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カミのコラム#1 −presented by「紙の温度」−


こんにちは!
中庄の未来をつくる部 刑部渉です。

今回は、

カミのコラム −presented by「紙の温度」− 
記念すべき第1回目をお伝えしたいと思います!

今後、紙というものを素材や産地、はたまた技法や技術などのテーマに分けてご紹介させていただきます。

第1回目のテーマは「楮紙」。

ではでは、お楽しみ下さい。


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「楮紙」

手漉き和紙の中でも、
もっともスタンダードで、
使いやすい紙なのかもしれない。

だからこそ奥深く、
紙そのものの良さはもちろん、
様々な用途に合わせて、
染められ、形を変え、
いろいろな美しさを私たちに
魅せてくれる存在。


和紙の原料となる代表的な植物は、楮(コウゾ)、三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)です。

その中で楮は、栽培が容易で毎年のように収穫できるため、和紙原料としてもっとも多く使われています。日本の生産地としては、高知県(土佐楮)、栃木県(那須楮)、をはじめ全国各地で栽培されていて、特に那須楮は非常に良いものとされています。現在は、タイやパラグアイなど海外から輸入している楮もあるようです。

楮は繊維が太くて長く(雁皮や三椏と比べると)、丈夫な紙をつくれるのが特徴です。その丈夫さから公文書や長期間の保存を要する文書に用いられ、江戸時代に全国各地で使われていた商業取引を記録する大福帳にも楮紙が使われていたそう。丈夫なので火事になった時などは、大福帳を井戸に投げ込んで財産を守ったという逸話もあるほど。

また、障子紙、襖紙、和傘、紙衣、膏薬(こうやく)等々あらゆるところで活用されてきました。染ものにも適しており、モミ染め、シボリ染め、ボカシ染め、グラデーション染め、オリ染めなど、さまざまな染め方が行われています。

工芸品としてあらゆる加工に用いられ、文化として継承されているものも多数存在し、人々の生活の近い部分に溶け込み、楽しませ、親しみやすい紙として広まっていったそう。

素敵な染紙なども沢山あるので、是非とも紹介したいという気持ちをグッとこらえ、今回はあくまでも楮紙そのものにフォーカスしていきたいと思います。

1本1本の繊維の長さや、配合の量、均一感など目でみてわかる部分と、厚さや素材感、風合いなど想像していただくける部分で楽しんでもらえれば嬉しいです。

同じ楮を使った紙でも、産地によって配合や漉き方に様々な違いがあり、ひとつとして同じものはありません。また、和紙全般に言えることですが、統一した寸法は決まっておらず、各地で様々な寸法で紙づくりを行っているのも特徴です。画一化されていない、それがまさに和紙の醍醐味なのかもしれません。

では、産地それぞれの楮紙の特徴をみていきましょう。


黒谷和紙 (京都府)

国産楮紙100% 生成 6匁

(新)黒谷和紙

※生成(きなり):漂白されていないということ。未晒しとも呼ぶ。
※匁(もんめ):大きさ約60㎝×90㎝を基準にしたときの重さの基準 1匁=3.75g

京都府綾部市の北部、舞鶴市との境に位置する黒谷町に伝わる和紙。

京都府指定無形文化財にも指定されており、楮紙の中でも屈指の美しさを誇っています。また、国産楮に限らず海外の楮を使用したり、多様な配合で多様な種類の紙漉を行っている産地。また楮に限らず、その他の原料(雁皮や三椏等)を使った紙も生産しています。最近は産地で楮の栽培もしていて、廃校を利用した紙漉き工房なども構えているので、多くの若い方がここで和紙の技術を学んでいるそう。

透かすと繊維の1本1本の流れがよくみえ、とても綺麗に均一に散らばっていることがわかります。


石州和紙 稀 (島根県)

