
アイ『伝説のロックバンドのアスタリスク…』
アイ『ママが追っかけをしてて、わたしも小さいときライブに連れていかれてて…』
カオル『伝説のロックバンド…アスタリスクのキング&クイーンのキングこと葛城圭太さん…』
カオル『その相方でボーカルのクイーンこと水島麗奈さん…』

そう言うと、カオルはカウンターの隅に居た、一人の女性を指さした…

麗奈『若いのによく知ってるわね…』
麗奈『圭太…また変な野良猫拾って来たの?』
葛城『え?あ…まあね…』
葛城『まあいいからこいつらの歌聞いてみろって…』

葛城は麗奈の肩を叩く…

ナオは不思議な顔して、2人の顔を見た…

アイ『ナオちゃん…やろうよ!!これチャンスだよ?』
アイ『葛城さんたちに認められたら、歌手デビューも近づくかもしれない!!』
カオル『うん!!わたしたちも手伝うからさ…』
葛城『さあ〜!!さっさとしろよ〜!!』
葛城『いちお一通り機材は揃ってるから、テキトーに使っていいから…』

ナオは納得がいかない表情を浮かべ、渋々と準備をはじめた…

葛城『さっき最後に歌ったあの曲でいいから…』
ナオ『はい…』

3人は見つめあい、呼吸をあわせる…

イントロが流れ出し、それを聞いた麗奈はハッとする…

麗奈『・・・!?』

麗奈が葛城の顔を見る…

葛城は麗奈の耳元でつぶやいた…

葛城『そういうこと…』
麗奈『でも…これって!!』

葛城と麗奈がそんな話をしてる間に3人は1曲歌い終えていた…

ナオ『あの〜…終わりましたけど?』
葛城『え?あ〜うん…まあまあってとこだな!!』
ナオ『まあまあって…。』
葛城『まあいいや、明日からお前らライブに出ろ…』
ナオ『は?ライブに出ろって…そんないきなり…わたしはいいとしても、2人は関係ないんだけど?』
アイ『いいじゃん!!やろうよ?ナオちゃんライブだよ?ステージにたてるよ?』
アイ『歌手になるチャンスだよ!!』
カオル『ナオちゃんの素質があるってことだよ!!』
葛城『やるのかやらないのか?はやく決めろ…』

アイ・カオルはナオの手を掴み、手を挙げた…

アイ・カオル『はい!!やります!!やらせてください!!』
ナオ『嘘でしょ?勘弁してよ〜!!』
葛城『はい!!じゃあ決まり!!』
葛城『明日からよろしく頼むわー』
葛城『今日はもう遅いし帰んな…』
アイ・カオル『はい!!』

第二章:
アスタリスクを出た3人は…とぼとぼと歩き出す…

そんな中ナオが口を開いた…

ナオ『ねぇーほんとにいいの?』
アイ『え?なにが?』
ナオ『あそこのライブに出るって話…』
アイ『うん…ほらもしかしたらライブに音楽関係者の人か芸能事務所の関係者の人とか来るかもじゃん?』
カオル『そーそ…大丈夫、大丈夫!!』
ナオ『そーかなー?』

2人の楽観的な言葉を半信半疑で信じつつも、どこか心配が拭いきれないナオだった…

一方の3人が帰った、アスタリスクの葛城・麗奈の2人は…

麗奈『ねぇ!!どういうこと!?』
麗奈『なんであの子が!?』
葛城『さあ〜どうしてでしょう?』
葛城『駅前でさライブしてたんだよ…』
葛城『はじめさはあのナオって子一人で歌っててさ…そこにあとの2人が飛び入りで入った瞬間…あの3人…化けたんだよ…』
麗奈『でも…あのナオって子、もしかしたら…』
葛城『そーかもしれないな…。』

アスタリスクの2人の意味深な会話をよそに、ナオたち3人は…

アイ『あのさ…おなかすかない?』
アイ『なんか食べない?』
カオル『たしかにおなかすいたね…』
ナオ『そだね…』
アイ『腹が減っては戦ができぬ!!』
アイ『よし!!明日のライブのために腹ごしらえじゃー!!』

