最終週の最終日。

遅刻して来た学生が
言いました。

「先生、プリントください」

開始後15分程度で
毎回終わらせる課題です。

「お前バカだな。
　遅刻してきて今さらやったって
　もう成績にならないよ。

　とっくに成績なんて
　先生はつけ終わってるよ」

そんな風に友達に言われても
ちゃんと提出して来ました。

ああ、そうだな。
今年の学生は
最後の最後まで
プリントやオンラインの課題を
丁寧にやって提出しました。

「先生、課題の最後の締め切りは
　いつまでですか」

これは別のクラスで
聞かれた質問です。

「そうですね。
　出し忘れた課題を
　やりたい人は最後の日、
　水曜日までに出してくださいね」

こちらはもう成績を
つけ終わっているので
成績に関しては
足しにもならないのですが、

勉強は少しでも
ほんの1mmの進歩でも
やった方がいいからね。

今年の卒業生は
提出物の提出率が
とても高い学年でした。

コロナ禍前のこの学校は
入試倍率が5倍。
あのときの学生は授業に熱心で
素晴らしかったですが、

あなた達は倍率1倍。
だけど、5倍のときの学生より
よほど丁寧に課題を
出してきました。

きっと、授業が速いから。
私がゆっくり話しても
それにオンタイムで
日本語でことばの
キャッチボールをするのは
能力が高くないと難しいから。

それならせめて
自分のペースで出来る課題を、と
思ったのかもしれません。

知っていましたよ。

丁寧な字で毎回
プリントを書いていましたね。

欄外にまで
漢字の練習をしていました。

書きながら母国語の翻訳を
熱心に調べていましたね。

今年の2年生は
専門学校は3クラス受け持ちましたが、

うち2クラスは
とても静かでした。

質問しても
反応がなくてね。




無反応だから、
聞いていないから、
嫌だと言う教師も
少なからずいましたが、

※そんな先生は嫌ですね。

私は知っています。

よく見ればちゃんと
頷いてくれていたことを。

クラスでいちばんの
問題児だ、と言われていた貴方が
私がテレビに映したPC表示を
毎回じっと見ていたことを。

何も反応しなくて
冷たそうに見える貴方が
課題の点が素晴らしかったから

「上手ですね。簡単？」

って聞いたら、

急に赤くなって
年相応の顔で笑って
小さい声で言いました。

「はい、簡単です」って。

聞いていないんじゃない。
教師に冷たいんじゃない。

ただ、恥ずかしがり屋の
集団なんですよね。

教師が話しかけないから
話してくれない。

教壇でみんなに
話しただけだから
返してくれない。

一人ひとりに話かければ
可愛い反応を
してくれました。

貴女は私の授業で
提出するプリントには
名前の横にハートマークを
描いてくれましたね。

私、こういうの
大好きだから、
ハートマークを赤ペンで
それより大きく描いて返したら
それからいつも
ハートを描いてくれました。

ハートは貴女の
トレードマークね。

「先生、コンサートの
　チケット取れたよ。」

「先生、就職決まりました」

「先生、内定２つもらったけど
　どっちがいいと思う？」

全部、
「反応がなくて嫌だ」と
他の教師に言われていた
クラスの学生が
個々に私に話してくれたこと。

授業が終わるとね、
学生によっては
挨拶して、みんな帰ってから
また戻って来るの。

それで、私のところに来て
話してくれる。

恥ずかしかったんでしょう。
教師に話しかけている自分を
友だちに見られるのは。

反応がないのは
コロナ禍の弊害で会話能力が
伸びなかったから。

それに恥ずかしいと
思ってしまっていたから。

可愛い学生でしたよ。
品が良くて礼儀正しく
優しい子たちでした。

最後の日
私が机間巡視をしていたら、
そっと手にチョコレートを
握らせてくれましたね。

「先生。ありがと。」

こちらこそありがとう。
大事にしていましたよ、あなた達を。




やらなければならない
カリキュラムに追われて
上手くいかないことも
たくさんあったと思うけど、

大切に思っていました。

日本語学校を教えるのは
久しぶりでした。

2年生は2クラス。

初日から人懐っこい笑顔で
いろいろ話してくれました。

最初は英語や母国語も交えて
ゆっくりと。

最後の方は随分と
日本語が上手になりましたね。
遊んでいて全く上達しない
学生もいたけれど😆

中国語読みの
私の名前を
教えてくれてありがとう。

午後のクラスで
一番よく出来る貴方の
聴解能力には
担任の先生も交えて
本気で困っていたんです。

話せる、書ける、読める。
だけど、壊滅的に
聴解能力がない。
「お元気ですか」さえ聴き取れない。

これじゃ、日本語能力試験はダメだ。
外部の進学だって難しい。

でも貴方は
諦めなかった。
すごかった。
本当に、鳥肌が立ちました。

凄まじい進歩でした。
相当努力したんでしょう。

N2合格おめでとう。
自動車整備の専門学校も
合格しましたね。

努力の力は素晴らしいんだって
教えてくれてありがとう。

専門学校でも
日本語学校でも
あなた達に会えなくなるのは
とても寂しいです。

あなた達はいつでも
私の誇りです。

日本語学校の学生が
言いました。

「私は日本に来てから
　体重が40kg
　少なくなりました」

カラオケ屋さんで
夜勤でアルバイトを
している学生です。

9階まであるカラオケ屋さん。

エレベーターはもちろんありますが、
お客さまが乗るので
スタッフは使えないんですって。

それで、
ドリンクやフードなどの
注文が入るたびに
1階から最高9階まで
階段で急いで行くそうです。

「私は48時間
　一度も寝ていません」

それでもその日
授業中に一度も
居眠りしませんでしたね。

こんなに頑張っているあなた達を
誇りに思わない人なんていない。

いいえ、
頑張っているように見えなくても
外国で生活する、それだけで
とても大変なことを
私は知っています。

家族を国に残して、
それは時に
小さい赤ちゃんで、
つらいこともたくさん
あったでしょう。

本当によく頑張りました。

壁にぶつかって
苦しくなったときは
思い出してください。

自分は素晴らしいんだって。

外国である日本で大変な中
生活したんだって。

あとね、
時には逃げてもいいから
自分を大切にしてください。

あなた方の未来が
輝かしいものであることを
私は祈っているけれど、

それよりも
幸せでいれば
偉大にならなくたって
それだけで成功だから。

こんな時代だから
健康に気をつけて。
人に優しい皆さんは
自分にも、優しくしてね。

出逢いに感謝しています。
今まで本当にありがとう。