後世に残したい東松戸病院周辺の環境
「松戸市立福祉医療センター 東松戸病院(以下、東松戸病院)」が、令和6年度をもって閉院することが決まりました。
松戸市としてはこの土地及び施設を売却する予定ですが、できれば民間の医療機関への払い下げを希望しています。
ところで、同病院を取り巻く自然環境がとても豊かで貴重なものであることはあまり知られていません。松戸市はもとより、周辺の東葛エリア内でも、最も価値ある自然環境が維持されていると言えるでしょう。
私は同病院の売却にあたって、周辺の環境維持に努めることを条件に含めるよう市に要請しています。その理由を説明するとともに、同病院周辺の状況に触れて頂こうと思います。
東京都の結核指定医療機関としてスタート
ここに病院が建設されたのは1941年のことです。始まりは、東京都による結核患者のための指定医療施設としてでした。その後、都から旧・厚生省に所管が移ることになります。
かつて結核は、感染力の強い伝染病として恐れられていました。そのため、当時は隔離施設として位置づけられており、人が生活する場所から離れた場所に建設する必要があったのです。
また、結核を治療するには、空気のきれいな場所が望ましいということもあり、さまざまな要件を満たす同所が結核指定医療施設の設置場所として選ばれた経緯があります。このようなことからも、東松戸病院周辺の環境が豊かであることが想像できるでしょう。
松戸市が都から払い下げを受けることに
1980年代に入って、国は他施設との統合を進めた結果、同病院が不要となりました。しかし、まだ耐用期間内であったため対応に苦慮します。そして、所在地である松戸市に、なかば押し付ける形で払い下げを迫ったようです。
当時、市はとても困惑したと言います。しかし、本市に対して優越的な立場である国に逆らい切れず、止む無く譲り受けることになりました。
国保指定病院である松戸市立病院を所有し、同病院特別会計も赤字であることから、譲渡を受けることは「大きなお荷物を背負うことになりかねない」との反対論も少なからずあったため、本市としても相当頭を抱えたようです。
同病院の払い下げを受ける理由を議会や市民に説明しなければなりませんが、そのときに打ち出した方針が、「慢性期に特化したセンター方式の医療機関としての役割」でした。そして1993年に、「松戸市立福祉医療センター 東松戸病院」として再スタートを切ることになったのです。
東葛台地の地層が豊かな自然環境を生んでいます
この東松戸病院の特徴であり最も素晴らしい点は、くどいようですが、優れて良好な自然環境に他なりません。
東葛大地の中でも比較的に高所に位置する同施設地盤は、薄い関東ローム層と、それを支える分厚い成田層によって構成されています。そして、長距離にわたって続く斜面にはさまざまな種類の木々が生い茂り、実に見事な原生林によって囲まれているのです。
斜面林のふもとには、湿地帯が広がります。粘土層である成田層が、雨水を吸収することなく、斜面に沿ってゆっくりと流水させます。地中に染み込まない雨水が表土つたって流れ落ち、斜面が常に湿気を帯びていることから、斜面輪が形成されます。それに加えて、斜面を伝って流れる雨水が、谷状の土地に溜まることによって形成される湿地帯が谷津田となり、美しい田園風景の基礎となるのです。
丘陵と緑が織り成す深い緑の景観は、何ものにも代え難い安らぎをもたらしてくれます。
斜面林にも谷津田にも、適度な水気を含んだ土壌があります。そこは、微生物や虫が生息するに打ってつけの環境です。そして、それらを捕食する昆虫や鳥類が集まります。さらには、夏は涼しく冬は暖かい、さらには獲物にも事欠かないため、小動物にとっても絶好の棲み家です。このようなサイクルが実現しているため、極めて良好な生態系が維持されています。かつては、生態系のトップに位置づくとされるオオタカも飛来していたそうです。
この情景と生態系こそが、みのわ信矢がここで公設医療を展開し続けてほしいと願う思う最も大きな理由です。
アクセスが悪いという誤解
東松戸病院を語るときに、よく「アクセスが悪い」と言われます。利便性が低いというイメージが強く根付いていることから、通院への抵抗感が拭いきれません。
公式HPなどによって示される、松戸市内各地からのアクセス方法は次のようなものです。
松戸駅からは新京成バスで30分ほど
東松戸駅からは京成バスで15分ほど
本八幡駅から京成バスで30分ほど
市川大野駅からタクシーで10分
こう見ると、便利な地域だとは言い難いかもしれません。
ところで、あるルートをたどれば、市川大野駅から徒歩5分程度で東松戸病院に行けることは、あまり知られていません。先述した同病院のホームページにこのルートは記載されていませんが、同病院の職員などは日常的にこの道順で通勤しています。
