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髪を染めてもらうかわりに愚痴を聞くヘアカラーの香が溶けていく夜

明後日は娘の入学式 自分ではうまく染められない髪染めを夫に頼む 髪を染めてもらう間は動けないから 今とばかりに職場の愚痴を話し始める夫 いつもはうんざりした顔をしているだろう私も 髪を染めてもらっているから逃げられないし 髪染めのお返しもあって「うんうん」とおとなしく聞く 狭い洗面所にヘアカラーの香りが満ち始め夜に溶けていくようだ

    • 取り壊し終わった土地の片隅で肩よせて咲く水仙の花

      古い家が取り壊されて 広い更地が広がっている 何も無くなった空間 その端に 肩を寄せ合うように咲く 水仙の花の群れが見えた 主人のいなくなった土地を うつむいて見つめる水仙たちは 何を思っているだろう

      • 紅梅の香りは優し春が降る枝から枝にメジロ遊べば

        立春を超え、梅の花が満開になり 甘く優しい香りが 枝の間を飛び回るメジロと共に 春を感じさせてくれる それはまるで頭上から春が降ってくるようで

        • 中学のチャイムを聞けば思い出すライトノベルのような初恋

          少女漫画を小説にしたような ライトノベルが図書室に置かれ始めたあの頃 少女たちの淡く幼い恋はライトノベルと繋がっていた 近くの中学校から聞こえてくるチャイムが あの頃へと私を誘う

        髪を染めてもらうかわりに愚痴を聞くヘアカラーの香が溶けていく夜

        • 取り壊し終わった土地の片隅で肩よせて咲く水仙の花

        • 紅梅の香りは優し春が降る枝から枝にメジロ遊べば

        • 中学のチャイムを聞けば思い出すライトノベルのような初恋

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        記事

          幼い日覗いてみた景色今もまだそこにあるビー玉の中

          ビー玉をつまんで向こうを覗いた小さい頃 あの頃見た懐かしい景色は 今もまだ心の中にある ビー玉を見ると あの景色が閉じ込められているのではないかと そんな気がして

          幼い日覗いてみた景色今もまだそこにあるビー玉の中

          君が今日無事で一日過ごすよう胡麻を擂る手に力を込めて

          お弁当を作りながら おまじないをかける 今日も良い一日を

          君が今日無事で一日過ごすよう胡麻を擂る手に力を込めて

          ありがとうあなたの形見我が指に祖母の笑顔が映る金剛

          母が昨日来訪し 先月亡くなった祖母が私に残してくれたと言って ダイヤの指輪を手渡してくれた 初孫だった私を誰よりも可愛がってくれた祖母の笑顔が 映っている気がした

          ありがとうあなたの形見我が指に祖母の笑顔が映る金剛

          祖母が逝き草刈るひとのなき畦に悲しき色の曼珠沙華さく

          祖母が逝き草刈るひとのなき畦に悲しき色の曼珠沙華さく

          朝と夕心の点滴ひぐらしの声が聞きたい猛暑の今夏

          実家で暮らしていた頃は 早朝と夕暮れ時には美しい声でひぐらしが鳴いた すぐそばの山から遠く近くひぐらしの声が 夏の日の始まりと終わりを彩って 目を閉じるとすーっと清涼飲料水を飲んだように 心が満たされた 一種の心の点滴のようなものだった 今の住処では 山は見えているのに ひぐらしの声は聞こえない 猛暑が続き 寝苦しい夜を過ごした寝不足の夜明けにも 仕事で疲れて帰った夕暮れにも ひぐらしの声は届かず 心は満たされない

          朝と夕心の点滴ひぐらしの声が聞きたい猛暑の今夏

          初夏が残した雨のなごり香を縫うように鳴く六月の蝉

          今年の六月初旬は大雨が降り まだそのなごりがあちこちに残る 空気さえまだ雨の香りを含んでいる気がするのに もう今夏初の蝉の声が聞こえてきた 今年も暑くなりそうだ

          初夏が残した雨のなごり香を縫うように鳴く六月の蝉

          「気いつけてとばさんよにな」隣人の声で始まる今日の一日

          毎朝、洗濯物を干しにベランダに出ると お隣のおばさんが 出勤する息子さんにかける声が聞こえてくる 「気いつけて とばさんよにな」 息子さんの返事は聞こえてこないけれど その後白い車で出勤していく 「気いつけて とばさんよにな」 いつも同じ抑揚でいつも同じリズムで 毎朝必ず同じ言葉をかけていることに気づいたのは いつだったろうか ここに住むようになって二十年 気づく前から多分 同じ言葉をかけ続けているのだろう おばさんもずいぶん歳をとった 背中が曲がり もうおばあさんという年だ

          「気いつけてとばさんよにな」隣人の声で始まる今日の一日

          眺めては袋に戻す思い出も賞味期限まで減らない土産

          修学旅行から帰った娘 お土産をたくさん買ってきて みんなに配ってくれた 試食をして美味しかったからと お菓子もいくつも 綺麗なパッケージに包まれたお菓子達 紙袋から出しては眺め また戻す 食べたら思い出も無くなってしまうと 思っているのだろうか このぶんだと 賞味期限までずっと減らないだろう 思い出のお菓子達

          眺めては袋に戻す思い出も賞味期限まで減らない土産

          触れるよな触れないような優しさで二重ガーゼのパジャマが包む

          二重ガーゼのパジャマを初めて買った 驚いた 肌に触れると柔らかく 触れていない時でもガーゼと体の間にある空気がほんのり優しい 暑くなく寒くなく 最適な温度で体を包む こんなに着心地が良いなんて これからはずっと二重ガーゼのパジャマにしよう ああ、私も大切な人にとって、こんな存在でいられたらいいな 付かず離れず そばにいるだけで心地よく 触れれば温かい そんな存在 二重ガーゼのパジャマが教えてくれた

          触れるよな触れないような優しさで二重ガーゼのパジャマが包む

          思い出を入れるスペース無くなった旅行カバンを詰め直す君

          もうすぐ修学旅行 コロナで小学校の修学旅行は県内だったけど 今回は東京へ行けることになって嬉しい娘 カバンに荷物を詰めてみると 思いの外いっぱいになり お土産を入れるスペースがないと もう一度詰め直している

          思い出を入れるスペース無くなった旅行カバンを詰め直す君

          目が合えば「何よ」と言いて意味もなくほおふくらます思春期の花

          今朝、何気なく顔を見ていると 「何よ?」と言う ほおをふぐのようにふくらませ 何やら不機嫌 どうかしたかと問うても 「別に」の一言 ああ、思春期の娘よ

          目が合えば「何よ」と言いて意味もなくほおふくらます思春期の花

          早朝に干したタオルはソーダ色薫るみかんの花の白さよ

          早朝に洗濯物を干しにベランダに出た 先日買ったばかりの ソーダ色のタオルを干していると 目の前のみかん畑から花のかおりが漂ってくる 目を向けると みかんの花がたくさん咲いていて その白さが輝いて見えた

          早朝に干したタオルはソーダ色薫るみかんの花の白さよ