野口み里

大体寝起き。

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    野口み里の書いた小説まとめ

  • 精神病院で生きていた話 まとめ

    まとめです。

最近の記事

猫の目

「迷い猫探しています」 そう書いたチラシを管理人の許可を取りマンションの入り口に貼った。マンションの隣にある惣菜屋さんも快く貼ってくれた。チラシには猫の写真と「もも3歳メス。人懐っこいです。桃色の首輪をしています。見つけた方はこちらまでご連絡ください、謝礼します。加納 090-XXXX―XXXX」と書いた。 ももがいなくなったのは昨日の夜だった。仕事が終わり帰宅したわたしは洗濯をしていた。ベランダで洗濯物を干しているとサッシの隙間からにゅるっとももが出てきた。ももはベラン

    • 嘘の卒業

      わたしは嘘を吐くのが好きだ。誰も傷つかない、誰も得をしない、ほっこりする嘘が好きだ。 わたし市橋紗季は公立鬼戸島中学校に通う、平々凡々な中学生。卒業も間近に迫って来てたし、進学する高校も決まっていた。 「紗季ちゃん、どこの高校に行くの?」 「八馬山高校。家から近いから。」 「え!あのヤンキーばっかりの?!」 「嘘だよ、本当は英田商業。」 「また出たよ、紗季の嘘。そうだよね、紗季の頭だったらそれくらいだよね。」 それくらい、という言葉に少し仕返しめいた意味を感じた。まあ確か

      • 働いた方が勝ち

        僕はニートだ。母と祖母に寄生している厄介者。 一日の大半は部屋で動画サイトやケーブルテレビを見たり、漫画や本を読んで過ごす。 家からはほとんど出ないで食事は母の用意した物を一人で食べる。 家族と会話する事もほとんどないが仲は険悪かといえばそうでもない。僕にとっても家族にとってもお互いは空気のような存在に近くて、同じ屋根の下に暮らす3人という事で落ち着ていた。母や祖母は諦めているようだったし、30近くになった僕も自分のことを諦めていた。 高校を卒業してすぐに就職はした。印刷

        • もっと人間失格、もっともっと人間失格

          「おい、おまえ俺にテレパシ―を送っただろう?」 「え?」 わたしは漫画を読んでいただけだし、テレパシーなんて使えるわけがない。 わたしが呆気に取られていると男は繰り返す。 「俺の悪口を言っただろう?」 目の前に立つ頭の禿げあがったガリガリのおじさんはわたしに詰め寄る。 「わ・・・私じゃないですけど・・・」 「そうか、悪かったな。」 あっさりとテレパシーおじさんは引き下がり今度はソファに座り新聞を読んでいるオジサンに同じことを聞いている。 この病棟はそういう人ばかりがいる。

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        • 野口み里の小説
          7本
        • 精神病院で生きていた話 まとめ
          22本

        記事

          おまけの一日

          2日間の有給はあっという間に過ぎたらしい。記憶が朧げなのだ。 雄二の実家に結婚の挨拶をしに行く予定で先月申請し、大嫌いな上司に頭を下げてとった有給だ。 「結婚の挨拶ねぇ、君が…ふーん」と言って有給届にハンコを押していた。あの時の顔と言ったら本当に嫌味な顔で頭にくる。 しかし雄二の実家には行かなかった。 今月の初め、雄二から両親に結婚を反対されたと言われ口論になりそのまま別れ話になりLINEもブロックされ独りきりで過ごした有給だ。 同僚の佳恵さんにしか話していなかったのに噂はす

          おまけの一日

          第3回山手線短歌吟行会レポート

          3月23日土曜日、第3回山手線吟行会が行われました。 レポートを記しますが詠んだ短歌は皆さまの物なので短歌自体は書いていないので雰囲気だけでも伝わると幸いです。 今回は第2回の終点恵比寿駅よりスタート。 行くときの電車が新宿を通り越したあたりで「これは恵比寿に止まらない…?」と不安になりましたが無事に止まりました。 駅に着き、しばらくすると文雪さんがいらっしゃいました。文雪さんは山手線吟行会は皆勤賞です。 わたしが「吟行会」と書いた紙を持って待っていると文雪さんは恥ずかし

          第3回山手線短歌吟行会レポート

          ハルカカナタ

          「はるちゃんがみえたわよ!」 部屋の外から祖母がわたしを起こす声が聞こえた。 わたしは寝ぼけ眼で部屋の鍵を開けると制服姿のはるが立っていた。 「来ちゃった」 「もう1ヶ月ぶりくらい?もっと来ればいいのに」 「そんなにしょっちゅう休んでたら卒業できないよ」 はるはわたしの幼馴染だ。はじめてクラスが一緒になったのは小学校3年生の頃。一緒に描いた漫画を見せ合ったりスーパーファミコンのゲームを貸し合ったりしてよく遊んでいた。 中学校も同じ学校で2年生では同じクラスだった。帰る時はい

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          コメダ珈琲でスキップを

          「あと食べなよ。」 そう言って彼は袋を雑に開けると一粒豆菓子を取って口に頬張る。雑に封を開けた豆菓子をわたしに渡して腕時計を外す。 いつも彼は豆菓子を一粒だけ食べてあとは全部わたしにくれる。 機嫌のいい時は「食べなよ。」と言ってくれるし、少々機嫌が悪くても一粒食べたらわたしに無言で差し出す。今日はご機嫌みたいだ。 わたしが誕生日に上げた革のベルトの時計は蒸れるからと言って飲食店ではいつも外す。忘れないかとひやひやするのだけどいつも彼は会計の前にはちゃんとつける。これくらいの扱

