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WDA限定研究会「ポスト・イット®︎ 製品をどう活用すればアイデア創発を促進できるのか?」【イベントレポート】

こんにちは。ミミクリデザインの松尾奈奈です。 

ワークショップでは、アイデアを出し合って、KJ法などで整序する手法が頻繁に用いられていますが、そうした活動においてポスト・イット®︎ 製品は今や欠かすことのできないツールと言えます
このポスト・イット®︎ 製品は、上記のような活動を行う上での手軽なツールとして便利な一方、研修やワークショップの場で使用方法や目的が曖昧なまま漫然と使われるケースも多いのではないでしょうか

そうした日々のモヤモヤを解消すべく、2018年4月7日、東京大学本郷キャンパス情報学環オープンスタジオにて、スリーエムジャパンの太田光洋さんをお招きし、「ポスト・イット® 製品をどう活用すればアイデア創発を促進できるのか?」という研究会を行いました。太田さんはポスト・イット®︎ 製品などのマーケティングを担当後、2016年からは顧客企業とのイノベーション活動のためのワークショップデザインとファシリテーションをされています。

ポスト・イット® 製品の基礎知識を知る

ポスト・イット®︎ 製品の様々なラインナップから、ワークショップで多用される強粘着ノートという、壁やホワイトボードに貼っても剥がれにくい特徴を持つ製品と、イーゼルパッドという「台紙つき粘着模造紙」について詳しい説明がありました。

その際、製品の特徴をワークショップでどう役立てていくか?について、

・強粘着ノートには黒のマーカーを使う
・イーゼルパッドにテンプレートを予め書いておいてワークに集中しやすくする
・対話型ワークショップでは強粘着ノートを数枚のみ台紙に貼って配る

など多数の使いこなし方が紹介されました。

これらは様々なワークショップで活躍している多くのファシリテーターの工夫をユーザーイノベーションとして捉え、太田さんが収集してきたものです。

創発型ワークショップの中でポスト・イット®︎ 製品の使い方を体験する

次に、デザイン思考をベースにした創発型ワークショップを通して、ポスト・イット® 製品の使いこなし方を体験しました。デザイン思考とは「共感」「問題解決」「創造」「プロトタイプ」「テスト」の5段階から構成される、創造的問題解決のための方法論です

各グループでの自己紹介で「日常生活におけるお困りごと」を披露し、最も共感を得られたものをテーマにしたうえで、“共感マップ”を使って、「お困りごとを感じているのはどんな人なのか?」「そのお困りごとはどんな状況で起こるのか?」など、具体的なイメージを膨らませていきました。

その後も数々の技法をご紹介いただき、実践していきました。例えば、ブレインストーミングと同じ自由連想法の仲間である“ブレインライティング”。A3サイズのシートにポスト・イット®︎ 強粘着ノートが12枚並んで貼られていて、時間内に一人ひとりが3つのアイデアをポスト・イット®︎ 強粘着ノートに書き、時間がくると隣の人にそのシートを回していきます。「どうすれば、(対象)を/で(目的)することができるだろうか?」という問いに対するアイデアを黙々と書きました。

また、出てきたアイデアを俯瞰して見るために、アイデアを抽象化したときに見えてくる二軸を抽出し、そのマトリクスによりアイデアを構造化する“ポジショニングマップ”の作成も行いました。

このようにして生成したアイデアから、各自が具体化させたいものを選び、プロトタイプとしてコンセプトシートを作成。自分のチーム以外の成果物の評価を行う“ギャラリーウォーク”を行い、最後に“YWT”(やったこと/わかったこと/つぎにやること)で振り返りをしました

本ワークショップでは、グループワークとして創造性を高めるために一つひとつの作業にタイトな時間制限が設けられています。たくさんのアイデアを出し合い、互いに評価し、プロトタイプをつくる、といったことを短時間で行うことが求められます。こうしたワークを通じて、ポスト・イット® 製品︎がアイデアの発散や整理の手助けになることを実感していた方が多いように感じました。

今回の活動から、ポスト・イット®︎ 製品は時間的制約を持たせるワークと相性が良いことや、アイデアをポスト・イット®︎ 製品に書き込むことで、声にして意見を主張することが苦手な人も、自分の考えを外に出しやすいという意見が出ました。

