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就職

きょう子は、有名大手のM物産に就職を決め、ヨシ枝とジャチはこれも大手のM商事に就職が決まっていた。
私だけが出遅れていたが、やっとこれでみんな揃って就職先を決めたのだった。

芸術的なセンス、特にイラストの才能に長けていたきょう子は、イラストレーターになるのだと思っていたが、地道な道を選んだ、と言える。
ヨシ枝とジャチは、バンドを組んでいたが、音楽の世界とも就職を期に決別したのかどうか、今となっては分からない。

私は私で、いったい何をしたいのか分からないまま、就職してしまうのだった。

入社式は、4月1日だった。

その前日、私は姉たちとともに、あるテレビ局に向かっていた。
実は、当時 朝の番組でタレントの私物をオークションにかけて、観覧者に売る、という番組があり、私が大ファンだった野口五郎が出る回に当たっていたのだ。
姉がハガキを出し、3人姉妹で当選していた。

ドキドキだった。

誰だったかは忘れたが、ある女優の描いた油絵を長姉が5,000円で落札した。
後で思えば格安の落札だった。その女優、有名な画家の実娘だった。

そして、いよいよメインゲストの野口五郎の私物が出品された。
それは、彼の私服、セーターと柄シャツだった。
物はなんでも良かった。
とにかく落札したくて、ファンのみんなは前のめりで声を上げる。
あっという間に、20,000円まで競りあがった。
「20,000円!」と手を挙げたのは私の目の前にいた女子だった。
すかさず私が「25,000円!」と手を挙げたとたんに、司会の土居マサルが「はい!25,000円で落札!」と、その場をストップしてくれた。
私は、野口五郎の前まで呼ばれ、インタビューを受け、野口五郎本人から品物を受け取った。
そして、番組が終わる直前に「先ほどの方に」と言って、高額で落札した私に楽屋で使っていたというドライヤーを手渡してくれた。

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