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          精神病院で生きていた話 その25

          「ですので、退院日決めちゃいましょう。再来週でいいですか?」 川本先生が辞めることになり、僕の退院日はあっさりと決まった。 川本先生の持っている患者はどんどんと退院が決まっていき凪ちゃんやユーミンも退院していった。 「いいなー俺、七木先生だからまだ退院決まらないんだよ。退院したら絶対ゆかりを殺してやるんだ」 大関さんは物騒な事をいう。入院させた奥さんを相当恨んでいるらしい。 ノートに大きく「ゆかりを殺す」と書いている。 この調子じゃ退院も伸びそうだな、と思っていたがしばら

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          精神病院で生きていた話 その25

          精神病院で生きていた話 その24

          佐藤さんという変わったおじいさんがいる。この人も痴呆症だ。そして傾奇者だなぁと思う行動をよくしていた。 「佐藤哲也です!よろしくお願いなすって!」なんて挨拶を何度も皆にしていたし入院着を着こなしてズボンを首に巻き着物の様に着ていたり面白いお爺さんだった。 このお爺さんも徘徊癖があり、様々な部屋に行っては「この部屋は私が百万円で買いました!皆さん出ていきなさい!」と叫んだりいろいろ困らせているお爺さんだった。 ある日、新木くんという男の子が入院してきた。新木君は精神薬にハマ

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          精神病院で生きていた話 その24

          精神病院で生きていた話 その23

          仲野さんという痴呆症のお爺ちゃんがいる。お爺ちゃんはいつも徘徊していて人の部屋に入ったり、夜中もうろうろしていて少しみんな困っていた。 盗癖もあるようで前に僕のテレホンカードが無くなった時や床頭台に置いていたお菓子が無くなった時も犯人は仲野さんであろうと思われていた。 ある日、保護室でダラダラしていると仲野さんが部屋の前に現れた。 保護室の入口には鍵がかかっているはずなのに、どうやって入ったのだろう。と思っていると檻の前に置かれた僕の荷物を漁り始めた。あぁまた盗まれる!と

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          第1回 山手線短歌吟行会レポート

          10月29日山手線短歌吟行会を行いました。 山手線短歌吟行会とは池袋からスタートして12面サイコロを振って出た数字の数だけ駅を移動しその駅で吟行をするという催しです。 何処に行くかわからないドキドキの吟行会でした✨ 参加者は、野口み里、文雪さん、いちぞうさん、二坂万丈さん 12時に池袋駅の北口に集合。 私が待ち合わせ場所に着くと文雪さんがいらっしゃって人当たりの良くてすぐに打ち解けました。 そしていちぞうさんも合流、素敵なおじさまでした。しばらくして迷っていた万丈

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          精神病院で生きていた話 その22

          「いつ怒られるか試してるんだ」 保護室生活3日目。僕はお風呂のために外に出してもらった。 「鏡を見て髭を剃りたいです」 といい看護師さんは 「じゃあ終わったら声をかけてください」 と言い、僕を洗面所において去っていった。僕はしれっとロビーに行き大関さん達と談笑をしていた。 「何あのババア!私の髪乾かすとか言ってきた!!」 沙紀ちゃんが少し怒っていた。どうやら同じく出てきた清水さんに余計な事を言われたらしい 「清水さん、美容師だったらしいよ」 「みっちー!出

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          精神病院で生きていた話 その22

          精神病院で生きていた話 その21

          保護室に入るのは何度も精神科に入院している僕でもはじめてだった。 唯一別の病院で保護室に入った時はインフルエンザに罹り隔離された時だけだ。 その時は半開放だったのでいつでもトイレなどにはいけた。 でも今回は違う。檻の中の独房で過ごす事になった。 僕は悲しい気持ちはなくなりどんな生活になるか不安だった。それと同時にはじめての保護室にワクワクもしていた。 保護室は4畳半ほどの部屋だった。マットレスが一枚敷いてあるだけの部屋。隅っこには専用のトイレがある。ただ流す所はなく、

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          精神病院で生きていた話 その21

          精神病院で生きていた話 その20

          僕は悲しくなっていた。みんな退院していく。みんないなくなっていく。それが寂しかった。 そして自分の弱さにイライラとしていた。川本先生にはいつ退院してもいいと実は言われている。 だがそれが怖くて「万全の状態で退院したい」と逃げている。そんな自分がすごく嫌で一人で作業療法室にいる時に机を強くドン!と叩いたりすごく情緒が不安定になっていた。 ある日のロビー。 僕は俯いていつものようにイライラと鬱屈とした気持ちが混在した気持ちでいた。 するとその気持ちが爆発してしまった。 目の前

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          精神病院で生きていた話 その20

          精神病院で生きていた話 その19

          病院で流行っている挨拶がある。 手を狐にしてパクパクさせながら「ぴよぴよ」という挨拶だ。 ぴよぴよと言ってもいいしジェスチャーだけでやってもいい。 僕がふざけてやり始めたらなぜか流行りはじめた挨拶だ。 ある日のロビー。 「次に流行る挨拶を考えたいな…」 「もういいよ、ぴよぴよで十分でしょう」 「ザッハトルテ!というのはどうかな」 「意味が分からない(笑)」 すると公衆電話の前に最近入院してきた女の子が現れた。いつも本を読んでいて僕らとはまだ話したことがない子だ。僕は仲

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