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すすめばすすむほど私は単純になる

すすめばすすむほど私は単純になる 目は星のようだとか

太宰治の小説の冒頭に、こんなフレーズがあった
記憶ちがいだったかもしれない
ふと頭に浮かんだから、呪文のようにとなえてる
目は星のようだとか

星は埃のようだとか 月はコインのようだとか
森は墓場のようだとか 小鹿は天使のようだとか 

森が美しいのは、ニンゲンのものではないから
都会が醜いのは、ニンゲンが作ったものだから
多くの街は、傲慢な下心で構成されていて
人は、それを「目的」と語る
効率よく合理的に目的を果たすキーネーシスが
いつかニンゲンの生きざまになった

都市からの逃亡

夜の森はおそろしい
いくつもの命をはぐくみ 奪い、
たくさんの死体を隠す
真夜中、耳を澄ませると、きしきしと、かつて命だったものが
カラダだったものが 蝕まれる音が聴こえる
屍を喰らう虫たちの あるいは菌類の
宴の歓喜と 旺盛な食欲と 喪失が交差して
森はいきいきと呼吸する

天使のような小鹿が下りてきて
つぶらな瞳でこちらをみてる
獲物を確かめるように 命の終わりを予言するように
小鹿はうっとりと まっすぐにわたしをみてる

わたしは森をさまよい いきだおれた自分の体について
考える
苦しくない 
悲しみからも遠く離れて 
わたしは菌類の寝床になりたい
そして優しく腐っていく 朽ちていく 無くなっていく

そんな夢想にバッハのフーガ

もう夜も深い
思いつく言葉は どれもこれも陳腐だから
言葉なんて とうそぶいて
わたしは静かに、おやすみとつぶやく
おやすみ小鹿 また来てね
わたしを迎えに また来てね

すすめばすすむほど私は単純になる
なんて、いい言葉!




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眠れない夜に

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