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無料の三笠と無料のイチゴ

ある和菓子屋で手土産用のお菓子を買った際、「販売日が昨日の三笠饅頭です。早めにお召し上がりください」と店員さんが一つ三笠饅頭を無料で付けてくれた。

その三笠饅頭には紙の帯が付けられていて、無料で提供することについての説明が書かれていた。
「今までは、販売日に売り切れなかった物は焼却処分していたが、食糧不足で命を失う人がいる国もあるなかで、まだ食べられるものを処分することは大変心苦しいことであるため、無料で配ることにしました」といった内容だった。

国産小豆と国産小麦100%というこだわりの材料を使った三笠饅頭。賞味期限まではまだ何日もあった。これを今までは焼却処分していた、ということにまず驚いた。なんてもったいないことを。自分たちが一生懸命作ったもの、しかもまだ十分おいしく食べられるものを、処分するとは。
そしてまた、販売日が過ぎたものを配る理由を説明するために、わざわざ紙とインクを使うことも無駄ではないだろうか。

また、別の日のこと、実家からイチゴをたくさん分けてもらった。知り合いの農家の方が、出荷をした後にまだ残ったイチゴをただで分けてくれたのだという。
この農家さんのイチゴは有機栽培で作っており、東京のデパートなどに出荷しているという高価なものだ。
出荷できないイチゴとはいえ、味は出荷するイチゴと何ら変わらない。むしろ、小ぶりで甘みが凝縮され、出荷品よりおいしいかもしれないと私は思っている。そんなイチゴをたっぷりいただいた。

イチゴをいただきながら、三笠饅頭のことを思い出した。
このイチゴは売れないから捨てる、という発想は農家の方には無かったに違いない。むしろ、丹精込めて作ったイチゴなのだから、売り物にならないイチゴであってもおいしく食べてもらいたい、という気持ちから分けてくださったのだと思う。
もちろん、捨てるのはもったいないという気持ちもあっただろう。しかし、それだけでなく、農家の方の自分の育てた作物へのプライドでもあるだろう。
「お金に換えるためだけに作っているのではない、おいしく食べてもらうために作っているのだ」という。

三笠饅頭を作っている会社のエライ人達が、賞味期限が切れてもいない三笠饅頭を処分することが、もったいないことだと気づいてくれたのはうれしい。
同時に、三笠を捨てることは「おいしいお菓子を楽しんでもらうために作る」という自分たちの菓子作りのプライドを捨てることだ、ということにも気付いてくれているといいなと思う。
それと、説明が入った紙の帯はいらないんじゃないかな。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!