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不登校生が校外学習で思い出を作った話【教員】

今年度初めて学校の行事に参加した生徒の話。

僕は現在中学2年生の担任をしており、クラスには特別な事情を抱え学校に1度も来ていない生徒がいる。

もちろん僕は今年度 彼とは個別に会うことはあるのだが、彼は教室内で他のクラスイメトと過ごしたことはない。

彼には事情があるけれど、当然 心は中学生である。1月に彼と直接会う機会があったのだが、そのときの彼の思いは「全然友達としゃべっていないから、直接だれかと話がしたい」とのことだった。

「●●(彼の友達の名前)とかに電話してみたら?ゲームで通信をつないだりするのは?」と伝えてみたが、「もうすぐみんな3年生になって勉強が忙しくなると思うし、急に電話をするのもちょっと・・・」と言った具合に電話をすることをためらっていた。

彼には同じクラスに親友とも呼べる友達がいる。でも、その友達は毎日学校に行っているのに、自分は学校に行っていないという事実に、彼は引け目を感じていた。

■校外学習に行かへん?

2月の終わりに、学年最後のイベントとして、京都で班で分かれて散策する校外学習を企画していた。

僕は彼に「校外学習で京都に行くのだけど、参加しない?」と誘ってみた。
しかし彼は「いきなり校外学習だけ参加するのは、変だと思うし・・・」とためらった。当然の返事だと思う。

「校外学習は班で活動するから、大勢の人と会わないから心の構え方のハードルは低くなる。また京都までの行きのバス、帰りのバスには乗らず、現地集合し班のメンバーとだけ合流する形でもよい。2年生の間に楽しい思い出ができたら僕は嬉しい。ぜひ参加してほしい。」

「ありがとうございます。行けたらいきます。」と返事をもらった。彼も友達としゃべりたいという欲求はある。
その場に母もいたのだが、母も彼の背中を押してくれた。

■友達の猛アプローチ

班分けを考えるとき、彼と一番の仲の良い友達の●●を彼と同じ班にすることにした。また彼が学校に来れていない事情を知っている生徒が同じクラスに●●を含めて3名いたので、その3名も彼と同じ班にした。彼が少しでも前向きになるように準備をすることが僕の仕事だ。

僕は、●●に、「彼と話したんだけど、校外学習に行けたらいけますと言ってたよ」と伝えると、●●はとても喜んでいた。

「彼と久しぶりに会えるのか。会ったら泣きますよ笑」。そう答えた●●が、その日の放課後に、彼にLINEで、同じ班になったという報告と校外学習に参加してほしいという願いを彼にぶつけてくれた。

次の日、母から僕宛に電話がかかってきた。校外学習のはじめの集合場所と時間、持ち物などの概要を詳しく教えてほしいという要件だった。彼が友達の猛アプローチをうけて、前向きに校外学習に参加してみようと思ったのだという。

やはり友達の存在は大きい。友達の声は担任の声に勝る。
友達の声かけが、彼の心を動かしたのだ。

■当日の朝まで渋っていた

当日の7:30に彼の母に電話したのだが、昨日の晩から今この瞬間も行くことを渋っているのだという。

行くのは不安。行けなかったら これだけ友達や先生が声をかけてくれたのに申し訳ないという気持ち で揺らいでいたそうだ。前日や当日になったら急に不安度が高くなる現象だ。不登校生はこのパターンになることがものすごく多い。でもなんとか、母が彼に前向きに声をかけ続け、彼は勇気を出して一緒に京都に向かってくれた。

当日10:30に京都のあるお寺の前で現地集合することを母と事前に打ち合わせしていた。

彼の所属する2班には、バスを降りてから彼と合流する場所に向かうようにあらかじめ伝えており、合流するまで、僕は2班と一緒にいた。2班の生徒も初めて会う彼との対面をひかえてドキドキしていた。

■再開から解散まで

10:40ごろに彼と母が一緒に合流場所まで来た。とりあえず会えたことに一安心だ。

彼がはじめて班のメンバーを見て口にした言葉は「みんな、めっちゃでかくなってるやん」だ。彼の友達の●●は、彼と会った瞬間、彼の名前を呼んで抱きついていた。男同士のハグにちょっと感動した。

その後、はじめて会う生徒もいるので自己紹介を簡単に行い、僕はその場を抜けて生徒だけの班別活動をスタートした。

その後、僕は京都をうろうろしながらすれ違う班の写真を撮っていき、八坂神社で”彼の抱える事情が解消されるような”お守りを買った。彼が校外学習に参加したという事実と、参加した彼の勇気に対するプレゼントだ。

13:30ごろ清水坂あたりをうろうろしていた僕は、たまたま2班にすれ違った。班員としゃべる彼は笑顔だった。

ほんとに良かった。

こっそり彼にお守りをプレゼントし、2班の集合写真を撮ってから僕と班は別れた。

14:45ごろに彼と班のメンバーが別れ、班別活動は終了。母と合流し僕と彼と母の3人で校外学習を振り返り、班の集合写真を母のスマホに送信した。今日1日彼はすごく楽しかったそうだ。久しぶりにしゃべってとても嬉しかったそうだ。新しく友達もできた。彼にとっていい思い出ができて本当によかった。

同時に母親も喜んでいた。
息子に良い思い出ができたこと。
渋っていたが行って良かったと言ってくれたこと。つまり勇気を出したことが自信につながったこと。
友達や先生からサポートをうけて息子が参加できたという感謝。
息子が制服を着て友達と一緒に写っている写真を手に入れたこと。

学校に行っていない子供がいる親には悩みがたくさんある。体育会や音楽会など子供の成長を見ることのできた行事に行くことができなかった親たちだ。
担任である僕は、そのような親にも良い思いをしてほしいと思っている。

彼が来てくれて本当に嬉しかったし、●●を含め2班のメンバーには感謝している。みんな、ありがとう。




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