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土壌微生物を考える③ (農業)

前回の「土壌微生物を考える②」では共生菌について書きました。

今回は分解菌について記載いたします。
分解菌は共生菌と比べてなじみの深い菌が多いです。それはふだんの食生活などでも活躍している菌が多いからです。

ではではさっそく見ていきましょう。

<分解菌>------------------------------------------------------------------------

有機物をすみやかに分解して土の物質循環をよくする。この分解により植物が養分を吸収しやすくなり植物の促進に役立ちます。

〇こうじ菌
発酵の「スターター」とも言われます。酒づくり、味噌づくり、ボカシ肥づくりなどで最初に活躍する菌です。さまざまな消化酵素を出して有機物を分解しますが、なかでも炭水化物を分解してブドウ糖や果糖などに変える「糖化」をもっとも得意とします。こうじ菌が分解してできた糖をエサにして、発酵で大事な役割を担う納豆菌や乳酸菌、酵母菌などが活躍するのでまさに発酵の「スターター」ですね!

〇納豆菌
納豆菌は枯草菌と呼ばれる細菌の一種で、納豆を作るときに働いている菌です。ナットウキナーゼと呼ばれるネバネバのもととなる分解酵素を出しながら、タンパク質→アミノ酸に、デンプン→糖に、脂肪→脂肪酸へと分解します。いわゆる「分解屋」と呼ばれます。納豆菌のネバネバは,アミノ酸(グルタミン酸)が繋がったペプチドというものです。

このペプチドに酵素や抗菌物質などが含まれております。酸素が好きな好気性菌ですが、田んぼや湿地を好み、ワラや枯れ草などに棲みつきます。高温や低温、乾燥、農薬などの悪条件下では芽胞と呼ばれるカプセルをつくって、生き延びる生命力の強い菌です。増殖スピードが速いため病原菌との生存競争に強く、ネバネバに含まれる抗菌物質も働き、作物の病気対策に力を発揮します。

〇酵母菌
ビールやワイン日本酒などの酒類、醤油や味噌パン作りには欠かせないおなじみの微生物。 単細胞の菌類で糖分を分解してアルコール発酵を行います。

(化学式) 
C6H12O6
(ブドウ糖)   →  2C2H5OH (エタノール)  + 2CO2(二酸化炭素)

いたるところに存在し植物では果実の皮や葉面など糖類の多くあるところにたくさん生息しています。酵母菌は有機物の分解が得意で分解する時に様々な有機酸や酵素など他の微生物の繁殖を抑える物質を作ります。果実の皮や表面などで酵母菌が増えることで病原菌の増殖を抑える働きをしています。天然酵母を増やして野菜などにスプレーすると病気の予防になります。また酵母菌は堆肥やぼかし肥の発酵をスムーズに進める重要な働きをしています。発酵初期に枯草菌などが有機物を分解してできた糖分を利用して増殖します。完成した堆肥やぼかし肥には酵母菌が多く含まれています。酵母菌は果実や野菜などをからとって増やすことができます。野菜の果実や葉からとれた酵母菌を増やし、その野菜に散布するとより効果的です。

〇乳酸菌
乳酸菌は乳酸を作る細菌類の総称です。 ヤクルトやカルピスなど乳酸菌飲料で普段耳にする菌ですよね。
畑で主に役立つ乳酸菌はぬかみそ漬けのスターターとして知られるラクトバシラスと呼ばれる種類です。同じ乳酸菌のストレプトコッカスはヒトの腸内にも多く存在する常在菌として知られ、腸内の微生物バランスを保つのに役立っています。ぬかみそ漬けが酸っぱくなるのは乳酸菌が糖類を発酵分解して乳酸をつくるからです。

(化学式) 
C6H12O6
(ブドウ糖)   → 2C3H6O3 (乳酸)

この乳酸には他の微生物の増殖を抑制する働きがあります。この性質を利用して乳酸菌と乳酸を多く含む液体を植物の葉面に散布して病気防除に役立てる方法があります。ラクトバシラスは植物由来の有機物を餌にして分解するのが得意で野菜の成長に必要な物質の循環が良くなります。米ぬかには乳酸菌がついており畑に鋤き込むと土壌中で米ぬかを分解して乳酸菌が増え病原菌の増加を防ぎます。また 乳酸菌を食べるアメーバや 粘菌類などの善玉の微生物が増加し土壌微生物が多様になります。 土壌中に乳酸菌を増やすなら乳酸菌のエサとなる米ぬかや米のとぎ汁を畑に直接巻く方法がもっとも簡単です。乳酸菌は糖を分解して乳酸を作ることでエネルギーを得ているため糖分を加えると乳酸発酵が起こりやすくなります。また乳酸菌の増殖にはリン・マグネシウム・鉄などのミネラルも必要ですが、これらを多く含む米ぬかを主材料にぼかし肥を作ると 乳酸菌や乳酸菌を餌とする微生物が大量に増えます。ぼかし肥のスターターに米のとぎ汁乳酸菌液を加えると早く増殖させることができます。

〇放線菌
真正細菌(バクテリア)の一種で菌糸を放射状に伸ばすところからこの名前がついています。代表的な種類は ストレプトマイセス で伝染病の特効薬として知られる抗生物質のストレプトマイシンが発見されたことで有名です。森の土は独特の良い香りがしますがこれは主に放線菌が出す匂いです。 堆肥やぼかし肥作りでは 仕込んでから2週間程度経ち第一次発酵の時期が過ぎた頃、表面近くに白い粉状のものが増えてきます。これが放線菌です。
有機物を分解するのが得意で 昆虫・カニ・エビなどの外骨格や糸状菌やキノコに含まれるキチン質を分解する酵素を作りフザリウムやリゾクトニアなどの糸状菌のキチン質でできた細胞膜を破壊して死滅させます。フザリウムはナスの半身萎凋病、トマトの萎凋病など リゾクトニアはナス科、ウリ科、アブラナ科、ネギ類の立枯病などの病原菌で、放線菌はこれらの病気対策に効果があります。
土作りの時に米ぬかと共に放線菌のエサとなるカニガラや廃菌床を畑に鋤き込みます。放線菌で白い粉がふいたぼかし肥を元肥や追肥で畑に施しても効果があります。園芸用の資材として売られているカニ殻肥料を1㎡あたり 200 ~400 g鋤き込み、あわせて米ぬかを施すことで土壌中に放線菌を増やすことができます。

以上、主な分解菌を今回は紹介しました。
こうじ菌、納豆菌、酵母菌、乳酸菌、放線菌とも私たちが日常お世話になってる菌でなじみのある名前だったと思います。

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