アイの能天気ぶりに呆気にとられつつも、何故かナオは嫌ではなかった…

カオル『じゃあ〜なに食べる?』
ナオ・アイ『ん〜…』
ナオ『明日のこともあるし、ゆっくり話できるあそこでいんじゃん?』

ナオがとあるファストフード店を指さす…

アイ『OK!!』
カオル『いいよ!!』
ナオ『いこっか…』

ファストフード店に向かってかけ出す3人…

中へと入り、一通り注文しテーブルにつく…

アイ『はあ〜おなかすいたねえー』
ナオ・カオル『うん…』
ナオ・アイ・カオル『いっただっきまーす!!』

ナオの向かいに座ったアイはナオの首元から落ちたネックレスが気になった…

アイ『ナオちゃん…そのネックレスのトップ可愛いね…』
ナオ『え?あ、そう?…ありがとう…』
アイ『どこで買ったの?』
ナオ『ん〜これ買ったんじゃないんだよね…生まれたときから持ってたやつなんだ…』
カオル『生まれたときから?』
ナオ『うん…』

ナオはネックレスを首からはずし手に持ちながら、話はじめた…

ナオ『あたし実はさ施設で育ってさ…親の顔も知らないの…』
ナオ『22年前の冬に地元の養護施設の門の前に捨てられてたんだって…』
アイ『そうなんだ…』
ナオ『うん…でこれは、まだ生まれて間もないあたしの手に巻かれてたみたい…』
ナオ『そこの施設長の先生がこれはきっとあなたのお母さんの物だからずっと大切にしてなさい!!って言われて育ったんだ…』
カオル『そうなんだ〜…お父さんお母さんがいつか見つかるといいね…』

カオルにそう言われナオは表情を曇らせる…

ナオ『ん〜今は、見つかって見つからなくてもべつにどっちでもいいって感じ…』
ナオ『どんな事情があったかは知らないけど…あたしを捨てたのには変わりはないんだからさ…』
ナオ『あーでも、だからって恨んでるとかはないよ?誤解しないでね…』
アイ『そっかーわかった…』
カオル『うん…わかった…』
アイ『明日からがんばろうね!!』
ナオ・カオル『うん!!』
ナオ『よろしく!!』
アイ『やるぞー!!』
カオル『おおー!!』
ナオ『ちょっと!!恥ずかしいから!!』

3人のこの日はアスタリスクのステージに立ちライブをする事を決めたき記念すべき一日となった…

第三章:
あくる日の午後…
3人はアスタリスクの前に集まっていた…

ナオ『おはよう…』
アイ『おはよ〜』
カオル『おはよ…』
ナオ『行く?』
アイ・カオル『う、うん…。』

さすがにきのうのノリで曲を披露したのとはうって違って、アイもカオルも顔が強ばっていた…

階段を降り、中へと入ると…

葛城・麗奈の2人が居た…

葛城『お?来たな?』
葛城『バックれるかと思ってたんだけどなあー』
葛城『まあいいや、準備しな!!』
葛城『5時(17時)からリハ、6時(18時)オープン、お前らの出番はトリだから…9時半(21時半)くらいかな?』
葛城『出番以外の時間はお前ら3人はここの仕事をやってもらう…』
葛城『チケットのもぎり、ドリンク出し、機材のセッティングとかな』
葛城『じゃまあそういうことだから…よろしく!!』
ナオ『・・・はい…。』
アイ『いこっか…』
カオル『うん…』

慌ただしくライブハウスの雑用をこなし、あっという間に出番の時間となった…

そんな3人の元へ葛城・麗奈の2人がやってきた…

葛城『そろそろ出番だ、準備はいいか?』
ナオ・アイ・カオル『・・・。』

3人は葛城の言葉にコクリと頷くだけだった…

麗奈『大丈夫?やれるだけやってみなさい。』

麗奈がナオの肩を叩く…

ナオは麗奈を見つめ、頷いた…

ナオたち3人は揃って、ステージの中央に立った…

会場に集まった観客はトリがナオたち3人という事にざわめきはじめる…

そのざわめきの中、ナオがマイクのスイッチを入れ、口を開いた…

ナオ『こんばんは!!』
ナオ『はじめまして…』
ナオ『ざわめきますよね?わたしたちも心の中がザワザワしてます。』
ナオ『なんでこんなところにいるんだろ?って…感じです…』
ナオ『でも、今日のこの日はわたしたちに与えられたチャンスだと思って、一生懸命歌います。』
ナオ『聞いてください…。』
ナオ『小さな星の希望の光…』

