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『ヴンダーカンマー』

読んでいる間ずっと、口の中に血の味を感じていた。

フィクションを読むのは久しぶりだ。まして「怖い話」など、自分から進んで手に取ることは滅多にない。だが縁あってこちらの書籍を購入し、一気読みしてしまった。

「イヤミス」という言葉は知らなかったのでググってみたが、確かにこれはイヤミスなのだろう。最恐小説とのことだが、恐いというよりおぞましい。ねっとりと濃い血の匂いがする。ここでいう血とは、血液でもあるし、血縁という意味でもある。

意識のある状態で、自分の肉体から何かを取り出された経験があるだろうか。出産というのは経腟分娩でも帝王切開でも、まさにそういう状況になる。あのぬるりと生暖かいものが自分から出ていく感触を記憶から引き出された。夢野久作の『ドグラ・マグラ』や、京極夏彦の『姑獲鳥の夏』を読んでいる時の感覚に近い。

何を書いてもネタバレになるような気がするので内容には触れないが、ひとつだけ。「あとがき」で作者の星月渉さんが「いつか津山市が日本のメイン州と呼ばれるようになったら最高なのですが。」と書いているのを見てにやりとしてしまった。メイン州といえば、スティーブン・キング御大ではないか。日本なら横溝正史や岩井志麻子のような「土着ホラー」。その新たな書き手が生まれた瞬間に立ち会えたのだとしたら、この先が楽しみだ。

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