眠れない夜におすすめの。
時々、寝付きの悪い夜がある。
体も疲れて準備万端なのに、なぜか寝られない。
何回寝返りを打ってもしっくりこなくて、「明日も早いのになあ」と妙に焦る。その焦りで目はさらに冴えてしまう。
そんな時、昔から頼っているある習慣がある。自分の人生を生き直す妄想をするのだ。
生き直し始めるスタート地点はどこでもいい。生まれた時からでも、進路選択の時でも。
人生の岐路と思える時点に戻って、違う選択をした自分の人生を思い描く。
この妄想の中では私は神様になる。
常に未来から当時の自分を眺めていて、人生の、そして時代の正解を知っている。
この妄想癖は、中学生の頃から始まった。
同じ水泳部の同級生にいつもレースで負けてしまう気持ちをこじらせて、「あの子はスイミングクラブの選手コースに入るのが早かったから」と寝る前にいじけていた。
ふと考えた。
じゃあ、もし同じタイミングで選手コースに入っていたら? 同じ練習メニューで、同じコーチに指導してもらっていたら? 十分な基礎力で水泳部に入っていたら?
そうやって妄想に耽っているうちに、私の胸の詰まりは解けていって、いつの間にか眠りに落ちていた。
それから私は寝付けなくなると、理想の人生をつくり出した。
もっと勉強に真剣に取り組んでしていたら。もっと部活やバイトに一生懸命になれていたら。もっと就活で踏ん張れていたら。
もっと痩せていたら。もっとセンスのある人だったら。もっとお金持ちに生まれていたら。
自分でどうにかできたことも、どうにもできなかったことも、全部ひっくるめて何度も何度も人生をやり直した。
そしていつも、やり直し人生を完走する前に眠りに落ちていた。
子どもが生まれてから、この妄想癖を発動させる機会は極端に減った。
育児で疲弊して、寝れる時はすぐ寝るスキルが身に付いたからだ。
でも2歳差で産んだ2人目が4歳になって落ち着いた頃、久しぶりに眠れない夜が訪れた。
私は昔のように、目を閉じて自分の架空の人生を生き直した。
妄想で生きるもう1人の私は、"完璧な人間"だ。すべてが思い通りに進んで幸せそうに笑っている。
そうするうちに、いつも通り眠くなってきた。
まどろむ中で私はふと気付いた。
翌朝起きた時、私はふふっと笑ってしまった。
私は完璧な人生に満足して、安心して、寝てたのではない。ただつまらなくて寝てしまっていたのだ。
どれだけの理想を思い浮かべても、私はいつも寝てしまった。
なんのトラブルのない順風満帆な人生。嫌いな人も出てこない。自分の弱さやずるさ、理不尽な状況にも向き合わない。
だから痛みも後悔も、そして学びも気づきもない。悩むことも、悲しむことも、興奮することもない。
人生の深みを味わえない人生。
私は必ず訪れる眠気の理由を15年越しに理解した。
一度きりの人生に眠気を感じる暇はない。
だからこそ、眠れない日には妄想が効く。皆さんも寝付きの悪い日には、ぜひ。
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