ナオの合図でイントロが流れ出した瞬間…

会場はまたざわめき出した…

数十秒のイントロが終わりナオ・アイが歌い出した瞬間、それまでのざわめきは怒号にも似た喝采の嵐に変わった…

ナオたち3人はその喝采に動揺を見せる…

ナオ『(え?なに?これ?)』

ナオたち3人ははじめてのステージを観客の拍手喝采で終えた…

ステージ袖に下がった3人…

ナオは葛城の元へ駆け寄った…

ナオ『ねぇー!!どういうこと?』
ナオ『あの曲なに?』
葛城『あの曲?』
ナオ『わたしたちが歌った曲!!』
葛城『あーあれね…』
葛城『あの曲は…』

葛城が『あの曲』について話出すと、麗奈が口を開いた…

麗奈『ちょっと待って…あたしが話すわ…』

麗奈は控え室のドアを明け、ナオを向かい入れる…

第四章:
麗奈『ほら座ったら?』
ナオ『・・・は、い…。』

麗奈はナオの目をまっすぐ見つめ、話しはじめる…

麗奈『今から話すことはすべてほんとうの事…いいわね?』
ナオ『はい…。』
麗奈『ありがとう…。』
麗奈『あなたあの曲のタイトル知ってる?』
ナオ『タイトル?』
麗奈『そう…タイトル…』
ナオ『小さな星の希望の光?』
麗奈『そうねー…間違ってはないわね…でもそれは和訳のタイトルなの…』
麗奈『ほんとうのタイトルはアスタリスク…』
ナオ『え?アスタリスクって…』
麗奈『アスタリスクはラテン語で小さい星って意味があるの…』
麗奈『じゃあ、あの曲を作った人はわかる?』
ナオ『そんなこと知るわけないじゃないですか!!』
麗奈『そうね…いいわ…』
麗奈『あの曲を作った人は…』

麗奈はナオに真実を話さなければいけない、だが、ナオに話すべきなのか?

自問自答しても答えなど出るはずがなかった…

真実を知ったナオがどうなるのかと…

だが、真実を知る者として、話さなければならない…

麗奈は絞り出すかのように一人の女性の名前を口にした…

麗奈『わたしの姉の・・・茅島沙織(かやしまさおり)って人とあそこに居る葛城圭太の2人が作った曲がアスタリスクなの…』

麗奈は葛城の顔を見つめそう話す…

ナオ『かやしま…さおり…。かやしま…って?』
麗奈『そう…あなたのお母さん…なの…。』
麗奈『わたしとあなたは血を分けた家族なの…』
ナオ『え?なんで?…な…』

ナオの動揺は涙となって、溢れてくる…頬を伝う一雫…

ナオは頬の一雫を拭い、麗奈に問いかける…

麗奈『大丈夫?』
ナオ『じゃ…わたしの父親は?』

麗奈はナオのそのまっすぐな問いに、なにも言わず葛城を見つめる…

ナオ『ふッ…バカバカしい…そんなの信じられるわけないじゃない!!』

そう言うと…ナオは控え室を飛び出し、ライブハウスから出ていってしまった…

その一部始終を控え室の外で聞いていたアイ・カオルの2人はナオの後を追う…

葛城『いいのか?話して…』
麗奈『いずれは話さなければならないこと…』
麗奈『それが今なのよ…』
麗奈『今しかないの…』
麗奈『さおりを助けられるのはあの子かもしれないの…あの子にとっては酷な話だけど…』
葛城『そっかー…そうだな。』

第五章:
ナオの後を追ったアイ・カオルの2人がやっとナオに追いついた…

アイ『ナオ〜!!ナ、オ〜!!…ちょっと待って!!』
カオル『待って〜!!』

動揺のあまり夢中で走っていたナオも2人の声に気づき立ち止まる…

アイ『は〜…やっと追いついた〜!!』
カオル『疲れた〜!!もう無理〜!!』
ナオ『ご、ごめん…』
アイ『麗奈さんともう一度ちゃんと話したら?』
ナオ『話すことなんてないし…』
アイ『あるでしょ?ナオちゃんのお母さんのこととか…』
ナオ『う、うん…。まあね…』
カオル『戻る?』
ナオ『う〜ん…今日はいい…そんな気分じゃないし…』
カオル『そっかー…』

そう言うとナオはまたとぼとぼと歩き出した…

次の日、ナオはアスタリスクに居た…

麗奈『どう?気分は落ちついた?』
ナオ『いいえ…落ちつくわけないじゃないですか…』
ナオ『気持ちを落ちつかせるために今日来たんです…。』
麗奈『そうね…。で?』
ナオ『今、その人、わたしの母親だっていう人はどこでなにをしてるんですか?』
ナオ『・・・!?』

