午後7時からの中学生談義 24

narrator 市川世織
目の前に、お母さんがいる。
もう会わないと思ってた。もう会ってやらないと思ってた、そんな人が、目の前にいる…。
「…誰?」
私が部屋に入ってきたことに気がついたのか、ベットの上で上半身を起こし、窓の方を見ていた女性は振り返る。
お母さんだと思った。だいぶ、いや、尋常じゃないほどにやつれているけど。
でもその人は確かにお母さんだった。
髪は長く、腰まであるその髪は、パサパサだ。
紺色のパジャマはシワだらけ。
お母さんの顔は、化粧は一切されておらず、青白い。
パジャマから覗く首も腕も、ぎょっとしてしまいそうになる程、細かった。
「世織…?世織なのね?ああ…」
お母さんは私を見ると、ゆっくりと口角を上げる。
逃げ出したい、怖い。
「お母さんのとこに、来てくれたのね…」
「…」
「…ねえ、なんで何も話してくれないの?」
あなたに声を奪われたから。
あなたのせいで。
あなたは、貴之と裕翔までもを、己の自己中心さに巻き込もうとした。
あなたが憎い。
恐怖と同時にこみ上げてきたその感情が、涙となって現れる。
私はそんな涙を必死に拭い、スケッチブックに事実だけを簡潔に綴る。声が出なくなったと。
そのスケッチブックをお母さんに見せると、お母さんの表情がみるみる崩れていくのがわかった。
そして、お母さんの絶叫。
「なんで、なんでなんでなんで!!!!!!」
私は恐怖のあまり、尻餅をつく。もう体は金縛りにあったのかのように、動かなかった。
すると、病室の外に漏れたお母さんの絶叫を聞きつけたのか、若い女性の看護師さんがやって来て、お母さんに落ち着くよう、必死に声をかける。
「セオリー!」
私はというと、病室にやって来た看護師さん達とは反対に、貴之と裕翔に病室の外に出されていた。
「セオリー、怪我は?」
裕翔の問いに、私は首を振る。
「…セオリー、もういい。もう十分だ。みんなで帰ろう?」
貴之が優しく、小さい子に言い聞かせるように言った。
ああ…、私は…もう1人なのか。
お母さんはあんな状態。お父さんは遠くにいる。
私は…
「1人じゃないからな」
貴之が私の心の声に応えた瞬間、私の目から、ずっと我慢していた涙が落ちた。

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