見出し画像

「エントロピー」はマイ流行語大賞/「生命科学的思考」を読んで

高橋祥子さんの「生命科学的思考」。
とてもおもしろい本でした。

さまざまな価値観を再構成させてくれる本。
副題の「ビジネスと人生の「見え方」が一変する」が、まさにそのとおり、と思いました。

特に印象に残った2箇所を、記録もかねてご紹介したいと思います。

なぜ、私たちはいつかは死ななくてはならないのか P.17-22

(前略)
なぜ「死」という非連続性の創出が必要なのでしょうか。それは、生命が生きる環境が変化するからです。生命原則は、個体を取り巻く外界の環境が常に変化するものであることを前提に作られています。
 たとえば、地球の気温が現在のように温暖なのはたったここ1万年くらいの話で、それ以前は、氷河期時代のように気温が低いときもあれば、さまざまな要因で今以上に気温が高かったときもありました。環境の変化のスピードは大きく、一つひとつの個体が連続性を持ったまま適応するには限界があります。そこで、新しい生命を常に作り続け、来たるべき環境の変化に備えようとするのです。
(中略)
 個体の死は、このようにマクロに見れば生命原則に基づく生命活動の一部です。ときには一生懸命に変化し、壊すのも、生命が持つ大事な仕組みです。

とても腑に落ちました。そして、多様性に対する考え方の引き出しが一つ増えたと感じました。

たとえば、今の若い人の方がデジタルへの適応力は明らかに高いです。もしかしたら、これから生まれてくる人の方が、暑さへの耐性があるかもしれません。
私が仮に不死になってあと100年生きられたとしても、社会に適応できず、ストレスで生きていけないでしょう。
それほど、新しく生まれるという価値は大きい。

それから、病気に強い弱いがあったり、嗜好が多様であったり、もしかしたら障害も、人類という種が生き残るための戦略なのかもしれません。
もし今世界から光が消えたら、視覚障害の方の方が生き残る確率は格段に高いはずです。
障害があるということは、多様性の一つを引き受けてくださっているということなのかもしれません。私はこれまで、障害者の方を手助けすることは大切、という社会理念に従って、手助けしようという考えだったと思います。極端にいえば、単なる偽善です。でも、この本を読んで、人類が生き残るために大切な多様性を引き受けてくださっているのかもしれない、と考えたら、感謝の気持ちが湧いてきて、私ができることはなんでもしたいと思いました。
そう考えていくと、感謝こそすれ、差別なんてしようがありません。
私と違うものを見て、違うものを感じて、違うものに価値を見出す人がいるということが、どれほどパワフルなことか。

人類という種を残すという視点から考えてみると、誰かが生き残るということの価値があまりに大きすぎて、私の不安や悩みなんてちっぽけだという気持ちにさせてくれます。


もう一つが、エントロピーという言葉。初耳でしたが、すべてをエントロピーにあてはめて考えるととってもおもしろい。

人はいずれにせよ努力せずに生きられない P.128-138

(前略)
 ここで重要な「宇宙の性質」の一つ、「エントロピー増大則」について紹介しましょう。物理学では、乱雑さの程度を「エントロピー」という用語で表します。何もしないと次第にエントロピーが増大する方向に物事が変化することは宇宙の原則の一つで、これを「エントロピー増大則」といいます。
 たとえば、コーヒーにミルクを入れるとかき混ぜなくてもミルクが自然に混ざって均一になるように、基本的に一つの形状を保つことはこの宇宙にとっては不全なことです。コーヒーとミルクが分離されている状態は放っておくと維持できませんし、混ざった状態のコーヒーミルクを放っておいてコーヒーとミルクに分離されることもありません。
(中略)
 また、これは単純に身体を維持するという話にとどまりません。DNAのコピーミスでがん細胞ができるのも生命にとってのエントロピー増大で、戦争が起こるのも国にとってのエントロピー増大と言えます。そのエントロピー増大に対してエネルギー消費を伴った行動によって秩序を与えていくことで、DNAコピーミスの修復機構ができたり、国際政治によって戦争を回避できたりします。どんなに大きな企業であったとしても常に努力しないといけないのは、継続するためにはエネルギーを使って行動しないとエントロピー増大に巻き込まれて崩壊してしまうためです。

エントロピー、とても面白くて、今の私の流行語です(笑)。
戦国時代はエントロピーが増大していたのか、とか(笑)。
昔、「くりきん ナノアイランドストーリー」というゲームが好きだったのですが、突如それを思い出しました。キンとキンをシャーレの中で戦わせて、より浸食できた方の勝ち、というゲーム。
すべてはそういうことか、と思いました。

宇宙がそもそもエントロピーの増大を原則した世界で成り立っている。
私たちが宇宙の外で生きるなんて絶対にできません。
だったら、なんでエントロピーが増大してしまうんだー!?と考えている間に、なにもしなかったらエントロピーは増大するのだという前提で考えていってしまった方がいい。

そのために「努力」が必要なのだと、この本には書かれていました。
そうなのかもしれません。私も放っておいたら楽な方へ楽な方へと流されてしまうので、無理しすぎない範囲で、努力しながら、エントロピー増大にあらがっていこうと思いました。


あらゆる事象を、エントロピー増大則にあてはめて考えてみると、新しい視点が得られそうです。これからはまる見込み。
とても読みやすくて目から鱗の本で、おすすめです。







この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?