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失恋した話

22歳くらいの時。

上京するまでの20代前半。
娯楽の少ない田舎町で、私の趣味はbar巡りだったんだよね。

そして、近所じゃなくて、少し足を伸ばして県内で一番栄えている街に当時はよく通っていたの。

『MARIO』って名前のbarだった。

車で行って、コインパーキングに駐車して、帰りはネカフェでお酒が抜けるまで仮眠と漫喫を楽しんでた。

bar兼レストランって感じ。

お洒落な内装に、オレンジの仄温かい、ムーディーな照明。

働いているスタッフさんたちはみんな男性だった。

そこで出会ったのが、私と同い年のバーテンダーさんだったんだよね。

入社3ヶ月目の見習いだった。

初めて話した時、すっごく楽しかったの。

それで私は『お友達になりたいな』って、凄く思ったんだよね。

でも店員さん、しかも異性にそういったことを話す勇気がなくって。

それから足繁く通うようになったの。

そのbarに。

最初に話した時は、お互いに意気投合って感じで、話が盛り上がった。

そして、その方の奢りで一杯、サービスカクテルを頂いたんだ。

それが凄く嬉しくって。

だから、わずか一週間後に再びその店へ行ったの。

初めて行った時、私は「自宅から遠いから、中々頻繁には通えないと思います」って伝えていたんだ。

だからなのかな。

初めてお店に行った時は歓迎ムードだったのに、2回目は微妙な空気だったの。

そして、その同い年のバーテンダーさんに再び会った。

サービスカクテルのお礼を伝えたの。

でも「そんなことはしていない」「記憶違いだったんじゃない?」って言われたんだ。

他のスタッフさんも同様に否定してたの。

今思うと、私の『友達になりたい』って気持ちが、だんだん歪んだ欲求になりはじめているのを感じ取っていたんだと思う。

でも「仲良くなりたい」って思っていたから、毎週のように通うようになったの。

私は馴染みの客になりつつあったから、お店の経営側からしたら歓迎されていたと思う。

同時に、そのバーテンダーさんを私から守ろうとする雰囲気もあった。

はじめの時のように、ずっと私に接客してくれることはなくなったの。

私は、何か違和感を感じながらも、その違和感を打ち消したくて、益々お店に足繁く通うようになった。

だから、お店側の空気も変わっていったの。

私は、そのbarだけじゃなくて、別のbarにはしごすることもあった。

近所のbarにもよく通っていた。

そして、その『友達になりたい』と思っているバーテンダーさんと、そのお店のことをそれとなく話していたの。

みんなから「もう行かない方がいいよ」って、忠告されてたんだ。

でも、その忠告を私は無視したの。

受け入れられなかったんだ。

そして『友達になりたい』という思いは、恋心へと変わっていったんだ。

顔もロクに覚えてないのに、少女漫画のヒロインのように、その人と仲良くなるイメージを思い浮かべていたの。

夢見ていたの。

自分の想いが、独り歩きを初めて、暴走していっているのを自覚していた。

でも、そこまで行ったらもう誰にも止められなかった。

自分でさえ、その衝動を止めることが出来なかった。

ちなみに、そのバーテンダーさんが、別のお客さんと会話している時に「彼女がいない」と話しているのを私は耳ざとく聞いていたんだ。

だから私は自分にもチャンスがあるって思ってしまったの。

それで、その同い年のバーテンダーさんが接客してくれるまで、私は粘った。

中々帰ろうとしなかった。

他のバーテンダーさんが対応すると、ガッカリした。

私は、その想い人と何とか店員と客以上の関係を築きたくて、ダイエットしたり、お洒落を頑張ったりしていたんだ。

お店のスタッフさんたちみんなが、私のことを奇異な目で見るようになった。

おそらく私は有名人になっていたんだ。

とっても不名誉な悪目立ちをしていたんだ。

周りからの制止もあって、3ヶ月はなんとか我慢した。

「やめたほうがいい」

そう言われていたのに、私は理想的な夢を描き続けていたんだ。

恋愛と片想いが見せる、歪んだ夢を。

遂に、私はまたそのbarへ行ってしまったの。

そのバーテンダーさんが「木曜日が休み」という情報を前もって聞いていたんだ。

そして勉強がてら、自分もお客さんとして休日にお店へ来るという話も聞いていたの。

だから木曜日に私は行ったんだ。

バッチリお洒落をキメた私は、一番最初にお店に来た時と様変わりしていた。

まさに「恋する女はキレイさ」だ。

お店のスタッフたちが、奇特な人を見る目で私のことを見物していた。

厨房のスタッフさんまで、わざわざ店内に出てきて私のことを無遠慮にジロジロ見ていたの。

裏で何事かをヒソヒソと話していた。

私はお店のほぼオープン時間に行ったの。

その2時間後くらいに、例の彼がやってきたんだ。

私は緊張でお店の出入り口を見ることができなくて、ずっと別のバーテンダーさんと話していた。

でも、店内の異様な空気を敏感に感じとっていたんだ。

ようやく、彼が自分の席から3席くらい離れたところに座っているのが分かった。

別の女性を連れて。

「ブス!!ブーーーースッ!!!」

そう、離れた席から野次を飛ばしたんだ。

隣りにいた女性は彼女だった。

バーテンダーさんたちと、彼らの会話を聞いていて事情を察した。

彼女が「ちょっと、可哀想だよ〜(笑)」って言ってたんだ。

みんながニヤニヤしていた。

まるで集団リンチ。

私は吊し上げにあったんだ。

深く、深く傷ついた。

そして、二度とそのbarに行くことはなかった。

もう遠出してまでbarに行くこともなくなった。

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