しかし、ワークショップや研修には様々な目的と形態が存在します。例えば、ワールドカフェなど対話を重視するようなワークショップでは、短時間でアイデアを発散させていくような活動は求められません。ポスト・イット®︎ 製品はどのような場面で有効なツールなのでしょうか

ポスト・イット®︎ 製品の可能性を探る

そこで次に、メインファシリテーターのバトンがミミクリデザインの和泉に渡され、本ワークを通して見えてきたポスト・イット®︎ 製品のポジティブな側面とネガティブな側面を議論することで、ポスト・イット®︎ 製品の新たな可能性を探りました

ワークを通じて、ポスト・イット®︎ 製品の「可視化・可動性によりアイデアの整序が容易である」「思考の発散を誘発する」などのポジティブな意見が多数ありました。また、「ポスト・イット®︎ 製品の利用はグループメンバーの主体性を促せる」という意見に関連して、「自分の考えを積極的には出さないけれども、俯瞰的な視点から大事な局面で発言することにより議論に貢献する人もいる。そうした人の関わりも“主体性”と呼べるのではないだろうか」という話も出るなど、“主体性とは何か?”という議論も盛り上がりました。

一方、今回のワークショップのようにプログラム設計が細かくなされ、手順を踏めば自然とアウトプットが出てくるようなワークの中、ひたすら“紙”に向き合う行為に“人間味の欠如”を感じたという声もありました。

こうしたメリット・デメリットについて一通り議論した後、ポスト・イット®︎ 製品の可能性に関しては、色のイメージ共有からグループメンバー個々人の持つ文化の共有ができるかもしれない、というアイデアの共有もありました。

まとめ

最後に、安斎と太田さんより本日の講座のまとめがありました。

安斎 ワークショップにおけるポスト・イット®︎ 製品の本質的な意義とは、参加者の思考や発言を“軽量化“してくれるコミュニケーションメディアであることだと感じました。話すのが苦手な人でも、意見が言いやすくなる。出した意見を手軽に移動し、整理がしやすくなる。ときには執着せず、捨てることもできる。そうした「軽さ」に本質があるのではないか。だから、本日のデザイン思考のプログラムのような、フレームワークを多用する実践にはとても相性がよく、ポスト・イット®︎ 製品を活用することで素早く効率的にアウトプットを出すことが出来ていました。
けれども、人間の学習や創発の過程は、必ずしもフレームワークで説明できるものばかりではありません。枠組みにおさまらない曖昧でドロドロとした構造化しきれない複雑な思考の過程とは、必ずしも相性が良いとは限らない可能性がある。また、LINEではなく電話や手紙で伝えたいメッセージがあるのと同じで、コミュニケーションの内容とメディアの選択は切り離せません。たとえば人生に絶望して自殺をしたいと考えている友人の悩みを、あまりポスト・イット®︎ 製品で整理したいとは思えない(笑)。ワークショップで実現したいコミュニケーションの内容や性質にあわせて、戦略的にツールを選び、活用する視点が重要だと感じました。

太田 ポスト・イット® 製品︎の活用のキーワードに“客体化”というものがあります。アイデアを言葉として書くことで客体化させる、これはファシリテーションの一つの技術です。今日みなさんの意見の中に「人間味がない」という言葉がありましたが、これはまさに客体化された結果なのかなと聞きながら思いました。
ご体験いただいたワークショップデザインには4つの目的があり、「方法論・技法を知る」「ファシリテーションを知る」「ポスト・イット® 製品︎の使いこなし方を知る」「ポスト・イット®︎ 製品の物理的な情報を知る」となっています。今日はポスト・イット®︎ 製品の使いこなし方を中心にお伝えしましたが、技法やファシリテーションに関しても色々コメントをいただけたので、私自身も大変参考になりました。ありがとうございました。

※3M、Post-it、ポスト・イット、Meeting Solutions、ミーティングソリューションは3M社の商標です。

参考

3M ミーティングソリューションTMガイドブック
https://www.mmm.co.jp/office/post_it/meetingsolution/pdf/ms_guidebook.pdf

執筆・松尾奈奈

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