その名刺には、一人の医師の名前が記されていた…

ナオ『お医者さんの名刺?』
ナオ『これ…。』
麗奈『今から行ってみる?』

ナオがコクリと頷く…

麗奈『ちょっと車借りる!!』
葛城『え?あ、おー…』
麗奈『ついてきて…』

葛城の車に飛び乗る2人…

第六章:
車の中でも2人の話は続く…

ナオ『ほんとにかやしまさおりって人がわたしの母親なんですか?』
麗奈『ええ…そうよ。』
ナオ『なんで?』
麗奈『あなたのそのネックレス…』

ナオは首元に目を落とし、首元からネックレスを出した…

ナオ『これ?』
麗奈『そう…それ…。』
麗奈『そのネックレスはこの世に2つとない物なの…』
麗奈『元々そのネックレスは葛城がわたしの姉のさおりにプレゼントしたネックレスなの…』
麗奈『2人は中高のおなじ部活(軽音楽部)の先輩後輩で、家も近くて幼なじみみたいな関係だった…』
麗奈『それがいつしか2人は惹かれあい将来を誓いあうよになった…』
麗奈『いつかプロのミュージシャンになるために小さなライブハウスでステージに立ち歌を歌う毎日…』
麗奈『いつか有名になって、結婚しようって…』
麗奈『その証として、葛城はバイトしながら貯めたお金で小さな雑貨屋さんにあった、そのネックレスをあげたの…』
麗奈『その数年後、ライブハウスで歌ってた曲が音楽事務所の関係者の目に止まり、デビューが決まった…』
麗奈『デビューから数年後、お腹の中にあなたがいることがわかったの…2人は喜んだわ…これで結婚するチャンスだったもの…でも、まわりが猛反対…それもそうよね…デビューしてたった数年で赤ちゃん出来ました。休業しますじゃ…まわりが納得しないわ…』
麗奈『まだ若かった姉はお腹の中のあなたを堕ろすことができず、姿を消したわ…』
麗奈『そして、どことも知れない街の小さな助産院であなたを産んだ…』
麗奈『一週間ほどで退院した姉はそのままゆくあてもなくあなたを抱いて街をさまよい、辿り着いたのがあなたの育った養護施設なの…』
麗奈『姉は迷った挙句、自分1人ではあなたを育てられないとあなたの養護施設に置いていくことにした…』
麗奈『その時にいつかあなたのことがわかるようにとそのネックレスをあなたの手にまきつけた…』

