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加賀田は大阪府の南東にある河内長野市に来ていた。河内長野の隣にある富田林市の金剛ニュータウンで生まれ育ち、中学3年の夏に親の仕事の関係で関東に引っ越しをしてからは、名古屋の中学に転校後、高校、大学に進学した。だが就職活動が思うようにいかず、結局、親戚のツテを利用する羽目になり、河内長野市にある企業に就職した。

「就職は希望通りではなかったが、面白い活動ができそうだ」加賀田は幼いころから親の勧めである弦楽器の演奏をしていた。最初は嫌嫌だったが、やがて指を巧みに操作して奏でる弦楽器の魅力にどっぷりとはまってしまう。
こうして、中学・高校と管弦楽部に所属し、一時は本気でプロを目指して音楽系大学を目指すもそこは挫折してしまう。だが弦楽器を弾くことをあきらめず大学では、オーケストラに参加して弦楽器を弾き続けた。

「アマチュアのほうが気が楽かも」そう思い、社会人になってからも市民楽団のようなところがないか探していた。それが就職先と同じ河内長野市にフィルハーモニックという楽団があることを知り、さっそく見学をすることにした。

とりあえず楽団に連絡して入団の前に練習風景を見るために、ラブリーホールという名前の会場に来た加賀田。「連絡した加賀田です」挨拶を済ませてさっそく客席から見学をする。指揮者は外国人で、フルートの奏者に厳しい指導をしているのが見える。「厳しいほうがいいに決まっている」さすがはプロを目指していた加賀田、その厳しい指導をむしろ好意的にとらえていた。

「あ、か、加賀田君?」練習が休憩に入った時、突然加賀田を呼ぶ女性の声がする。あ、あれ?しも、なんでここに」加賀田は驚いた。そこにいたのは幼馴染の下里がいたからだ。
「びっくりした。名古屋に行っちゃったと思ったから、なんで河内長野にいるの?」下里は懐かしそうな表情で加賀田に話しかけている。
「お前こそ、あれ?いつの間に!」加賀田は下里がフルートを持っていることに驚いた。それもそのはずだ下里は中学の時は古風なものが好きで、俳句やら短歌を詠んで遊んでいたというイメージがあったからだ。

「うん、加賀田君が転校してから始めたの」下里は意外なことを言う。だが下里が高校時代に付き合っていた同級生の影響で、フルートを始めたことなどは知らない。「結局、フルートにはまって、そのままずっと吹き続けていたら」
 加賀田は下里の変わりように驚いたが、久部入りに見た加賀田が本当に可愛い気がした。「下里もいるなら決めた。ここに入ろう!」加賀田は満面の笑顔でそう言った。
「いいと思う、加賀田君が来てくれたら私もうれしい」下里も笑顔で応じる。「そうだ、久しぶりに加賀田君にあったから短歌を詠もうかなぁ」下里はそう言うと、突然真顔になり短歌を詠んだ。

「フルートの 指を動かし 春の音に 奇跡のような 夢の再会」

(本文1168字)

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今回は趣向を変えて、こちらの春ピリカグランプリに応募を兼ねて短編小説を書きました。

そしてテーマは本日投稿した記事「河内長野フィルハーモニック」をモチーフにしています。

(物語の中には実在の自治体名や建物・団体名がありますが、内容は完全なフィクションです)

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