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思い出のちらし寿司

昨日は私の誕生日でしたが、私の誕生日は祖母の命日でもあります。
祖母、瑠璃子さんは書道と芸術と植物を愛するとても静かな人でした。

瑠璃子さんはとても料理が上手で、祖父もそれが自慢だったようです。
昔は仕事関係の会合なども、各家で持ち回りでやることが多かったようですが、みんなが美味しい料理が出てくるからと、祖父母の家でやりたい、とよく言っていたそうです。

瑠璃子さんは、人づきあいが苦手なわりに、人が集まってワイワイすることは好きだったようで、自慢の料理で祖父の仕事関係者をもてなしたそうです。
私は瑠璃子さんとは別に暮らしていましたが、家が近所だったこともあり、瑠璃子さんの料理を食べる機会は結構ありました。
瑠璃子さんの作るお料理はどれも美味しくて、私は大好きでした。

そんな瑠璃子さんのお料理で私が好きだったのは「ちらし寿司」です。
酢飯がそんなに得意でない私が、ちらし寿司を好んで食べることはほとんどないのですが、瑠璃子さんのちらし寿司だけは特別でした。
甘めのごはんに具材が品よく入っていて、上には細かな錦糸卵がかかっていて、いくらでも食べられる感じがしました。

私が、「おばあちゃんのちらし寿司が食べたい」と言うと、瑠璃子さんは、オホホと笑い、すぐに作ってくれるのでした。
「ちらし寿司できたわよ」と連絡を受けて取りに行くと、私が大好きだったアルファベットチョコも一緒に持たせてくれたものでした。

ある日、瑠璃子さんに、おばあちゃん、あのちらし寿司、どうやって作るの?と、聞いてみると、瑠璃子さんはいつものようにオホホと笑い
「これよ」
と見せてくれたのが『すし太郎』でした。
あの、当時サブちゃんのCMで、おなじみの…

…『すし太郎』だったんだ。
私は少なからずショックを受けました。
あの、お酢がツンとしない絶妙な味付け、上品な量の具材、あれは永谷園の技だったのか。
当時サブちゃんが歌っていた通り、瑠璃子さんは「あったかごはんに混ぜるだけ」を忠実に行い、その後彩りに錦糸卵をトッピングを…。
お料理が得意な瑠璃子さんがまさか『すし太郎』を使っているなんて思いもしなかったので、私は(そして母けいちゃんも)びっくりしました。

私が高校3年生の8月10日に瑠璃子さんは亡くなりました。
人が亡くなると、その人が作ったものはもう二度と食べられなくなるんだと知ったのが、その時でした。
あのぬか漬けも、コロッケも、お豆のごはんも、煮物も、瑠璃子さんがいなくなったら、もう食べられない。
どんなにお金を出しても、どこを探しても、瑠璃子さんの味はもう二度と食べられないんだ…
いや、待てよ。
『すし太郎』は、お金を出して、スーパーを探したらまた食べられるのでは…

でも、私はあれから『すし太郎』は、食べていない。




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