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大学院留学中に出産した友人の話

イギリス大学院留学で出会ったナイジェリア人のクラスメイトのこと。

当時は、『もしいつか自分が出産する日が来たら、きっと彼女のことを思い出すに違いない』と思っていた。
そしてそれから数年後に妊娠、出産した時に彼女のすごさを改めて感じることになった。

彼女の名前はエミリー(仮名)。
イギリスの大学院で仲良くなった初めてのアフリカ人女性。出身はナイジェリア。
ナイジェリアは英語が公用語であり、もちろんエミリーも英語はペラペラ。だけど独特なイントネーションがあり、ネイティブでない私にとっては慣れるまではなかなか聞き取りにくかった。


年齢は忘れたけど、結婚して子どももおり、夫と子どもたちはナイジェリアに残してきたとのこと。子どもは幼稚園児〜小学生ぐらいまでの年齢の子が確か3人いた。

いや、もうその時点で当時の私からしたらビックリ仰天!!

結婚してるのに旦那さんと離れて暮らすの?!
小さい子どもたち置いてきて大丈夫なの?!
子どもたちさみしくないの?!
誰が子どものお世話してるの?!

思わず色んなことを聞いてしまったのを覚えている。
エミリーは「何でそんなに驚いているの?」と言った様子で、「子どもたちは私のファミリーが面倒をみているんだよ」と教えてくれた。

さらに驚いたのは、エミリーは第4子を妊娠中だということ(´⊙ω⊙`)
大学院のコースがスタートした9月時点で妊娠5-6ヶ月ぐらいだったんだと思う。

授業で会うたびにお腹がどんどん大きくなっていって、そのお腹を時々なでなでさせてもらった。私は赤ちゃんが大好きだったし、産まれてくるのをとても楽しみにしていた。

今ならわかる。
お腹の中で赤ちゃんが大きくなっていくということは、ただお腹周りが大きくなるというだけのことではないのだ。体が重くて動きが制限されたり、歩くのだってしんどくなってくる。もちろんお腹をぶつけないように気をつけなくてはならない。

胃が圧迫されて食べるのが苦しいこともあれば、食欲が止まらなくてどうしようもないこともある。体がだるくて何もしたくないこともある。

私からすれば、大学院生活の一年間は私のこれまでの人生の中で最も大変な年の一つであったと言えるし、妊娠出産の一年もまた大変な年の一つであったことは言うまでもない。

その二つの大変な年がいっぺんにやってくるなんて自分にはとても考えられない。


2月半ばごろの寒い日。
その日はちょうど私の友人が日本から訪ねてきていて、その友人とイギリス観光に出掛けようとキャンパス内のバス停で待っていると、エミリーがもう今にも産まれそうな大きなお腹を抱えてゆっくりと歩いてきた。これから病院に行ってくるとのこと。”Take care!” と言った友人に対して”Enjoy London!” と笑顔で見送ってくれた光景をよく覚えている。

私は後で知ることになったのだが、まさにその日に無事に元気な男の子を出産し、翌日には退院していた。
(日本では最低でも5日ぐらい入院するのが当たり前だが、イギリスをはじめ海外ではすぐに退院するのが一般的らしい)

エミリーにはおめでとう!のメールを送り、赤ちゃんを見に行くアポを取り付けた。数人のクラスメイトと一緒に彼女のお家を訪問。お家というか、正確には彼女の寮の部屋。私も彼女もクラスメイトたちもキャンパス内の寮で生活していたのでみんなご近所さん。

彼女の部屋にお邪魔すると、ナイジェリア人の友人たちとその子どもたちが数人。訪問した私たちを温かく迎え入れてくれた。

エミリーは元気そうで、新生児の小さなベビーを片手でヒョイっと持ち上げ、
「で、授業では何の勉強をしたの?」
「先生はどんなことを話してた?」
と、授業の進捗状況をとても気にしていた。

ベビーは産まれたてとは思えないぐらい表情がはっきりしているし、首がもう座ってるんじゃないか?!っていうぐらい体もしっかりしているし、なんか想像してたのとは違って驚いた。

さらに、これは自分が出産した後に思ったことだけれど、産後ってたいていの人は心身ともに疲弊してしまうものなのに、エミリーはそんな様子を全く見せてなかった気がする。夜泣きのことや母乳のことより、授業のことが心配だなんて!

そしてエミリーを取り巻く友人たちにも感動した。まるで家族同然、当たり前のようにエミリーやベビーのお世話をしたり、ご飯を作ったり。エミリーもまた、他人の子どもをきつめに叱りつけたりしていた。


アフリカではコミュニティで子どもを育てると聞いたことがあったが、その様子を目の当たりにした気がした。しかも母国ではない留学先でも同じようにするんだと知った。とても温かくて居心地の良い空間だったことを覚えている。だからエミリーは安心して出産できたんだな、と納得した。

4回目の出産だし、支えてくれる人たちがいる。

とは言っても、大学院で勉強しながら出産するということは並大抵の覚悟でできることではない。彼女の学ぶ意欲には尊敬しかない。ナイジェリアでは教師や教育関係の仕事についていた。そして母国の教育をより良いものにしたいとの思いで留学していた。

授業中には積極的に発言したり、質問したり、自分の思いや考えを堂々と話していた姿が思い出される。


素晴らしい友人に出会えたことは今でも私の心の支えになっている。
あの時産まれたベビーももう小学生になっているはず。

また会いたいなぁ!

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