一部、民有地を通過しなければならないため、公立病院のアクセス方法としては明示しにくいのかもしれませんが、この順路を歩いてみると、東松戸病院がいかに優れた環境にあるかが、とてもよく分かってもらえるはずです。
そこで、市川大野駅から同病院までの最短ルートを、自然観察をしながら紹介しましょう。
市川大野駅からの順路
JR武蔵野線 市川大野駅から東松戸病院への順路は、次の図の通りです。
市川大野駅は、県道9号・船橋松戸線に面しています。改札口は南方面の1ケ所しかありません。東松戸病院は同駅の北東に位置するので、改札を出て反対方向へと歩くことになります。
まず改札を出ると、大通りが目に入ります。右に向かって歩くと、右手にコンビニと千葉銀行のATMが目に入ります。その先の小道を右折です(地点①)。
左手には緑が生い茂る丘陵地の斜面があり、右側には住宅地が広がります(地点②)。
この低地の住宅地がある場所は、かつては谷津田でした。農地としては豊かな土壌ではなかったため、電車路線の開発に合わせて住宅地として醸成されたもの。自然保護の観点からいえばもったいないとは思いますが、しかし地権者にもいろいろな事情もあり、し方ないと思うしかありません。
2分ほど歩くと、左手に幅の狭い階段が見えます(地点③)。
ここをターンするようにグイっと左折して階段を上ります。
森林の中につくられた階段を登ると、10段程度で坂道に変わります。やや勾配のある坂道は、高齢者や足腰に疾患やハンディキャップがある人には少しキツいかも知れません。
この階段と坂道の複合路を登りきると、少しだけ平らな道になります。
この道を進むと、こんどは傾斜を下って行くことになります(地点③と④の間)。
その傾斜を下った地点からの斜面林の眺めは、先ほどの森林と同様とても素晴らしいものです。手を加えられていないために、美観的には今ひとつと感じる人もいるかもしれません。一方で、それだけに豊かな生態系を感じさせる、生きた森としての説得力がそこにあるように思えます。
この環境こそが、結核や感染症などに苦しむ患者を包む、澄んだ、キレイな空気を生み出してきた根源です。そして、数々の鳥が飛来し、多くの生物が共存する裾野の広い体系を維持し続ける要因なのです。
慢性期医療には、特に終末期医療には、自分を振り返るための穏やかで静謐な時間を提供することは欠かせない要素だと、私は考えます。近年のホスピスや緩和ケア機能を備えた医療機関は、病室から美しい庭園が見えるように配置するような設計であることが多いそうです。そこには、自分自身が、自然体系と一体であると感じられるようにとの配慮があるといわれます。つまり、自然とともに生きているのだと思える工夫です。
この東松戸病院周辺の環境には、人工的にではなく、自然そのものとして形成されてきた奥深さがあります。そして、そのような環境は、これからの医療において極めて重要な役割を担うという思いが私には強くあるのです。
「ヒトの命も、生態系の一部だ。それを感じられる豊かな環境の中で医療を提供したい」
これは、昭和30年代前半、かつて上本郷にあった松戸市立病院を建設する際に打ち立てられた理念だと、市のOB職員から教えられました。この高塚新田の素晴らしい環境も、これからの本市での医療、特に終末期医療において大きな価値を持っていると確信しています。
いささか情緒的な文にそれてしまいましたが、病院までの道順に戻りましょう。
防空壕跡地も残っています
その低地からまた上り坂と階段が続きます。その坂を登りきると、そろそろ東松戸病院に到着です。(地点⑤)。
病院に到着する直前の斜面右手側を、注意深く見て歩いてください。最後の階段になる20mほど手前に、小さな半円形の穴があります。これは、戦時中の防空壕の跡です。 粘土層であることから、形が崩れにくく、非難所に向いていたのでしょう。
松戸市のこれからの医療の充実のために
最後の階段を上ると、ようやく東松戸病院にたどり着きます。
市川大野駅から、平均的な大人の歩き方で5分程度です。公式HPのアクセス案内と比較すると、かなり近いと感じるはずです。
この近道を紹介しながら、同病院周辺の環境について触れてきました。いかに優れた自然が残されているか、感じていただけたでしょうか?
人は、病気になり、気持ちが弱くなったときほど、自然について敏感になります。高齢化がますます進むこれからの社会において、豊かな自然に触れながら医療を受けることの重要性が高まるでしょう。
同施設をどのような機関が取得するのか分かりません。しかし、これからの本市の医療をより成熟したものとするためにも、この環境は絶対に後世に伝えるように努力していくつもりです。
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