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【毎週ショートショートnote】プロのバナナ①

とある青果店の前を通りかかった時の話。

「美味しいバナナの見分け方は知ってるかい?」

カップルで買い物に来ていた彼氏が、連れの彼女にそう言った。

「え?知らんけど」

彼女は興味のかけらもない様子でスマホを弄りながら適当に答えた。
私は明瞭な2人の温度差にちょっと笑ってしまった。
彼女の冷めた反応では南国のバナナは育ちそうもない。

「実は房の付け根が…」

その反応を全く気にせずに彼氏は説明を続けた。
その一方通行のやりとりはその後も続いた。
彼はふざけて話をしているわけではないのだが、自分の事ばかりしか見えてない、なんともナンセンスな話なのだ。

バナナオイルと言うスラングの英語がある。半世紀以上も前に廃れ始めた言葉なのだが、バナナの香りがするだけの名前だけ油という事で、ふざけた話やセンスのない話という意の俗用語が誕生したのだ。

彼女からの冷たい視線は、彼氏ではなく私たちをも凍てつかせる始末。

私は彼こそプロのバナナオイル売りだと確信した。


410文字
《参考》
・banana oil:不真面目な話、ナンセンス話
・油を売る:仕事を怠けて無駄話をする

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