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ホステス時代

ホステス時代のこと書きたいな〜

って言っても、働いたのは1か月だけなんだけど(笑)

私、ローンを組んで美容整形したんだよね。

それで、前に働いていた会社を辞めちゃって、収入が途絶えたの。

ストレスで心身共に病んじゃってたから、3ヶ月くらい自宅療養していた。

でも、ローンの支払いが毎月30,900円もあったの。

貯蓄がみるみる減っていって、物凄く焦った。

まだ万全じゃなかったけれども、『このままじゃ家賃も払えなくなるし、生活出来なくなっちゃう!』って。

それで私、考えた。

もう、お水やるしかないって。

稼げる仕事イコール「夜のお仕事」ってイメージがついていたの。

でも、私は自他ともに認めるブス。

そんなブスが、お水なんて出来るのか?

そもそも採用してもらえるのか?

『自分には向いていない』

『出来るわけがない』

そう思っていた。

でも、貯蓄残高が30万円を切ろうとしていた。

もう、悠長に仕事を選んでいる場合ではなかった。

そして、私は美容整形をした後だった。

整形前の私なら絶対無理だけど、整形した今なら、もしかしたらワンチャンあるかも?

私は上京した時から『何でもやってみよう』『たくさん失敗して、たくさん恥をかこう』という抱負を立てていた。

だから、とりあえずネットで水商売の記事を片っ端から読みまくり、決意を固めていったんだ。

そうして見つけた。

『会員制クラブのフロアレディ』

場所は銀座5丁目。

求人を見て「ココだ!!」と思った。

どうせ水商売で働くなら、日本で最高レベルの「銀座」に挑戦しよう。

『駄目で元々』

『当たって砕けろ』

私はネット求人からすぐに面接希望のメールを送った。

担当者から直ぐに返信があり、サクッと面接が決まった。

『ココで落とされたら、自分には縁がなかったんだと思って諦めよう。だから一回だけ、チャレンジしよう!』

そう心に決めて面接に挑んだ。

当日、白いブラウスに、ネイビーでレース調のタイトスカートを履いていった。

お店の場所は、大通りから一本細い道に入って真ん中あたりの距離にあった。

雑居ビルの5階。

エレベーターに乗り「チン」と音を立てて扉が開いた。

ズラッと並んだお酒のボトル。

磨き上げられたグラス。

重厚な木製のカウンター。

豪華なシャンデリア。

赤い絨毯に、高級そうな布地のソファー。

別世界がそこには広がっていた。



面接を担当してくれたのは、その店の店長だった。

30代くらいでスラッとした体型の男性。

オーダーメイドなのか、ジャストサイズの上等なスーツを身に纏っている。

奥のソファー席を進められて、腰を下ろした。

面接では何故うちの店に応募したのか、どんな理由でホステスをやってみたいと思ったのか等、ありふれたことを聞かれた。

私はその質問に対して一つずつ慎重に言葉を選んで回答していった。

店長は終始、鋭い眼差しで品定めするように私を見つめていた。

あまりの鋭さに、貫かれそうだった。

嘘や誤魔化しを一切見逃すまいといった態度だった。

心の内が、全て見透かされているような、居心地の悪さを私は感じていた。

面接の最後にマスクを外すように指示された。

当時、コロナ禍だったので、当然マスクを付けていた。

「マスクを外してください」

そう言われ、おずおずとマスクを外した。

正面から店長と向き合う。

その瞬間、ハッと息を飲んだ気配があった。

それで面接は終了した。

あの息を飲んだのはどういう理由があったのだろう。

あまりのブスさに言葉を失ってしまったのではないか。

そう、不安に駆られながらも、取り敢えず帰宅してから面接のお礼メールを送った。

あとは運を天に任せるのみ。

私は祈るように結果を待った。

3日後、お店から返信があった。

なんと、採用されたんだ。

面接時と同じ格好で、19時に店に来るようにとメールで指示された。



メールの指示通り、19時ぴったりにお店に着いた。

お店にはエレベーターで上がるのだけど、そこで40〜50代くらいの男性二人と乗り合わせた。

男性たちは5階を押していた。

お店のお客様だった。

私はお客様と共に出勤した。

初日はシミュレーションのようなものだと聞いていた。

店に着くなり、店長から「お客様がくる前に出勤するように」と言われた。

19時に来いと言われたから時間通りに来たのに、と内心文句を垂れがら「はい、すみません」と返事をした。

お客様はソファー席に座った。

私も同じ席につくように店長から促されて座る。

お店で源氏名をどうするか聞かれた。

考えるのが面倒だったので、本名を使うことにした。

「今日から入りました、美咲さんです」

店長が最初に挨拶をする。

続けて私も「美咲です。宜しくお願いいたします」と挨拶をした。

おしぼりの渡し方やお酒の作り方を簡単にレクチャーされる。

教えられた通り、ぎこちなくおしぼりを渡し、緊張しながらグラスに氷を入れ、お酒を注いだ。

20〜30分くらい話すと、店長から別の席に移動するように指示された。

「ありがとうございます」と挨拶をし、退席する。