麗奈は自分が知る得る限りのさおりとナオのことについて、すべてを話した…

嘘偽りなく、すべてを…

その真実はナオにとって酷な真実かもしれない…

しかし、今、すべてを打ち明けないと2人は一生、会えなくなるかもしれないのだから…

麗奈『どう?これがすべてよ…』

ナオの頬を一雫が伝うとナオは首を横に振った…

麗奈『そう?』
麗奈『それもそっか…』
麗奈『そろそろ着くわ…』

そこは郊外にある病院だった…

ナオ『ここ?』
麗奈『そうよ…あなたの母親がいる病院…』
麗奈『さあ、病室に行きましょ!!案内するわ…』

病院のドアを目の前にナオは立ちすくむ…

麗奈『どしたの?行かないの?』
ナオ『い、や…なんかいざ会うとなると足が…動かなくて…』
麗奈『大丈夫だからさ!!』

麗奈はナオの後ろへまわり背中を押し歩きだす…

外来受付横の階段を上り、ナオの母親が居るという病室に向かう…

階段を上がり、病棟の廊下を進み一番奥の病室に2人は立ち止まった…

ナオ『・・・301号室…』
ナオ『茅島沙織(かやしまさおり)…』
麗奈『入る?』
ナオ『・・・。』

ナオの顔が曇る…

と、そこに1人の医師が麗奈に声をかけた…

医師『あれ?久しぶりですね〜!!』
麗奈『え?あ〜どうも…』

麗奈はナオに医師を紹介した…

麗奈『あ…この先生は沙織の担当医の先生の羽山先生…。』

羽山は麗奈の横に居るナオに気づく…

羽山『羽山です…どうも…』
羽山『で、その子は?』
羽山『麗奈さんの娘さん?』
麗奈『そんなわけないじゃないですか〜』

麗奈は笑い飛ばし、病室に目を向けた…その視線を見た羽山は2人を別室に案内する…

羽山『・・・!?』
羽山『なるほどーそうですね〜』
羽山『そうだ…すこしお話したいことがあるので、場所をかえませんか?』

ナオと麗奈の2人は羽山の後ろをついて行く…

廊下を進み、病棟の談話室に入るナオたち3人…

羽山『どうぞ掛けてください…。』

それぞれイスに腰掛け、羽山が話を切りだした…

羽山『単刀直入にお伺いします。』
羽山『あなた茅島沙織さんの娘さんですね?』
ナオ『・・・。』

麗奈が頷く…

羽山『そうですか…』
ナオ『あの…あの人はなんで入院してるんですか?』

羽山は麗奈の顔を伺い、話をはじめた…

羽山『茅島沙織さん…あなたのお母さんは白血病です…』
ナオ『白血病…?』
ナオ『助かるんですか?』
羽山『骨髄移植をすれば…おそらく…。』
羽山『白血病というのは血液のがんと言われてる病気で、骨髄移植をすれば、助かる可能性はあります。』
羽山『ですが、骨髄移植をするにはHLA型の適合するドナーじゃないと骨髄移植ができないんです…』
羽山『HLA型の適合率は兄弟姉妹4人に1人(25%)と言われており、血縁関係のない人では数百人から数万人に1人の確率と言われています…』
羽山『親子間となるとその確率は数%と言われております…』
羽山『沙織さんの身内は妹の麗奈さんとあなたしかいません。』
羽山『沙織さん…あなたのお母さんを助けられる可能性があなたにはあるんです…』
麗奈『あなたの気持ちを考えるとこんなこと話せないんだけど、あなたしか居ないの…』
麗奈『あなたにはあの曲を見せてあげて…沙織と葛城…あなたのお父さんとお母さんが作ったあの曲を…』

麗奈の一言で気持ちの整理がついたのか、ナオはうつむきながらも静かに頷いた…

麗奈『ありがとう…』
羽山『では、明日にでも彼女の健康状態を検査して、その結果、問題がなければ骨髄移植の手術に入りましょう…』
麗奈『・・・はい、よろしくお願いします。』
羽山『わかりました。』
ナオ『よろしくお願いします。』
羽山『では、そういうことで…』

談話室から出る3人…

麗奈『ここまで来たんだから顔くらい見て帰れば?』
ナオ『・・・。』

麗奈はナオの手を握り、沙織の居る病室に向かう…

病室のドアをそっと開けると、そこは個室だった…

個室といっても4人部屋にベッドが1つあるだけだった…

沙織のベッドのまわりはカーテンで仕切られていた…

そのカーテンの中からは沙織の寝息が聞こえた…

麗奈がそのカーテンを開けようとするとナオが麗奈の腕をつかみ、首を横に振る…

ドアが開いた気配に気づいたのか、沙織が目を覚ました…

沙織『だれかいるの?』
麗奈『え?あーわたし、わたし…』
沙織『麗奈か〜どうしたの?』
麗奈『ちょっと様子を見に…』
沙織『…中入れば?』
麗奈『あー今日はいいわ…すぐ戻らないといけないから…』
沙織『そっかー…じゃまたね…』
麗奈『う、ん…またね…』

2人はそっと病室を出る…

麗奈『いいの?』
ナオ『うん…』
ナオ『寝てたみたいだし…起こしちゃ悪いでしょ?』
麗奈『あなたがいいならいいけど…』
ナオ『うん…大丈夫…だから…』

第七章:
ナオと麗奈の2人はナオのHLA型を調べるために病院に来ていた…

麗奈『大丈夫?』
ナオ『うん…』

2人は羽山の居る診察室へと向かう…

診察室のドアをノックする麗奈

麗奈『失礼します。』
羽山『おはようございます…』
羽山『すみません。こんな朝早くから…』
羽山『さっそくなんですが検査していきましょうか…』
ナオ『はい…。』

ナオの顔が緊張しているのがわかる…

麗奈『よろしくお願いします。』

看護師『検査室に案内するので、こちらへ…』

ナオは看護師の後をついて行く…

麗奈と羽山はナオの後ろ姿を見送りながらつぶやく…

麗奈『大丈夫かな?あの子…』
羽山『信じましょ…今は、今は、信じましょ…』
麗奈『はい…。』

ナオの検査は3時間近くに及んだ…

検査を終えて、ナオが麗奈の待つ待合室に帰ってきた…

麗奈『どう?大丈夫?』
ナオ『うん…まあ…』
看護師『羽山先生のお部屋に…先生がお呼びです…』

羽山の部屋の前…
緊張した面持ちでナオが立ち止まる…
麗奈も心做しか不安気な表情を浮かべる…

麗奈『失礼します。』

羽山の部屋のドアを恐る恐る開ける麗奈…

羽山『どうぞお入りください…』

ナオ・麗奈『はい…。』

羽山はナオに長時間に及んだ検査を労った…

羽山『ナオさん…検査おつかれさまでした。』
羽山『疲れたでしょ?』
ナオ『まあ…ちょっと…。』

麗奈が話を切り出した…

麗奈『それで先生…。』
羽山『検査の結果ですね…』
羽山『結論から言うと、ナオの健康状態に問題はありませんでした…この状態ならHLA型の検査にも耐えれるでしょう。』

2人は羽山のその言葉に安堵の表情を浮かべた…

羽山『これから、ナオには数日から一週間程度入院をしてもらい、HLA型の検査を受けていただきます。』
羽山『その検査でナオさんと沙織さんのHLA型が完全に一致もしくは一部一致すれば、骨髄移植手術となります。』

