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海ドラマガジン【第83回】Netflixドラマ『エミリー、パリへ行く』フランスvsアメリカ、エゴ対決の行方

本日から5回連続で2021年度ゴールデン・グローブ賞のコメディ部門にノミネートされた5作品を紹介していきます。まずは、異文化の中で、自分流を貫くアメリカ人女性を描いたNetflixドラマ『エミリー、パリへ行く』です。


【海外ドラマファンのためのマガジン第83回】

『エミリー、パリへ行く』Netflix

『セックス・アンド・ザ・シティ』のクリエイター、ダレン・スターが製作し、もはやフィル・コリンズの娘という前提もいらない活躍ぶりを見せているリリー・コリンズ主演の恋愛コメディ『エミリー、パリに行く』。

アメリカ人がフランスで働くときに起こるであろう文化や考え方の違いを、1話30分ほどで分かりやすく表現していて気軽にサクッと鑑賞できるタイプのドラマです。

リリー・コリンズが演じるアメリカ人のエミリーが、パリのマーケティング会社で働く様子をモテモテすぎる恋愛事情と共に描いていきます。

オシャレな衣装や小道具なども駆使して、ファッショナブルなエミリーのかわいらしさ前面にアピールしつつ、恋のお相手にはタイプの違うイケメンを配置するという『セックス・アンド・ザ・シティ』を成功させたノウハウを活用して、若い女性層にアピールする内容になっています。


ただ、分かりやすすぎるストーリー展開が、ちょっとステレオタイプすぎるという意見も多くRotten Tomatesの一般ユーザー批評では58%という低めの評価を受けています。(IMDBでは7.1)

個人的な意見ですが、私もエミリーの恋愛ストーリーの進み方は、もう何べんも見てきた展開だなぁと退屈な印象をうけました。
でも、アメリカ人のエミリーが、フランスで働くという「異文化交流」のほうの展開に物語の発展性を感じたので全10話をコンプリート鑑賞しました。

異文化の中に飛び込んできたエミリーが、文化の違いとどう戦い、折り合いをつけるのかという部分に注目してみると、ここでも少しステレオタイプな描写は多いですが、フランス人とアメリカ人の考え方の違いを知るきっかけにはなったかなと思います。

例えば、エミリーは仕事で成功することを目標にパリにやってきていて、とても張り切って仕事をしていきます。
そのため、パリの会社内でも「認めてほしい」という承認欲求と自己主張が激しいのです。アメリカではそれが普通なんでしょうね。というか、そうしないと生き残れないのでしょう。

ところが、フランスでは、自己紹介で自分をアピールしただけで、「何で叫んでんの?」と言われたり、「仕事で成功したい」と同僚に笑顔で本音を話したら、「仕事が生きがいとか、人生の設計が間違ってるんじゃない?」と説教食らったりと、エミリーの個性とフランス文化というのは水と油なんです。

今回のゴールデン・グローヴ賞では、サプライズノミネートと言われていますが、この「文化のすれ違い」というこのドラマの格の部分を、GG賞の運営母体であるハリウッド外国人映画記者協会のメンバーたちが評価したのかなと思いました。

実は、今回のGG賞でコメディ部門にノミネートされた5作品のうち、4作品は異文化でのすれ違いを描いていると思っています。(1作品は日本未上陸)

おたがいに「正しすぎる」と思っている常識でも、文化が違えば真逆な意味になるということもある。ということを知っておくことは、これからのグローバルな時代には必要不可欠な条件のひとつなのではないでしょうか。

ただ、このドラマ自体には、ちょっと不満もあります。エミリーという女性のキャラクターが、見た目はかわいいのですが、中身がないように見えてしまうのがもったいないのです。

何か問題が起こっても、最終的に「かわいいから許されちゃう」という作り方は、ちょっと古すぎませんか?
もちろん、エミリーには発想力と度胸があるので、そういう面では魅力的な女性でもあります。でも、問題が解決された時の根拠が弱いというか、「結果オーライだったね」という場合が多すぎます。

彼女は、敵だらけのような状況下でも、くじけずにポジティブで自分らしくいることを貫くのですが、それはカッコイイんですけど、失敗したらやっぱり少しは落ち込むべきなんじゃないかな。
失敗から学ぶということが、一番人間を成長させると思うので、そういう面で、もっとエミリーにはピンチをじっくりと味わってもらいたいです。
だって、現実社会では、20代なんてのは、失敗の連続なんですよ。それとも、私のこの考え方のほうが古いのかな?
今の20代の人たちはみんな「わたし、失敗しないので」というスタンスなのでしょうか?

『セックス・アンド・ザ・シティ』の主人公キャリーは、どちらかというと失敗ばかりして、恥ずかしい思いもして、そこから学んで成長してきた女性なので、キャリーに比べるとエミリーは、完璧すぎるというか……。

異文化の中で生きると言うことに関しては、勝ち負けはないはずなのに、今のところエミリーの中では「いつも自分が勝っている」という状況なのが気になります。
自分を貫くという面では、ある意味アメリカ的ではあるのかもしれませんが、「郷に入れば郷に従え」ということわざの通り、圧勝せずに地味に勝利を勝ち取っていく謙虚な姿勢のほうが、現実的だし、ご当地になじむ近道なんじゃないかと。

日本人から見れば、アメリカ人もフランス人も自我が強いという印象なので、シーズン2では、エミリーとフランスの会社の同僚たちが、どうやって折り合いをつけていくのかが気になります。


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