そうやって順繰りに「新入りの美咲さんです」と店長に紹介されに、席を巡った。

22時半を回った頃、店長が目配せをしてそっと席に近づいてきた。

「美咲さん、今日はもう上がっていいですよ」

私はお客様に挨拶をして、テーブルを離れた。

今日は週末。

けれども、コロナ禍だからか、銀座の夜は思ったよりも静かだった。

客入りも減っているらしい。

今日来たお客様は3組だけだった。

自粛ムードの中、ひっそりとお店は営業していた。

「お疲れさまでした。土日祝はお休みです。来週からはドレスを着てきてください。それから、お店で使うハンドバッグも用意してください」

そう指示され、お店を退勤した。

4月の夜。

その年は寒春で、まだまだ寒さが堪える季節だった。

疲労感と酔いと、夜遅くに仕事をしたせいで頭がフワフワしていた。

冷たい風が骨身にしみ、私の目を覚まさせた。

銀座線の改札口を通り、電車乗り込むと、ぼんやり揺られながら家路を辿った。



月曜日の16時半

私は銀座のレンタルドレスショップに来ていた。

出勤は19時からだけど、心配性なんだ。

レンタル料は、一晩一着1000〜3000円台。

種類は少ないけど、一応靴もレンタル可能。

小物やアクセサリー類の販売もしている。

そこで30分かけてお店に来ていくドレスを吟味していた。

更に30分かけて試着をし、会計を済ませて店を出る。

時刻は17時半。

まだまだお店のオープンまでには余裕があったので、近所の喫茶店に入って時間を潰す。

ドレスの上にコートを羽織り、5cmはあろうピンヒールを履いて銀座の街を闊歩した。

すると、沢山の店からスカウトされる。

あんなに声をかけられたのは人生ではじめて。

銀座で働いていた1ヶ月間、毎日のように黒服の方から勧誘された。

そうして19時。

お客様がいらっしゃるまで、女性たちはソファー席で待機し、みんな一心不乱にスマホをタップする。

勿論遊んでいるわけじゃない。

営業のLINEを送っているんだ。

ちなみにホステスは永久指名制。

基本、指名替えはない。

だから、女性たちは新規のお客様を掴むしかない。

あとはヘルプで宅を盛り上げたり、お客様に誘われたらアフターに同行したりする。

(指名を取れたら、お客様と交渉して同伴したりもする)

「女性たちが必死に頑張って稼いでくれるんだから、徹底的にサポートしなさい」

その傍らで、店長がボーイ達に檄を飛ばしていた。

圧倒された。

世間は男女平等を訴えながらも、まだまだ男性優位の風潮が根強い社会。

しかし、夜職では女性がヒエラルキー。

女性がトップに立ち、男性が支えるという構図がとても新鮮だった。

店で働く女性たちは、みんな才色兼備で、驚くほど見目麗しい方たちばかり。

女優、モデル、ピアニスト、歌手、CA、バイリンガル…

本当に別世界の人々ばかり。

そして、女性たちは容姿が美しいだけじゃなく、心も美しかった。

みんな気品が漂っていた。

お客様に物凄く濃いお酒を注がれたら、こっそり水を入れて薄めてくれたり、飲みすぎていたら「大丈夫?」と声を掛けてくれたりしたことが何度もあった。

当時、You Tubeでキャバ嬢達の下剋上を見ていた私は、夜職の世界はもっと殺伐としていると思っていた。

だから驚いた。

永久指名制で、お客様を奪い合う必要がないのもあると思う。

穏やかで優しい方が多かった。

「何故、未経験でホステスをやってみたいと思ったんですか?」

ある時、店長から聞かれた。

「綺麗になりたいからです」

私は正直に答えた。

「なれるよ。だって心が綺麗だから」

嬉しかった。

『何故自分が採用されたのだろう』

ずっと不思議に思っていた。

店長が私を採用したのは、外見以外のところを評価してくれたからなんだ。

それが分かって嬉しかった。

お客様は政治家、大企業の役員、何の仕事をしているかは分からないけど、毎日のように来店しては豪遊する方。

とにかく共通しているのは、みんな恐ろしくお金持ちだということ。

私は一生懸命頑張った。

けれども結局、店を辞めるまでに1人も指名を獲れなかった。

コロナで大打撃を受けていたせいもある。

ただ、1ヶ月働いてみてよく分かった。

ここは自分が生きるべき世界ではないということを。

十二分に痛感した。

水商売というのは、女性そのものが商品なんだ。

愛されることが仕事なんだ。

みんな、自分は愛される価値があるのだと信じている。

自信を持っている。

類稀なる美貌と話術でお客様を魅了するんだ。

世の中の常識とは180°違った世界だった。

私には自信がなかった。

そもそも向いていなかったんだ。

そして、私が望む生き方ではなかった。

それでも日本一である銀座の地で、本来なら巡り合えない方々と交流したことは、とても濃い経験になった。

毎晩深夜0時に仕事を上がり、店から出た時、まるでシンデレラの魔法が解けたような心地になった。

それくらい非日常的で、現実感がなかった。

魔法が解けた今、二度と関わることのない世界。

27歳の春。

寒い寒い春だった。

私はGW前に店を辞めた。

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