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米原万里『打ちのめされるようなすごい本』文藝春秋

前半が読書日記、後半が新聞のために書かれた短い書評。読書日記が断然面白い。

優秀なロシア語通訳としてこの人の名前は知っていたが、それ以上の知識はなかった。この本を読んで、この人の関心が広範にわたっていることに感心した。ロシアの政治についてはもちろんだが、日本の経済やアメリカとの関係、それから当時イラク戦争の時期だったのでそれに関する本もたくさん読んでいる。アメリカの属国のような日本の立場に憤慨したり、呆れて皮肉を言ったり。大胆な発言も多い。スケールの大きい人だ。それなのにホラーに弱かったというのがちょっとかわいい。

この書評を読んで興味を覚えた本も何冊かあってメモを取った。そのうち読もう。この人には本好きの友人が多く、いい本を読んだ人がすぐに彼女に電話して勧める。うらやましい。

読書日記の後半では米原さん自身に癌が発見される。抗がん剤治療のあまりの苦しさに、標準治療以外の道を探すようになる。いろいろな癌の本を読み、希望がありそうな治療を試すのだが、うまくいかない。わたしはこれまで癌を宣告されて代替医療に走る人のことを心のどこかで弱い人だと思っていた気がする。しかしこの人でさえ抗癌剤治療の苦しさに「死んだ方がまし」と思うぐらいなのだから、よほどのことなのだと知った。癌の治療本を書いた著者たちのクリニックを訪ねては希望を持ったり失望したり。自分の死を前にするとこの人でもそうなるのかと(軽蔑するとかでは決してなく)暗い気持ちになった。亡くなったときまだ56歳。どんなに悔しかっただろう。


(うちの古い物シリーズ。これは昔ドイツで買ったデザートグラス。表面の細かな模様は手で彫ってある。これを買ったときの店の人との会話もよく覚えている。懐かしい品。)


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