午後7時からの中学生談義 23

narrator 市川世織
いじめがある。
そう分かっていても、それらを完璧に排除することは、現実的に難しい。
みんな、排除しなきゃと思っていても、それを行動に移すだけの勇気が出せない。
そういうものなんだ。
なんでもそう。きっとそう。
「セオリー」
日曜日の午後。
夏も近づいて、日も沈みが遅くなる頃になった。
私はお互いの家の前で、貴之と裕翔と待ち合わせて、電車に乗り、東京まで出ることにした。
東京まで、中学生がなけなしのお小遣いを叩いて向かう理由はただひとつ。
東京の病院に入院している、私のお母さんに会うためだ。
本当は私だけでもよかったんだけど。
「お前1人じゃ心配すぎる」
「裕翔の言う通りだ」
2人が過保護っぷりをここで発揮する。

学校での「鏡落書き事件」の解決以来、私は先生に何度も、お母さんと向き合うことを勧められていた。
私はお母さんにいじめられていた。
お母さんの私に対する愛情があって、その愛情が深すぎて、いじめは生まれた。
今、お母さんは精神を病ませて、入院している。
「これ、お前の母さんの入院先と、お前の母さんの電話番号」
叔父さんは、中学生の私が持てるだけの大金を持たせて、お母さんの入院先と電話番号が書かれたメモを渡して見送ってくれた。
そして、私は貴之と裕翔と電車を乗り継いで、夜の東京に着く。
こんな時間に着くことになったのは、お母さん側が、この時間帯にしか面会を許さなかったからだ。
夜の病院は、大きな窓から東京の夜景が見えて、不思議ときれいだった。
夜の病院だから、もっと怖いと思っていたけど、なんだ。よかった。
そう思いながら廊下を進んでいくと、私のお母さんが入院する病室に着いた。
個室だから、お母さんしかいないはず。
「怖くなったら戻ってくればいい」
肩を恐怖と不安でかすかに震わせていたら、後ろから優しい声がした。
「いつでも呼べよ」
裕翔がそう言いながら微笑む。
この2人は、昔からとてもとても優しかった。
私はこの2人がいなきゃ、まだまだダメなんだ。
でも
今日ぐらい、ちょっと大人にならなきゃね
私は2人に向かって、今できる最高の笑顔を向け、病院のドアをノックした。

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