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34年ぶりのドル高円安は米国にとって大惨事か

 米国のトランプ前大統領は、為替市場で34年ぶりの円安・ドル高水準を更新したことが、米国国内の製造業などに打撃になるとして「米国にとって大惨事だ」とSNSに投稿しました。確かに輸出額を伸ばしてきた米国にとって大きな問題かもしれません。輸出にはドル高はマイナス要因です。
 「愚かな人々には聞こえがいいが、製造業などには大惨事だ。彼らは多くの仕事を失うか、賢い国々に工場を建設するか、どちらかの対応を余儀なくされるだろう」と指摘しました。貿易赤字国の米国にとって、ドル高によって輸入額は目減りするのですからプラスなのではないでしょうか。製造業だけでみれば、輸入コストは抑えられます。しかし、この発言は輸出に偏った見方であり、雇用に大きい影響がある国内製造業を保護したいという視点です。
 そのうえで「私は日本と中国、さらにほかの国々にも制限を設ける。彼らが制限を破れば、地獄を見ることになるだろう」とも強調しました。やはり、米国製造業に与える海外製品の輸入については関税をかけたりするということを示唆しています。守りたいのは米国の雇用であり、国内製造業であるということです。
 トランプ氏が大統領選で勝利した場合、ドル安誘導政策を導入することが議論されているようで貿易赤字の縮小を目指してドル安誘導を図る可能性が取りざたされています。そうなると円高になるのですから、日本企業にとっては円高に対処することも考えておかなければならないということです。
 円安で日本企業が恩恵はうそだと思います。実際、日本企業の利益率は欧米と比較して低くて問題になっているくらいです。為替の問題より収益力をあげる根本思考が問題であって、円安や円高でどういう恩恵があるかどうかはその時々の政治課題で優先するものは何かによって決まってきます。
 むしろ、中国製品のダンピングを恐れているのだと思いますが、中国もそこまではやらないと思います。為替によって自国製造業に恩恵かどうかという議論は本質ではないです。中国の過剰供給力が現在不況の国内より海外輸出に向いている結果、世界の国々で問題になっているのです。
 米国の利益を主導しているのは、先端技術で先頭を走る情報通信産業です。製造は台湾などに任せて、高い利益率を維持しています。今の米国の産業ポートフォリオは理想的で、ラストベルトにある産業の雇用維持で生産性の悪い国内製造業をどうするかを大統領選のための争点と考えているのが実態です。
 事実、日本において、円安で恩恵を受けているのは観光業です。外国人の訪日観光客数は過去最高を更新しましたが、円安が追い風になっているのは間違いありません。円安だから製造業にそれほどの恩恵が出ているとは思えません。一方で、円安がエネルギー価格の上昇を押し上げているのも間違いなく、賃金を上げても物価以上となるかは怪しくなってきました。製造業にとってはコスト高になるので問題です。小売業にとっても個人消費の行方、物価が大きく影響を及ぼすので懸念されるところです。ドル安になれば同じ問題が米国でも起きます。
 結局、現在の米国にとって大事なのは大統領選を控えて勝敗に大きな影響を及ぼすのは雇用の問題であり、それは国内製造業だということです。製造業は雇用にとって大きな役割を果たしています。米国国内製造業にとって敵となる要因をトランプ氏は為替だと思っているのでしょう。米国でもインフレ再燃の気配が出てきて、米国経済の堅調さに水を差すことにもなりかねません。ドル安になればさらにインフレに拍車がかかります。インフレ再燃なら利下げは遠のき、株価も上がりにくくなります。個人消費も低迷します。
 麻生氏がトランプと面談し、トランプ氏が大統領になった場合は想定しての動きだと思いますが、麻生氏は次の首相でも狙っているのでしょうか。対話できるだけの人脈を持つのは政治家として大事なことだと思いますが、日本も政治リスクがこの先、あると思います。決して自民党だから景気が良いということではありません。日本も衆院選に向けて考える時間がありますが、有権者がどのように判断するかが大切です。
 米国一強の世界経済と言われてきましたが、個人消費に陰りがみえ、第一四半期の実質GDPが減速、これからの企業業績に影響を及ぼす可能性があり、先行き不透明感が出ています。米国経済が揺らいでくるようであれば、世界経済への影響は免れません。トランプ氏のドル安誘導政策が有権者にどのように映るのか、争点に乏しい大統領選で雇用を争点にするのであれば、米国経済の先行きに大きな影響を与えるだけに大変注目されるところです。


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