ナオ『はい…』
麗奈『よろしくお願いします。』
羽山『わかりました。では、今日ところこれで…』
羽山『受付で検査入院の手続きをお願いします。』
麗奈『はい。失礼します。』

羽山の部屋を出た2人…

麗奈『まずは一段落ね…』
ナオ『まあ…』
麗奈『受付にいきましょうか…』

ナオが頷き歩きだす…

第八章:
それから2,3日後してナオは手術のために入院した…

アイ・カオルの2人が葛城と一緒にお見舞いにやってきた…

アイ『こんにちはぁ!!ナオちゃんいる?』
ナオ『来てくれたんだ…ありがとう…』
カオル『どう?』
ナオ『ん〜入院ってはじめてだから落ちつかないね…』
カオル『そっかー…』

ナオは2人の後ろに隠れるかのように立っていた葛城に話しかけた…

ナオ『ねえー。』
葛城『おん?』
ナオ『ごめん…2人ともちょっとあの人と2人きりで話させてもらっていい?』

アイ『うん…わかった…。』
カオル『じゃ…』
ナオ『ありがと。ごめんね…。』

2人はナオの病室から出た…

病室に2人きりになったナオと葛城…

ナオが話を切り出した…

ナオ『あのさ…麗奈さんからひと通りのことは聞いたんだけど…』
葛城『お…そっかー…。』
ナオ『わたしの父親って?あんたなの?』

ナオは答えを急ぐかのように葛城に問いかけた…
葛城はナオのまっすぐな問いにどう答えようか躊躇し顔を曇らせる…

葛城『まあそうだな…こんな父親でガッカリしたか?』
ナオ『べつに…』
葛城『こんな形で再会ってのもバツが悪いな…』
葛城『愚痴の一つや二つ、ビンタくらいは予想してんだけどな…』

ベッドから体起こし、立ちあがりカーテンを開けた…

ナオ『そりゃ昔は言いたいことも山ほどあったし、目の前に現れたらビンタの一つや二つしてやろうって思ってたけど…ね。』
ナオ『今はべつになんとも思ってない…』
ナオ『ただこれから先、わたしのことを娘だと思わないで、あの人にもわたしが娘だと言うことも教えなくていいから…ドナーであることも…なにかもかも…』
ナオ『すべて終わったら、あなた達とわたしはなんの関係のない赤の他人…わたしの人生に関わらないで…』
葛城『わかった…』

葛城はナオの言葉をそのまま受け入れた…

今は恨んでないというナオの言葉とは裏腹に、ぶつけようのない感情がその言葉となったようだった…

それが自分を捨てた2人への復讐だったのかもしれない…

第九章:
ナオと沙織の移植手術当日…

ナオの病室には麗奈と羽山が居た…

羽山『ナオさん…体調はどう?』
ナオ『大丈夫です…』
麗奈『沙織に会う?入院してから一度も会ってないでしょ?』
ナオ『いい…べつに会わなくても…』
ナオ『あ、そうだ…移植手術が終わってもわたしがドナーだって言うことあの人に言わなくていいから…わたしが娘だってことも…』

麗奈はナオの言葉に驚き、後ろにいた葛城に目をやる…

葛城は静かに頷き、病室を出た…麗奈も葛城の後に続き病室を出た…

羽山『一般的にはドナーが誰かということは公表されないから…』
ナオ『そうですか…よかった…』
羽山『でも、ほんとにいいの?』
ナオ『はい…』

葛城と麗奈は病室から離れたところで立ちどまり、麗奈はナオの言葉の真意を葛城に問いただした…

麗奈『どういうこと?』
麗奈『ドナーであることも自分が娘って言うことも言わなくていいって!!』
葛城『さあ〜ね…』
麗奈『ドナーであることは言わないにしても、娘であることくらいは…』
葛城『あいつが言わないでくれって言ってんだからいいじゃん…』
葛城『そんなことより、沙織のところに行ってやれよ…』
葛城『そろそろ時間だからさ…』
麗奈『そうね…わかった…。』

麗奈は沙織の病室へと向かった…

沙織の病室の前に来ると麗奈は深呼吸をして病室のドアを開けた…

麗奈『調子はどう?大丈夫?』
沙織『うん…大丈夫。』
麗奈『よかったね…ドナーの人見つかって…』
沙織『うん…』

そこに羽山が回診にやってきた…

羽山『こんにちは…お加減はいかがですか?』
羽山『30分くらいしたら看護師が迎えに来ますから…』
沙織『はい…』
羽山『では、私はドナーのところにいきますので…これで…』

