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「どうにかなる」と「どうしよう」の乱高下/ラトビア日記 #1

◎ 2023年8月からラトビア大学の大学院に留学を始めました。毎日つけたひとりごとみたいな日記を、毎週1本更新したいと思います。なるべくそのとき感じた言葉や感覚をとらえておきたいため、ネガティブな発言もあります。そのため、一部有料にしています。

まえがきみたいなnote


2023年8月25日 電車に揺られ心も揺れ

 どうかしている、という気持ちと、なんとかなる、という気持ちを行ったり来たりしている。泣きそうになったり、ウキウキしたり。

 いくつか、事前に準備しておかなければならない追加の書類を見つけて慌てて印刷する。実家の、暑い二階の部屋で、この汗は冷や汗か、ただの酷暑か、どっちだろう、などと考えながらコピー機から吐き出されるA4用紙をまとめる。

 必要書類の一つを市役所で発行してもらうため近所を運転したら、ランドセルを背負った小学生が何人も歩いているのを見つけた。夏休みが終わり、始業式だったのだろうか。

 眩し過ぎて白い日差しをあびながら、見守りのボランティアの人たちも、ポイントごとに立っている。

 彼らの様子を見ながら「ここで穏やかに暮らす選択肢だってあるのか」などと、想像したこともないことが浮かんで、自分でも驚いた。

 なんの地縁も知り合いも何もない国に、単身、スーツケースを転がして向かうのだから、やっぱりどうかしていると思わずにはいられない。

 どうかしていても、どうかしている者なりの矜持がある。

2023年8月27日 ラトビア着いた

 気づかないふりをしているが、ずっと不安だ。

 何が不安かというと、居住許可が取れていないことが大きい。

このまま取れないと、わたしは3ヶ月以内に日本に帰らなければならない。帰ってもいいが、何も成し遂げないまま、単なる手続き上の不備で帰国せざるを得ないのは不本意だ。

 身体さえ元気であれば、どうなったっていいのでは、とも思うが、意を決して出国したのだし、それなりにやってみたいことだってある。

それらを放り出して帰国なんて、思い切りがいいのか悪いのかわからない。

 ラトビアに着いた日は土日だったからどの役所も閉まっている。大学の窓口ももちろんおやすみ。

 だから、誰かに今後のことを相談しようにも聞けず、とりあえず街中を散歩してみるがもともと大きな街ではないから、なんとなく石畳の上を歩き続けて暗くなる前に帰宅。何をしていても心ここに在らず。唯一のすくいはジブリ映画をネトフリで観られること……。気を紛らわすのに最適だった。

 「暮らす」ということがどういうことなのかを考える。どこかの国の人と結婚するか、ものすごく惚れ込んで永住権を獲得するかしない限り、わたしはずっと日本人でありつづける。それがネックで、それが強み。強みと弱みを併せ持つ日本人というアイデンティティは、どうしたら効果的にわたしや周りを助けてくれるだろうか。その相乗効果を感じられて初めて「この国で暮らしている」と言える気がする。

 そのためにはやはり、誰か知り合いを作りたい。一人旅の時だって、ずっと一人だったわけじゃない。

 ホストファミリーや、現地でできた友人と時間を過ごし、頼り、尊重しあっていたから、続けられたのだ。

 今はまるっきり一人。だから余計なことも考えてしまう。

 大家さんに初めて会ったが、ものすごく早口でものすごく無愛想だった。段取りや連絡は誠実だから、単に住人との交流に興味がないだけだと思う。

 ほんのすこし「大家さんと仲良くなれるかな」と期待していたから、ざんねんだった。日本のお土産で距離を縮める作戦も、あんまりうまくいかなかった。

 居住許可については、大学の入学許可証が届けばなんとかなる。あとは、ラトビア国内の病院で肺炎にかかっていないことを証明する検査が必要らしいが、これもまた難関だ。大学の窓口で相談しようと思う。

2023年8月28日 いい日

 今日は、いい日だった。

 午前中は、細く長く繋がっていた方に、仕事の相談をしてみた。すると、すぐに話を聞く時間を作ってくださった。人とまともに会話すること自体、3日ぶりだった。

 午後は、カフェで日本から持ってきた仕事をし、夕方は在ラトビア日本大使館へ行った。肺炎の検査をする病院の目処が立たなかったから、どこがいいのか聞いてみたかったから。

 あとは単純に、有事の際どこへ駆け込めばいいのか事前に確認したかった。駆け込むような事案が発生するのは勘弁してほしいけれど。

 閉館ギリギリの時間だったが、快く対応いただいて月に1回ラトビアの国立図書館で開かれている日本語クラスの存在も教えてもらった。

 日本人なら誰でも歓迎で、出入り自由らしい。

 2023年8月時点でのラトビア在住の日本人は、約50人とのこと。たしかに街を歩いていても、日本人はおろか、アジア人らしき外見の人は、ほとんど見ない。

 首都のリガはどことなく、北海道の旭川に似ている。人口密度は低く、生活するには困らないほどの飲食店や娯楽施設があり、公園も多い。

 リガの人口は約62万人。旭川は32万人。バルト三国の首都の中では、一番多い。

 日本の人口密度に慣れていると、リガの人影がなんだか少なく感じるのは当たり前なのかもしれない。

2023年8月29日 ジェットコースターな日

午前

 朝起きたら、一昨日の不安感が、また強く濃くなっていた。

 せっかく昨日「今日はいい日だった」と思って寝たのに、結局朝4時に目が覚めた。時差ぼけではない。

 寝て起きても、授業登録の締め切りは今週末で、でも入学許可は取れていない現状は変わらない。焦る。

 焦っている要素を書き出してみる。

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