見出し画像

来ては還る 命の話 1)

捨て猫がやってくるのはいつも突然だ。
今回も、ぴょこんとやってきて、ひっそりと去っていった二匹の子猫の命の記録として短いながらも彼らの存在を記しておきたい。

いつも小声で鳴く”ミー”と
すごい勢いでミルクを飲む”ゴジ”の話。


先月のある日の夜のこと、友人から一通のメッセージが入っていた。
いわく。『犬と妊婦猫、そして3人の子供を抱えて引っ越し前のL女史が、生まれて間もない子猫を拾ってしまった。
しかし、彼女の家では、自分の猫も出産間際、自宅は引越し間際、子供3人を毎日一時間かけて送り迎えをしながら次の家の改装中!
拾ってしまった2匹の猫を誰かしばらく世話を出来ないだろうか?』というものだった。


思春期真っ只中の Teenagerの息子との毎日に やや息苦しさを感じていたこともあり、深く考えもせずにこう答えた。
『いいよ。我が家は、一応手はあるから、しばらくということで預かろう』

翌日のこと。
電話で連絡でも入るのかと思っていたところに、なんと早速、子猫を拾ったL女史がすぐさま子猫二匹を連れてやっていた。

彼女の腕には、小さなケーキの入るような箱が乗っかっている。

『??』と一瞬思った私は、自分の考え違いをこのときに思い知らされる。
自分の中の子猫のイメージは、最小のもので 両手のひらに乗るぐらいの小さなぬいぐるみサイズ。両手で顔を洗おうと思ったときに、ちょうど量手のひらに乗るぐらいの重量感を漠然と思い浮かべていた。

ところがである。
やってきたのは、両手のひらはおろか、片手に乗せても更に小さい
一匹100gにも満たない超子猫が二匹。
まだ体温が保てないため、L女史が湯たんぽ代わりに鉄の水筒にお湯を入れ
フリース素材でくるんで作った”人工母猫もどき”と一緒にやってきた。

現在改装中のL女史の家のすぐそばで、彼女がこれまた近く里子として引き取ることになるであろうネグレクトされたドーベルマンを散歩させている時、聞き覚えのある子猫の声を察知してしまった。

ちょうどそばに居た彼女の娘と目を合わせて『これって、間違いなく子猫の声だよね』とうなずきあって、声のするほうに行ってみた。
すると、隣のバリ人のローカルのおばちゃんが、小さな箱に二匹の子猫を入れて家の裏に置いていたという。
バリ人のおばちゃん曰く『猫が天井から降ってきた。5匹居たけれど、残る3匹は既に死んでしまった。ミルクを飲ませてみたが・・・・』

L女史が見たときに、二匹の子猫は濡れたまま箱に入れられていた。
バリ人にしてみれば 最大限の保護なのだろうが、子猫を育てたことの在るL女史にしてみればこのまま数時間放置すれば体温を奪われすぐに死ぬことは目に見えていた。おまけに、牛乳のラクトースを分解できない子猫にとっては、ミルクもNG!
さりとて 実質女で一つで3人の子供と猫と犬、引越しを目前に抱えたL女史が子猫の夜の授乳に起きるのは自滅行為・・・・・
というわけで、我が家にやってきたわけだ。

事の顛末を話し終わったL女史。
ネコ素人も同然の私に、猫の授乳、体温の保ち方、オシッコのさせ方、排便のさせ方を伝授することに。

1)ミルクは粉1に対してお湯が5.人肌に冷ますが、冷たすぎるとお腹を壊すので、お湯で適宜温めながらあたえること
2)子猫は体温を保てないので、授乳の時に毎回 湯たんぽを作って毛布でくるむ。熱過ぎる時に逃げられるような場所もつくっておく。
3)授乳の前と後には、ティッシュで刺激して排尿と排便をさせる。
4)人間が思っているよりもやや暖かめに箱の中を保つように。寒いとにゃーにゃー鳴いて寝ない。
5)授乳は3時間ぐらいに一度。

我が家の長男が生まれたのは13年前。遥か、遥か昔である。
あの時はまだ若かった。そして同じ人間という種なので、体が同じ=つまり人間用の乳首を親である私は備えていた。

今回、夜起きるところまでは気合で何とか起きられたものの、一番の泣き所は私は人間の体しかないこと。暖めてやろうにも、直接暖めてやるわけにも逝かず、いわんや授乳には何に立つものはないのである。

つれてこられた初日、子猫たちにはスポイドで5ccほどのミルクを毎回飲ませた。
しかしこれが見るだに可哀想なのである。
スポイドは角がとがっている上、ネコが本来の母親から飲む姿勢とは逆の仰向けにしないと飲ませられない。これでは誤嚥(ごえん)の可能性が高い。

ただでも逆境に生まれ、拾われてきた猫二匹。
やせ細って、交代に泣く姿は哀れだ。
本来の母親が生きて、乳を飲ませることが出来れば、授乳の時間は子猫にとって至福の時間であろうに、ゴツゴツしたスポイドで咽ながら飲む姿のかわいそうなこと。
これでは、3時間ごとに起きている私も、飲むほうの子猫も拷問である。
こんな小さな存在を、慰めてやる手段もないと情けなくなる。

早速翌日、ペットショップに走った。
ミルクボトルが必要だ。
せめて人口のミルクながら、飲むのがもう少し楽になるように・・・・。
少しでもたくさん飲めるようにと。

猫用のミルクボトルの飲み口には最初穴が開いていない。
自分で明ける時に箱に書いてあるように、針で開けてみたが、これでは一向に出てこない。しょうがないので、今度ははさみで切ってみたら穴が大きすぎて、ネコがおぼれそうだ。

また、ペットショップに走るのか・・・??と思ったら、どうやら私のような人が多いと見えて、変えようのゴムの飲み口がもう一つ入っていた。
ホー!
というわけで、最新の注意を払い、小さな穴をカミソリで斬るように空けてみた。成功である。
出すぎず、かつ、出なさ過ぎず。

『息子が赤ん坊の時は、哺乳瓶で飲ませるとあごの力が弱くなる』なんて記事を読んで、心配したもんだが、今回は、拾われてきた子猫。
しっかり飲んでもらわなくてはと、”吸引する力を鍛える”のは、パス!

やっと授乳の時間が苦痛の時間ではなくなり、お互いホッとする。
思わず、その昔、まだ出ない母乳を加えさせて、初対面の息子と格闘した夜を思い出す。人間もネコも、生まれて、乳を飲んで毎日生きていくって大変なことなんだねーと、夜中の独り言。

小さい声で『ミーッ!』”と鳴く女の子の”ミー”。
一方、箱を開けた途端、腹ペコでミルクが待てずに手指にかぶりついてゴジゴジ母ネコのおっぱいを捜す男の子の"ゴジ”。

二番目の子供が居たらば、こうやって世話をしたであろうか?と 
突然やってきた子猫たちに気持ちが投影される。こんな思いを知って、星のしずくとなったあの子が姿を変えてやってきたのかな。寝不足の夜更けに、遥か昔にしまいこんだ感情の蓋が開いたようだ。(つづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?