沙織は病室を出ようとする羽山を呼びとめた…

沙織『先生?ドナーの方はどんな方なんですか?』
羽山『うーん…詳しくは決まりで言えないですけど…20代の女性です。』
沙織『そうですか…その方によろしくお願いお伝えください。』
羽山『わかりました。ではこれで…』
麗奈『ドナーになってくれた人に感謝しないとね…』
沙織『うん…。』

沙織は静かに頷いた…

程なくして看護師が沙織を迎えにきた…

手術室へと入り、1時間半程で羽山が手術室から出てきた…

手術室の待合室で待機していた麗奈が羽山に駆け寄る…

麗奈『先生?手術は?』
羽山『無事終わりました。』
羽山『あとは、沙織さんの回復力次第です…』
麗奈『ナオのほうは?』
羽山『ナオさんも大丈夫です…もうすこししたらお2人とも出てきますよ…』
麗奈『ありがとうございました。』

羽山が立ち去ったあと、2人が手術室から出てきた。

麻酔で眠ってる2人が横たわるストレッチャーに近づき、2人の穏やかに眠ってる顔みて胸を撫で下ろす麗奈…

2人が病室に戻り、数時間後…

ナオが麻酔から目を覚ました…

ナオが目を覚ますとそこにはアイ・カオル、葛城の3人だった…

アイ『あ、起きた…』
カオル『え?あ、起きた!!』
アイ『ナオちゃん…大丈夫?』
ナオ『う、うん…まだよくわからないけど…大丈夫…』
カオル『よかった〜!!』

窓際のパイプ椅子に座る、葛城が目に入った…

ナオ『ねえ…なに黄昏てるの?』
葛城『え?あ〜どう?』
ナオ『うん…まあ…』
葛城『あ、そ…』
アイ『先生呼んでくるね…』
カオル『麗奈さんも…』

2人がそれぞれナオの病室を出る…

ナオが目を覚ましたおなじころ沙織も目を覚ましていた…

麗奈『どう大丈夫?』
沙織『うん…』
沙織『まだよくわからないけど…』
麗奈『先生呼んでくるから…』
沙織『うん…ありがとう…』

麗奈が沙織の病室を出ると、そこにアイがやってきた…

アイ『麗奈さん!!ナオが目を覚ましました!!』

アイがそういうと麗奈は咄嗟にアイの口を塞ぎ、目で沙織が起きていることを告げる…

麗奈『わかった…今行くわ…』

ナオの病室に来た麗奈がナオと顔を合した…

麗奈の顔を見たナオは…

ナオ『あの人は?』
麗奈『大丈夫…手術は無事に終わって、さっき麻酔から目を覚ましたところ…』
ナオ『そ、う…。』

麗奈から沙織の様子を聞き、どこか安心したかのような表情が浮かんで消えていった…

羽山もナオの病室にカオルが連れられてきた…

羽山『大丈夫ですか?』
ナオ『はい…まあ…まだ麻酔のせいかぼんやりしてますけど…』
羽山『しばらくは安静にしてください…』
ナオ『はい…わかりました。』
麗奈『それと先生…沙織も目を覚ましてます。』
羽山『わかりました。行きましょ!!』

麗奈・羽山の2人が沙織の病室に来ると沙織は麻酔のせいか、また、眠っていた…

麗奈『また、寝ちゃったみたいです…』
羽山『そうですね…またあとにしましょう…』
麗奈『はい…。』

最十章:
手術から二週間後、ナオが退院した…

しばらくして、ライブハウスの仕事にも復帰し、1ヶ月ほどすぎたある日…

葛城『よお!!』
葛城『体調は元に戻った?』
ナオ『まあだいぶ…』
葛城『そっかー』
葛城『あの曲さ…デモテープ作るから1回歌ってくんない?』
ナオ『は?なんで今?』
ナオ『アイもカオルも居ないし…』
葛城『お前1人で歌ってきたんだろ?』
葛城『いいから、いいから!!』