楮100%

(新)石州和紙

※稀(まれ)とは、石州和紙の中で最も良い品質のものにつく呼び名のこと。

石州和紙は、島根県の浜田市で作られる和紙。
重要無形文化財であり、ユネスコ無形文化遺産としても登録されています。

楮の皮の外側の黒皮と中身の白皮の間にある甘皮をあえて残して原料に使っているのが一番の特徴。石州以外の産地では通常甘皮部分は取り除いてしまうため、原料として使っている産地は石州だけ。甘皮を原料として混ぜ込むことで、丈夫な紙となり、印象的には少し青みがかったような風合いに仕上がるそう。ただ、それが1000年持つかどうかと言われると長期間の保存の過程においてやや丈夫さが減少するような傾向もあるようです。
今回紹介する和紙の中では、もっとも白く感じ、ふんわりとした印象がありました。
石見神楽(いわみかぐら)と呼ばれる、島根県西部の石見地方に古くから伝わる伝統芸能があり、その中で使われる面やオロチと呼ばれる大蛇は、全て石州和紙で作られているそう。

宇和泉貨紙 (愛媛県)

未晒12匁 タイ・パラグアイ楮100%

(新)泉貨紙

泉貨紙は、2枚の紙を重ね合わせて1枚に仕上げた和紙。
始まりは今から約380年前。2枚の紙を漉くときに使う簀【ス:紙漉の際に用いる木枠(桁:ケタ)の中に入れるスダレのような網目状のもの】はそれぞれ異なり、1枚目のものはヒゴ簀といい、やや目の細かいもの。2枚目はシゴ簀というやや目の粗いものを使用しているそう。この2枚の異なる簀で漉き上げた紙を重ね合わせて1枚の紙に仕上げています。

繊維の絡みが2重になるため厚く、強靭な紙になり、2枚を合わせる際に空気が入ることでややふっくらとした印象があります。二双紙と呼ばれるような紙を重ね合わせて1枚にする紙は他にもあるが、漉いた直後の水分の多い桁の上で重ねる紙は他にはないそう。

12匁ということもあるが、触った感じがとにかく分厚い!!絵や版画に用いられるのはもちろん、陶器などを入れた桐箱の包み紙なんかに使ったりする方もいるようです。


土佐和紙 (高知)

楮紙未晒し中厚口 サイズ・ケナフ・パルプ入

(新)ケナフ楮紙

※サイズとは滲みどめのこと。
原料の段階で松ヤニを混ぜ込んだり、後加工としてドーサ(ミョウバンとニカワをミックスしたもの)を表面に塗ったりもする。主に印刷や書道など、紙にインクを載せる際に行われる加工で、機械漉き和紙の場合は原料に混ぜられる松ヤニなどを使うが、手書きで何かを行う際には、自分たちでドーサ引きを行うことが多いそう。

製紙機械を作っていた会社さんだったところが作っている機械漉きの和紙。あまりきき慣れないケナフという植物が入っていますが、ケナフは中国、タイ、ベトナムで生産されており、とても生育が良く、ペルシャ語で麻を意味し、中国や日本では洋麻と呼ばれていたそう。元々はロープや布袋などに広く使われてようです。

では、なぜケナフが紙に使われていったのか?
その昔、ケナフは二酸化炭素を良く吸収してくれる環境に優しい植物として栽培を進めていて、紙の生産原料として積極的に使っていこうとしていた時期があったようです。しかし、普通の窯では煮えにくく、高圧釜でないと煮ることができないことや、一度栽培した土地は栄養を吸収されすぎて、その後の栽培に支障をきたすことなどから、今は原料として使っているところは少ない植物だそう。
楮100%のものと比べると、繊維による毛羽立ち感はあまりなく、表面はツルッとしていて、やや黄色味がかった、もったりとした印象がします。


ブータン王国で作られた手漉き紙

ブータン紙

かつてブータン王国で作られていた手漉き紙。
なぜ突然のブータン王国なのか?というと、上記した石州の浜田市とブータン王国は姉妹提携しており、石州の職人さんが交代でブータン王国に入り紙漉きを教えているようです。ブータン王国には、その当時2人しか紙漉き職人がいなくなってしまい、もっと生産性を上げるべく石州に依頼したそう。(日本の手漉き和紙も生産性の高さや効率とは、真逆の世界のものですが…。)

