見出し画像

下戸がうらやむ怒りと酒【創作メルティングポット#06】

何かに対して怒りを抱えている人を見ると、目が離せなくなる。

じっとその対象を見つめながら「絶対に許さない」と思いつつ、言葉にも態度にも示さず、その人が一番気持ちいい方法で“復讐”する──復讐の発露が、創作物であると、なお好い。

表現者や創作をする人のことが好きなのは、作り手がいつも何かに対して熱い怒りをグッと腹の底に秘めているからだ。

何故なら、わたし自身が何かを表現したり発信したりするときに、怒りがガソリンになっているからかもしれない。

そして図らずもチェコ好きさんのnoteと似たような書き出しになってしまった(すみません……)。

あとーすさん、チェコ好きさん、よぴこさん、小山内さんが盛り上がっているところに便乗して「創作メルティングポット」というチームで文学フリマに出ようと決めたのは、ほとんど思いつきだった、と告白したい。

心のどこかで表現する場所を求めていたことは確かだけれど、様々な言い訳を重ねては優先順位をつけ損なって、後回し、後回しにしていたのが「物語を書く」ことだった。

「もし、物語を書くなら今わたしが一番書きたいことを書こう」。

そう思って、いざ原稿を書き出してみたらば。

あら?

……あらら?

………これって、わたしが一番書きたいこと……だっけ?

少なくとも、わたしが頭で認識していた「書きたいこと」とは違う方へ、物語はどんどん進んでいく。

そこでやっと、気づいた。

ああ、これは、復讐の物語だ、ということ。

一見、そういう話には見えない。

というか、わたしが自白しない限りは復讐の物語として読まれることはないような代物が立ち現れた。

タイトルは「酒呑みに告グ」。

下戸のわたしから、酒呑みのあなたへの復讐の物語──

というほど露骨ではないが、実際にわたしが見聞きした経験をベースにしている。

3割ノンフィクション、7割フィクションの、酒と怒りを巡る絶望と希望の物語。

「酒呑みに告グ」には、短編が2本と、チェコ好きさんによる寄稿が1本(チェコさんは下戸視点で寄稿してくださった。わたしのものとはまた色が全然違うのでお楽しみに)。

短編のタイトルは1本目は「プルタブヒエラルキー 」。

2本目は「お酒飲む人花なら蕾 今日も咲け咲け明日も咲け」です(長い)。

前者は下戸(子ども)から酒呑み(大人)への復讐の物語、後者は、酒呑みから酒を汚した者への復讐の物語になった。

物語にぶちまけられたのは、わたしの怒りというよりは、誰かが抱えていた怒り、と言った方が正しい。

わたしが子どもの頃、なんとなく感じていた、同じクラスメイトの怒り。

酒を愛し酒に振り回されていた、ある知人の怒り。

飲み会は好きでも缶ビール1缶も飲み干せない、下戸花マルなわたしには、到底感じ得ないであろうお酒をとりまく怒りで仕上がった物語。

だからやっぱりこれは、100パーセント、フィクションかもしれない。

----(以下「プルタブヒエラルキー 」より一部抜粋)---

月曜日の朝。

フユがいつもの時間に登校すると、校内で一番大きい正門の左右にふたりずつ、六年生と思われる生徒が立っていた。

「プルタブ回収にご協力お願いしまーす」という声を張り上げながら、頭を下げているのが見える。

女子と男子が左右に分かれ、二名ずつ立っている。女子生徒のほうはどちらも見覚えがあるけれど、男子生徒の方は知らない人たちだな、とフユは思った。女子生徒たちの方が背が高く、お辞儀もどこかこなれている。

フユの通っている学校では、缶の開け口についているプルタブを回収するボランティア活動が時折おこなわれている。 

小学校に入学したばかりのころ、不定期に正門に現れるこのお兄さんとお姉さんたちが、一体何のためにプルタブを回収しているのか、フユには分からなかった。

いつだか生徒全員が体育館に集められる朝の全校集会で、校長先生が「みんなで集めたプルタブで、来年から入学する一年生のための折りたたみ式のアルミ椅子を買うことができました」と言っていて、プルタブをたくさん集めると別のものに交換できるらしいことは、その時に知った。

だから、フユは自分で少しずつ、プルタブを集めている。

学校では、あの校長先生の話をすっかり忘れた頃にいつも高学年生がプルタブ回収用の箱を持って立っているところを見かけるので、フユはいつもプルタブ回収箱の中のプルタブを見るたび、なんとも言えない気持ちになる。

プルタブ回収期間に、ボランティアに参加するためには、不意に訪れる来たるべきプルタブ回収期間に向けてコツコツと自宅で集めておく必要がある。

けれど、フユはそのボランティアには参加したことはない。いつか、たっぷりと貯まったプルタブで、自分の欲しいものを手に入れるのだ。

その月曜日の朝は、朝晩は冷え込見がちな、秋が深まった日のことで、フユがいよいよ正門に差しかかろうというとき、ちょうど冷たい風が短いジャンバースカートを履いているフユの素足をヒュルルとかすめていった。

「プルタブ回収にご協力お願いしまあーす」。

何度か見たことのある女子生徒と、やっぱり見覚えのない男子生徒二人が正門の両脇で、飽くことなく声を張り上げている。

フユは、歩みをゆるめてプルタブ回収の箱の中身を盗み見た。

ダンボールで作られたお手製のプルタブ回収箱の中で、平べったいプルタブが鈍い反射でキラッと光った。

フユは、その大量のプルタブを見ながらゴクリと生唾を飲み込んだ。

──こんなにたくさん集めて、今度はいったい何と交換しようというのだろう。わたしだったら折りたたみ式の椅子なんかじゃなくて、もっと素敵なものと交換するのにな──。

そんなことを考えて、いつの間にか正門の真ん中で立ち止まっているフユに、ショートヘアで赤いトレーナーを着た方の女子生徒が話しかけてきた。

「プルタブ、持ってきた?」

フユは釘付けになっていた視線を急いで声のする方を向け、慌てて首を横に振った。

「そっか、今週はプルタブ回収週間だから、お家にあったら明日持ってきてね」

赤いトレーナーの女子生徒は軽やかにフユに笑いかけると、また正門の脇に戻ってプルタブを持ってくる生徒たちに声をかけ始めた。

正門をくぐり、下駄箱の方へ向かって行く途中、フユの後ろで大きなガラガラという音がした。

振り返ると、同じクラスの男子生徒が大きなビニール袋を小さな体で引きずりながら正門へ近づいてくるところだった。

あれ、あの子。確か同じクラスの……。

フユは、立ち止まって男子生徒のビニール袋の中へ視線を移した。その中には、中央だけ軽くへこんだ大量の空きカンが入っていた。

ここから先は

0字

¥ 100

読んでいただき、本当にありがとうございます。サポートいただいた分は創作活動に大切に使わせていただきます。