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今この瞬間の「楽しい」が、100年続く希望となる。


水の中でまざりあう繊維に触れたときの感覚。

そうやって作られたものを手にしたときに生じるなんともいえない質感。

それは、ぼくらの日常において、忘れゆく感覚を取り戻すことかもしれない。


そんな手仕事の紙がもつ魅力に惹かれ、

手仕事の紙を残すため、「紙いちまいでできること」を探って、300日の「世界の紙を巡る旅」にでた女性がいる。

kami/(紙一重)浪江由唯さんだ。


今回は、300日の旅を終え帰国した彼女に話をお伺いした。


kami_浪江さん 2020-07-14

kami/(かみひとえ) 浪江由唯さん 
※突然の依頼にも関わらず、オンライン取材に気さくに応じてくれた。


好きだからこそできること。

「紙は、布と同じ素材であり、日常に溶け込んだ似たような存在にもかかわらず、今まで習ったこともないし、情報発信している人もかなり少ない。これは一体なんでなんだろう?と思ったのがきっかけだった。」

そこから、当時大学3年生だった浪江さんは、受講していた文化人類学のゼミで「手仕事における紙」をキーワードに調べ始めて、紙の面白さに目覚めてしまったそう。

「手仕事の紙における魅力はなんといっても手触り感だと思います。そこから感じられるものは人それぞれだけど、つるっとしたものには感じられないものがそこにはある。この感覚を通して、なにかを考えたり、感じたりするきっかけになるんじゃないかな。」

「私自身5、6年前に初めて紙づくりを体験したときに、紙って本当に“水と木からできているんだ”という感動というか、衝撃が今にいたるまでの原動力になっている。」

そこから日本を飛び出して、「世界の紙を巡る旅をしてみよう!」なんてことはそうそうできるものではない。

「むちゃくちゃアクティブですよね?」
というぼくの問いかけに、

「そうですかね。紙に関して、作ってみたいと思えることや知りたいと思えることがたくさんあって。そう思えたことに、アクションを起こすハードルはまったく感じない。」

「逆に他のことにはあまり興味がないし、常識もないかもしれない(笑)」

という浪江さんからは、とても自然体で優しい雰囲気の中にある紙への念いが伝わってきた。


手触り感のある暮らしの中でのモノづくり。

今住んでいる西粟倉村(岡山県と鳥取県の県境)には、毎年10人程度の移住者が来るとのこと。モノづくりに関わる作家さんが多く、染物作家さんや革の作家さんなど、バラエティに富んでいるそう。そんな地域で、日々手触り感のある暮らしをしている。

「村内に自生している手付かずとなっていた三椏(ミツマタ)の木を刈り取って、紙の原料として工場に送るルートを作ったり、染物作家さんのところで出る布の端切れを使って紙をつくってみたりと、村内で行うことのできる紙の循環づくりを模索しています。様々なつながりの中で、紙とは違う切り口から入ってきてくれた人たちが、紙に興味をもってくれて、紙を選択肢の一つとして選んでくれようになってくれたら面白くなってくるんじゃないかな。」

実際、知り合いのモノづくりをしている方から、紙選びの依頼がきたり、デザイナーさんと一緒になってモノづくりをしていくような話もきているそう。

「地域でモノづくりをしてSNS等で発信をしている人は多少なりともいるけど、個人ではやはり限界がある。でも、そういった小さくモノづくりをしている方々と一緒になってモノづくりをしていくことが一番大事。形になるまで時間がかかってしまうが、少しずつ進めていければいいと思う。」


手仕事の紙への念い。

「これが一体何につながるのか?」
「誰にも届かずに終わるかもしれない。」
そういった不安を感じたことはないのかを聞いてみた。

「このまま続けても現状は変わらないかもしれない。そう考えることももちろんあるけど、とにかくインプットの時間が楽しいから乗り越えられる。そこには生産性や費用対効果などは全く考えていないですね。」

以前は印刷会社や組織に所属して活動していくことも考えていたそう。
でも、自分のやりたいこと、楽しいと思うことだけをし続けていくために、個人として活動をしていくことに決めた浪江さん。

「私が世界をめぐる旅で見てきたものを伝え、個人として楽しく見せられる範囲のなかでこれからも活動していきたい。その方が、知らない人からも面白がってもらえるのではないかなと思っています。日常の中で手触り感を感じることが、少なくなってきているのは確かで、紙自体も先細りの未来がまっているのかもしれない。でも、手仕事の紙に備わる存在そのもの魅力を、各々が感じとってもらえるように届けたいし、残していきたい。」

「紙のこれからの価値なんて分からないし、そもそも世の中がどうなっていくのかもわからない。わからないのであれば、自分の信じている楽しさや魅力を発信していけばいいし、作っていけばいい。どういう文化であれば10年後、100年後残していくことができるのか?今の自分にできることをしていきたい。」



モノの価値を決めるのは、そのモノを見たり、聞いたり、触れたりすることのできる受け取り手であるということ。

その価値を信じて発信して、魅力的に見せるための努力と熱量が、その人としての魅力を高めていくことにつながる。

「紙をとおしてあらゆるオモイを具現化するお手伝いをしていきたい。」

ぼく自身、あらためてそう感じた。


浪江さんは、現在本を執筆中とのこと。今年中には出版予定で、9月か10月頃には出版に向けたクラウドファンディングなども予定しているそう。様々なトークイベントやお店の出店などもあるようなので、興味のある方は是非下記リンクよりご確認ください。



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