なので今現在は、職人も数人増えて、日本の和紙に近い紙を生産しているそうです。この紙は、それ以前に仕入れたブータンの紙なので直接楮紙に関係ありませんが、様々なエピソードがありましたので…紹介いたします。

そこの村へ行くには、空港から車で約5時間かけてティンプーという町に行き、そこから更に片道約2日。(この時点で凄すぎます…。)

村長さんにお願いすると村総出で紙漉きを行ってくれるそう。ダフネと呼ばれるロクタ系の植物を使い、河原に穴を掘って水を溜めて、紙漉きを行う。乾かす際は、その辺の岩場において乾かすため、凹凸が多々生まれ、深い味わいのある紙に仕上がります。(紙というよりかは、木の皮のようです。)

そして、花岡社長はここへ1人で行きトラックいっぱいに買わされたみたいですが(さすがにティンプーから先は行けなかったようですが…)、

その枚数がなんと驚きの


 約10,000枚…。

凄すぎます…。

今現在は、1,000枚くらいまで在庫は減ってきたそうです。
現品限りなので、見てみたい方は是非とも紙の温度さんまで!!


番外編

和紙の見本帳

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黒谷の職人さんに依頼して、約2年かけて作り上げた見本帳。
修復を専門に教える学部がある大学や和紙についての知識を専門的に教えるときに、ある一定の基準となる和紙の見本帳を作れないかとの依頼があり作成したもの。

全ての種類の紙を全く同条件のもと、同じ場所の水、同じ職人、同じ時間(流石に時間までは揃えられなかった。)で揃えて紙漉きを行う必要があり、黒谷の職人さんは相当大変だったようです。大学や博物館、修復を行なっている先生などがご購入されており、中には古代の漉き方を実践している紙もある。※価格¥10,000−



今回、改めて気づかされたことは、昔は日常的な暮らしの中に和紙が存在していたということ。そして、歴史の中で、使用用途、流通量、生産性、伝統や文化にあわせて、紙そのものが多様化し、変化してきたということ。

和紙と洋紙は、それぞれにそれぞれの良さがある。

ただ、和紙に触れる機会が少なくなればなるほど、その良さに触れる機会が少なくなってしまうのは寂しいことであり、何よりももったいない。

以前は、どういったところで和紙が使われていたのか?なぜそこに和紙が使われていたのか?を知ること、考えること、そして伝えていくことが、和紙という選択肢をさまざまなところで増やしていくきっかけ作りにつながると思います。

水が豊富であり、且つ流水がある場所で原料の洗浄を行う。それが、より良い紙をつくるのだそう。それは手間がかかる作業でもあるし、時間もかかる。でも、そうすることで、無駄ひとつないセルロース(植物性繊維の主な成分)だけになったような素晴らしい紙が生まれます。

そして、その紙は1,000年もつ紙となる。

伝統的な技法の中には、計り知れない先人たちの知恵と歴史がつまっており、だからこそ手漉き紙の持つ風合いや質感が生まれ、言葉では言い表せない安らぎのようなものが感じられる。

和紙のある暮らしを育むことで、そんなオモイを巡らせることのできる、ゆとりが生まれてくるかもしれない。


今回選定させていただいた楮紙は本当にごくごく一部になります。おそらく、次回も楮紙についてのご紹介第2段となる予感です。

また、ご紹介した紙は、全て紙の温度さんでご購入可能なので是非現物を見て、触って、その質感を確かめていただけたら嬉しいです。

※オンラインサイトURLはこちら↓
https://www.kaminoondo.co.jp



それにしても、花岡社長の体験談にはいつも驚愕させられるばかりです。

こんな紙のコラムを、次回もお楽しみして下さい。
ではでは。

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