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旧統一協会の組織票分布の推定

 8月7日、朝日新聞が朝刊の1面で、旧統一協会の選挙協力について報じました。

 参院選を前に、教団関係者は支援先である井上氏の当選に自信を見せていた。(中略)
 16年の参院選では初当選した宮島喜文氏、19年参院選では再選した北村経夫氏が、教団の支援先だった。井上氏を含め、組織票の強みを生かせる比例区で出た安倍派の議員たちだ。
 その安倍氏のもとを、今年に入って繰り返し宮島氏が訪ねていた。宮島氏の元秘書によると、今回の参院選でも再選を目指して準備を進めていた宮島氏は、安倍氏に「ぜひ前回と同じような票を団体さんにいただけないか」と頼んだが、安倍氏は「今回は無理だ」と答えたという。別の関係者は「最終的には教団側から『安倍氏の意向で井上氏に一本化する』と伝えられた」と明かす。宮島氏は、すでに得ていた党の公認を辞退し、出馬をあきらめた。

出典:2022年8月7日 朝日新聞朝刊1面

 この記事を前提としたうえで、旧統一協会の組織票の推定を試みます。

 まず、第26回(2022年)参院選で、旧統一協会の支援先であったとされている井上氏について、全国の市区町村の得票率を計算しました。これを地図表示したものが、次に示す図1です。

図1. 第26回(2022年)参院選比例代表・井上義行 得票率 

 もっともこの図1には、旧統一協会とは別に、従来から井上氏個人を支持していた人たちの票が含まれているでしょう。例えば神奈川県西部に得票率の高い地域が広がっていますが、これは井上氏が小田原市出身で、かつて神奈川17区から選挙に出ていたことのあらわれです。そこで、この個人の支持を除去する操作が必要となります。

 先に引用した朝日新聞の記事によると、第25回(2019年)参院選での旧統一協会の支援先は別の候補者となっています。井上氏はこのときの参院選にも立候補しているので、当時の井上氏の票の分布を調べることで、個人の支持が明らかになるはずです。その結果を図2に示しました。

図2. 第25回(2019年)参院選比例代表・井上義行 得票率


 旧統一協会が上乗せした票は、図1と図2の差にあらわれているはずです。

 下の図3では、第25回参院選(2019年)から第26回参院選(2022年)にかけて井上氏の票が伸びた自治体を黄色から赤の配色で、減った地域を水色から青の配色で示しました。

図3. 井上義行 得票率の増減

 神奈川西部など、従来の自分の地盤であった地域で票を失っている一方で、あちこちの地方都市で票を伸ばしているのは、確かに何らかの組織が関与したことをうかがわせる分布だといえます。

 得票率の増加が大きかった50の市区町村は次のとおりでした。(按分票のため、得票数が小数になっています)

表1. 井上義行 得票率の増加 上位50自治体

 人口の多い市部と区部では、島根県益田市(6位)、鳥取県鳥取市(7位)、広島県大竹市(22位)、長野県諏訪市(23位)、山口県下関市(28位)、山口県岩国市(29位)、香川県観音寺市(31位)、青森県十和田市(37位)、広島市中区(40位)、佐賀県佐賀市(45位)、佐賀県小城市(46位)、山口県長門市(47位)が入っています。

 0票が1票になった沖縄県渡名喜村(43位)などは有権者数が少ないため、わずかな票の変化で得票率が大きく動いています。しかし1票が38票になった長野県原村(11位)などは、その票がどこから来たのかは気になります。

 得票数の増加が大きかった50の市区町村も掲載しておきましょう。

表2. 井上義行 得票数の増加 上位50自治体

 全市区町村の結果はGoogleスプレッドシートで公開しています。市区町村は北海道から順に並んでいます。編集はできないので、必要に応じてご自分でエクセルなどにコピーペーストして利用してください。


 井上氏が全国で得た票は、第25回参院選(2019年)では87,947票で、第26回参院選(2022年)では165,062票でした。77,115票が増えています。

 けれどもこれは、井上氏の票が減少した地域を含む集計です。例えば図3を見ると、井上氏は地盤の神奈川県西部で票を減らしていることがわかりますが、これは従来からの個人の支持を失ったものと考えられるので、旧統一協会の選挙協力とは別の問題です。

 こうした票が減少した地域を除外して集計を行うと、井上氏の票の増加分は81,973票となります。

 旧統一協会の信者数は、鈴木エイト氏が「日本で10万人」としています。10万人というのが子供を含んだ数字であるならば、日本の有権者数が人口の0.83倍であることから比例的に考えて、旧統一協会の有権者は83,000人程度。これは81,973票とおおむね整合するといえるでしょう。

 参院選の比例代表で政党や政治団体が1議席を獲得するためには100万票程度が必要です。これと比べると、旧統一協会の票自体ははるかに小さいといえます。しかし獲得された議席がどの候補者のものとなるかは、個人名が記された票の数によって決められます。自民党の場合、その際に必要となる票は12万票程度であるため、旧統一協会の票を誰に乗せるかは、自民党の各派閥の中でどのように議席が分配されるかということに関わってくるわけです。安倍派はここで旧統一協会の票を利用していたのでしょう。

 この票の分布をあらためて図1、図2と同じ配色で示しました。

図4. 井上義行 得票率の増加分

 なお、井上氏の票が伸びた地域でも、実は個人の支持による分が減っていて、旧統一協会の票がそれを補っていた可能性はあります。そのようにして増減が打ち消された分は、ここで行った推定からは明らかになりません。また、山口県の下関市と長門市は安倍元首相を選出した小選挙区にあたりますが、ここで安倍氏が別ルートから井上氏に票を回すことを指示していたような場合には、その分を過大評価してしまうことになります。

 旧統一協会が支援した他の候補者の票を過去にさかのぼって検討することで、推定はより正確になります。いずれはそうした検討も行えたらと思います。


 P.S.
 ここに掲載した図表は、議論の際に必要に応じて転載して構いません。

 今年7月に行われた参院選については、すでに全自治体、全候補者の得票率の計算を終えているので、近いうちに議論を行う予定です。

2022.08.08 三春充希