ナオは葛城の言葉に渋々と従い、準備をはじめた…

葛城『準備OK?』
ナオ『はい…。』

ナオの不貞腐れた返事を合図に葛城が録音機材のスイッチを入れる…

ナオの歌が終わり、スイッチを切った…

葛城『やっぱり、まあまあってところだな。』
葛城『まあいいや…ちょっと出かけてるくるから、あとはよろしくってことで!!』

その様子を見ていた麗奈がポツリと…

麗奈『まさかあいつ…』

葛城はそそくさと車に乗り込み、車を走らせる…

葛城が車を走らせた先は音楽関係者のところでも、音楽事務所でもプロデューサーのところでもなく…

向かった先は沙織の居る病院だった…

病院に着くなり、葛城は沙織の病室へと急ぐ…

沙織の病室の前に来ると、葛城は大きな深呼吸をしてドアを開けた…

葛城『よお!!』
葛城『調子どう?』
沙織『来たの?大丈夫…先生も順調に回復してるみたいだって…』
沙織『きっと、ドナーの人との相性がよかったかな?』
葛城『そっかー』
葛城『あのさ…そのドナーの人から病院に届いた物があってさ…』
葛城『その人歌手を目指して路上ライブしてるんだってさ…』
沙織『そう…。』

葛城はナオが歌ったデモテープを沙織に見せた…

葛城『早く元気になってください!!って…』
葛城『聞いてみる?』

沙織は微笑みを浮かべ、小さくコクリと頷いた…

葛城は病室にあった、古い小さなラジカセにテープを入れ、再生のスイッチを入れた…

テープが擦れるノイズのあとに聞きなれたイントロが病室に響き渡る…

そのイントロを聞いた沙織は驚いた表情を浮かべた…

数十秒のイントロが終わり、ナオが歌う『小さな星の希望の光…』がナオの声ともに流れる…

ベッドに横になり、目を閉じてナオの声を聞く、沙織の頬を一雫が伝い落ちる…

懐かしさに目を細め、短い時間が終わる…

沙織『こんな古い曲を若い人も知ってるんだね…』
葛城『そうだな…俺たちもまだまだイケるってことかもな!!』

沙織はくすりと笑った…

沙織『そうね…』

沙織は病室の天井を見つめ…呟く…

沙織『ドナーの人もあの子とおなじくらいかな?』
沙織『あの子も今年で22(歳)…どこでなにをしてるんだろ?』
沙織『わたしのこときっと恨んでるはずね…』
葛城『恨んでるかもな…自分を捨てたんだから…』
葛城『はやく元気になって長生きしてたら、いつか会えるときがくるよ…』
沙織『そうね…』
沙織『なんであの子…わたしなんかのためにドナーなんて引き受けたのかな?』
沙織『恨んでるなら、そのまま見殺しにしてくれたほうがずっと楽だったのに…』
葛城『沙織…やっぱり…』
沙織『当たり前でしょ?自分の産んだ子の声をわからないとでも思った?』

沙織はすべて察していた…

すべて察して、なにも言わず…

葛城『そうだな…』
沙織『あ〜あ会いたいなあ…』
沙織『ドナーじゃなかったら会えたかもしれないのに…』
葛城『あの子もあの子なり考えたことだから…』

第十一章:
沙織の体調も順調に回復したある日…

沙織の外出許可がおりた…

外出許可がおりた沙織たちが向かった先は、ライブハウス『アスタリスク』だった…

葛城『ひさしぶりだろ?』
沙織『うん…。』

沙織が中へ入ると…ステージには1人の若い子が立っていた…

照明が当たり、姿はよく見えないが1人の若い子が立っているのがわかった…

すると、まわりの照明が落とされ、まわりが薄暗くなっていくと…

照明はその子だけに当たり、姿が見えた…

沙織の目に入ったその子はナオだった…

沙織『・・・!?』

沙織は葛城の顔をみた…

その驚いた表情を浮かべる沙織の肩をそっとだく葛城…

ナオは葛城の見つめ合図をすると…

あの曲のイントロが流れ出した…

ナオの視線は葛城から沙織へとうつりかわる…

目と目が逢う2人…

2人の胸元にはおなじアスタリスクのネックレスが照明の光が反射して輝いていた…

そのネックレスが胸元で輝いていることこそ、2人が紛れもない親子だということを物語っていた…

ナオが歌い終わると、沙織はアスタリスクを出た…

その姿を目で追っていたナオだったが、アイ・カオルの2人に背中を押され、沙織を追いかける…

ナオ『あ、あの…。』

ナオの絞り出したかのようなか細い声に振り向いた沙織…

ナオは沙織の顔を見つめ、言葉が出ない…

いざ目の前にすると思考が停止したかのように口からなにも出なかった、あれだけ会ったときは、長年の恨み辛みをぶちまけてやろうと心に決めてたのに…

そんなナオの顔を見た沙織が口を開く…

沙織『ドナーの方ですよね?あなたのおかげで元気になりました。』
沙織『ありがとう…。』

ナオは沙織のその言葉に我に返り、歩みを進める沙織の後ろ姿に一礼をした…

22年前に別れた母娘が22年後、白血病患者と骨髄移植のドナーとして再会する…

運命のイタズラをまざまざと知った、夏のことだった…。

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