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冬の足音とドイツ菓子(シュトーレンとレープクーヘン)

1年が経つのはなんて早いんだろう。
歳を重ねるにつれて時間が経つのが早くなってきた気がする。
感覚的にはまだ夏、せいぜい秋くらいの気持ちなのに、いつの間にかもう12月だ。
最近になってぐっと冷え込んできた。
そろそろ厚手のコートを出した方が良いだろうか。

毎年11月半ばになると、わくわくしながらシュトーレン(シュトレン)を物色し始める。
シュトーレン(ドイツ語ではStollenと綴る)はアドヴェントと呼ばれるクリスマスまでの4週間の間に少しづつ薄く切って食べるドイツの伝統的な菓子パンだ。
ザクセン州のドレスデンが発祥らしいのだが、「ドレスナーシュトレン(ドレスデンのシュトーレン)」を名乗るためには材料の規定や生産する地域を決めた法律に則らなくてはならない。
材料や生産地まで事細かに決めるとは何ともドイツらしい。
法律に従って作られ、ドレスデンのシュトレン保護組合(Schutzverband Dresdner Stollen)に認められたドレスナーシュトレンは、アウグスト強王の姿が描かれた金色に輝く認証マーク(Stollensiegel)を掲げることが許される。
日本では英語読みの影響か「シュトーレン」と長母音で呼ぶことが多いが、ドイツ語読みする時は「シュトレン」と短母音で発音するそうだ。
ただ一般的に知れ渡っている表記の方がわかりやすいので、シュトレン警察(シュトーレンではなくシュトレンだと訂正する人々)には悪いが、この記事では「シュトーレン」と書くことにする。

まぶされた真っ白な粉糖が目にも美味しいシュトーレン。
洋酒漬けのフルーツやナッツ、スパイスが入っているこのお菓子は、作り方が非常に特徴的だ。
生イーストを使って生地を発酵させるのだが、一般的なパン生地よりもバターや砂糖を多く使うので普通に作ると発酵が進まない。
なのでしっかり発酵させる中種をまず作り、それを別に作った本捏ねと、じっくり洋酒に漬け込んだレーズンやオレンジピールなどのドライフルーツ、アーモンドなどのナッツと合わせて混ぜる。
ものによってはマジパン(アーモンドパウダーと砂糖、卵白を混ぜた餡状のお菓子)を折り込んだり混ぜ込んだりする。
マジパンが折り込まれたシュトーレンはマジパンシュトーレンと呼ばれるらしい。そのままだ。
生地をシュトーレンの語源となっている坑道の形になるよう山型に整え、こんがり焼き上げた後にハケで何度も塗るか豪快に漬けるかして澄ましバターを染み込ませる。
そして表面が真っ白になるまで粉糖をかけて、あたかも幼子キリストが白いおくるみにくるまっているかのように仕上げて完成。
生地に天然の保存料である砂糖やバターがたっぷり使われていることに加え、殺菌作用のあるアルコールを含んだ洋酒に浸かったドライフルーツが使われていること、更に表面をバターと砂糖で固めていることで腐敗の原因となる自由水が非常に少ない状態になり、長期保存を可能にしている。
そのため日持ちがするのはもちろんなのだが、日が経つにつれてバターや洋酒が生地に馴染んでいき、少しずつ食べ進めていく間に味わいが変わるのが面白い。
日本人向けに食べやすく作られているものの中には賞味期限が短いものもあるが、本場ドイツの製法に則ったものだと半年ほど日持ちするものもあるらしい。
作り方を見てわかる通りシュトーレンはカロリーの権化なので、自制心を持っておかないと体重計が怖くなる。

長々と書いたが、私は12月1日時点では自分でシュトーレンを作ったことがない。
お菓子作りはするのだがパン作りはしないので、発酵させる生地の扱いに慣れていない上に、手間と材料費が結構かかる。
何よりシュトーレンが一般的になってきた近年では様々なパン屋や製菓店がシュトーレンを出しており、色んなものを食べ比べしたい欲が強いからだ。
ただ何事も経験だ、今年はシュトーレンのキットを買った。
市販のシュトーレンは幾つか店をピックアップして吟味し、注文した。
今年購入したシュトーレンは以下の4種+自作するシュトーレンの計5本。
日本でいち早くシュトーレンの通販を始めた、北海道にあるオーセントホテル小樽の『オリジナル「シュトーレン」』。
重量は380g、価格は3,950円。
本場ドレスデンの認証マークがついたエミール・ライマンの『オリジナル ドレスデン シュトレン』。
重量は750g、価格は4,320円。
ラスクで有名な神戸モリーママの『神戸シュトーレン ~六甲の雪化粧~』。
重量800g、価格は3,888円。
18日に到着予定の、兵庫県西宮の製菓店ツマガリの『フローエ・ヴァイナハテン シュトーレン』。
これは重量が記載されていなかったが、箱のサイズを見るになかなか大きそうだ。価格は送料別で7,020円。
自分で作るシュトーレンは富澤商店のキットとマジパンを購入した。
富澤商店の『手づくりシュトーレンセット』が1,898円、リューベッカのマジパンローマッセが500gで2,310円。

