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【読書】生きるための糧


町田そのこ『ぎょらん』(新潮文庫)

人が死ぬ間際の願い。それを知る方法があるとしたら、あなたは知りたいですかーー。

この本には、大切な人の最期の願いを知ってしまったがゆえに苦しみ、
もがく一人の男性が登場します。
本のタイトルにもなっている「ぎょらん」とは、
人が死ぬ間際に残すとされる珠のことを指します。
その「ぎょらん」を嚙み潰すことで、
その人の最期の願いがわかるというのです。

主人公の朱鷺(とき)は、親友の「ぎょらん」を口にしたことで、
その内容に囚われ、日々「ぎょらん」の正体について追究します。

引きこもりから葬儀会社に勤めることになった朱鷺。
彼の根っからの生真面目さ、純粋さに周囲の家族や友人、
職場の人々の心も動かされていきます。
そしてその波は、巡り巡って朱鷺自身の心をも強く変化させていきます。

不器用な朱鷺が、無意識ながら周囲の人々の心に大切なことを
訴えかけ、彼ら彼女らの背中を押していくのです。
そして、朱鷺が苦しんでいる際には、今度は周囲の人が彼の背中を
押します。
一人で自分を変えたり、何か困難を乗り越えたりするのには、
ものすごくエネルギーが必要で、なかなか難しいと感じてしまいますが、
周りに人がいれば、その人から影響を受けたり、
言葉をかけてもらったりすることで、
案外簡単によい方向へ転換していけるのだと痛感しました。

「ぎょらん」とは、結局何なのか。
朱鷺の周りの人々を通して、それぞれに「ぎょらん」とは何なのか
それぞれに答えを見出していて、それぞれに共感できる部分がありました。死者の願いと言われていることもあって、
「ぎょらん」の正体を答え合わせすることは非常に難しいです。
ですが、分からないからこそ、人それぞれに解釈があっていい
と思えますし、
その解釈によって、この世に残されている私たちが生きる糧にできたり、
教訓にできたりするのかもしれません。

大切な人を亡くした経験のある方は、
読んでいて胸を締め付けられるような思いをするかもしれません。
それでも、読んだ後は、どこか救われたような気持ちになれる、
読んだ後の自分を少しだけ強くしてくれるような一冊です。

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