追記:クリスマスを目前にして、おいしいパンの店ソフィーのシュトレン 4種4個セット(ショコラ、蓮実、越五、あわゆき 各1個)、5,350円と、
クリオロの世界最優秀味覚賞シェフのシュトーレン、送料別3,800円を注文した。
追記:年が明けてエミール・ライマンのプレミアムシュトレン(750g、定価7,236円)が半額になっていたので注文した。

食べ比べの記事はまた改めて書いてこの記事から飛べるようにするが、賞味期限の短いオーセントホテル小樽のものには一足早く包丁を入れた。

オーセントホテル小樽のシュトーレン。
甘いドライフルーツ、マジパンが食欲をそそる。
スパイスが主張し過ぎないので万人受けしそうな味。

シュトーレンに加えて、ドイツのニュルンベルクで有名な伝統菓子・レープクーヘンも購入した。
レープクーヘンとは簡単に言えばドイツのジンジャーブレッドである。
シナモンやクローブ、アニスなどのスパイス類とたっぷりの蜂蜜、オレンジピールやナッツなどが入った生地をオブラートというウェハースのようなものに乗せて焼き上げる。
仕上げはそのまま、グレーズ、チョコレートなど様々。
オーナメント用のものなどは歯が立たないほど硬いが、普通に食べるものはふかふかしていてクッキーとパンの中間のような食感だ。
柔らかい麩菓子にも近いかもしれない。
九州のお菓子丸ぼうろを少し軽くしてしこたまスパイスを入れた、というのが個人的には何となくしっくりくる例えなのだが、丸ぼうろ自体が全国区のものでないのでなかなか説明が難しい。

ドイツのニュルンベルクにある老舗、
レープクーヘン・シュミットのレープクーヘン。


裏側はこんな感じ。
柔らかく平たいウェハースのような「オブラート」が見える。

このレープクーヘンもそう名乗って販売するためには法律に従う必要があるようだが、ドイツではレープクーヘン用のスパイスミックスが売られていて、一般家庭でもごく普通に焼かれているらしい。
ドイツ人が1年あたりに消費するレープクーヘンは平均して4kgというのだから、かなり馴染みのあるお菓子なのだろう。
かの有名な童話ヘンゼルとグレーテルの魔女の家はこのレープクーヘンで出来ていたという。
それに倣ってクリスマスの時期にレープクーヘンで作られるお菓子の家を「ヘクセンハウス」と呼び、家庭や店先などに飾る習慣があるそうだ。
かなりしっかりスパイスが効いているので好き嫌いが大分はっきり分かれそうなお菓子だが、私は好きだ。
今年は本場ニュルンベルクに店を構えるレープクーヘンの老舗、レープクーヘン・シュミットのものを取り寄せた。
ドイツ本国ではハート型をはじめとした様々な形のレープクーヘンに愛を伝えるメッセージを書いてデコレーションを施し、飾ったり贈ったりするそうだ。
それらのレープクーヘンは子供達がクリスマスマーケットなどで首からさげたり、家庭でオーナメントにしたりするのだが、若者の間では好意をよせる人から貰ったレープクーヘンを飾っておく習慣があると聞いた時は思わずにっこりしてしまった。
なんて可愛らしいんだろう、とてもロマンチックだ。

そんなシュトーレンとレープクーヘン。
いつも買う時にはクリスマスまで少しづつ食べようと思って買うのだが、その後をひく美味しさについもうちょっと、もう1切れ、と余分に食べてしまう。
結果小さいものを1本しか買っていない年はクリスマスから程遠い日に食べきってしまい、追加購入することがほとんどだ。
何せ甘くて美味しいのでブラックコーヒーやストレートの紅茶に合う、赤ワインやブランデーなどの洋酒にも合う。
1切れしか食べるなという方が無理なのだ。
極度の甘党の私は薄く切ったものをたったの1切れだけ、なんて到底満足できない。
そこで今年は大きいものも含めて4本+自作で計5本買ったのだが、果たしてクリスマスまでもつだろうか。
流石に大丈夫だとは思うが、それでも食べ尽くしてしまう未来が微かにちらつく。
「食欲の秋」はよく聞くが、私にとっては冬も食欲の季節だ。
クリスマス~正月太りが怖いが、今この時期しか食べられない特別なお菓子を、今日も1切れ、いや2切れ食べて聖なる日を待つのである。


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