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ベトナム土産のド定番「蓮茶」。でも、ベトナム人は「蓮茶」を殆ど飲まないらしい!?

もしベトナムに行った事ある方なら、お土産屋さんで必ず見るのが「ベトナムコーヒー」や「蓮茶」。ティーパック入りなら、かさばらない上に、ばらまき土産としても重宝するから、旅行客には大人気。

日本でベトナム料理店を訪れても、この「蓮茶」は定番ドリンクとして必ずある。ちょっと独特の香りと苦味があるお茶だけれど、日本では珍しいので注文したくなる。

2004年から4年間、ベトナム語を大学で専攻して以来、このお茶に何の疑問も持ってこなかった私。それが、14年後の2018年、ハノイのお茶屋さんの一言をきっかけに全てが変わった。というより、ベトナムの文化をより深く知る事になった。

「ベトナム人は蓮茶を飲まない。」

この一言が私にとって、どれだけインパクトがあったか想像できるでしょうか?この言葉はまるで、「日本人は実は日本茶を飲まない。」と言われたようなもの。

例えば、日本の国外では、日本=寿司ぐらいのイメージがある様です。そんな、日本を象徴する海外の寿司レストランでも飲まれる、日本の心の様な物が日本茶。それが日本に行って、「日本人は日本茶を飲まない」なんて言われたら、ショックすぎませんか?「ドイツ人は実はビールを飲まない」のインパクトに匹敵するぐらい。

この事を教えてくれたのは、PHIN Coffeeさん。コーヒー屋さんだけれど、胡椒にナッツ、お茶、葛粉など色々販売しています。こちらのお兄さんがとても親切で英語も達者だったので、色々買うついでに蓮茶も買おうという流れに。

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「蓮茶はありますか?」と聞くと、
「あるけど、すごく高いですよ。」と
あまり気乗りしない感じで、蓮茶の入った容器をお店の奥から持って来た。

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他のお茶っ葉は、店の棚に並べてあるのに、蓮茶だけがこの容器に入っていた。ものすごい厳重。

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正確な値段を覚えていないのだけれど、手のひらサイズの袋に入って、1000~2000円ぐらいだったと思う。他のお茶が1kg500円ぐらいだったのに比べて。確かにかなり高級だった。(ベトナムの物価は、日本の1/3~1/2ぐらい)下の写真はジャスミン茶のパッケージだが、このぐらいの大きさだった。

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そして、なぜその値段なのかを詳しく説明してくれた。


最高級「蓮茶」

蓮の花はベトナムの国華であり、とても大切にされている花。5月下旬〜6月頭ごろには首都のハノイで蓮の花が咲き始め、花市場を始め、街の至る所で花束が売り買いされる。食用としても、蓮の茎や実を食べたり、ベトナム人は蓮との繋がりがとても深い。

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(写真上:ハノイのフラワーマーケット。早朝4時ぐらい)
(写真下:ハノイの蓮池。6月頃になると花が見頃で、アオザイを着た女性達が記念撮影を撮っている姿も見られる。)

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その蓮文化の一つに「蓮茶」がある。他のアジア諸国には蓮の花から作ったお茶がある様なのだが、ベトナムの「蓮茶」は、多くの場合緑茶葉に蓮の花の香りを付けたものである。その香りのつけ方には何種類かやり方があるとお店のお兄さんが教えてくれた。


1つ目は、観光客によく買われる安い蓮茶。これは実は、科学的に香りをつけているのだとか。どおりで香りが強いわけだ。

2つ目は、蓮の花の中に緑茶葉を閉じ込めて、香りをつけるやり方。

3つ目は、蓮の雄しべのみを使い、何回かに渡って香りをつけるやり方。

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そしてPHIN Coffeeさんにある「蓮茶」は、3番目の一番手間のかかる方法で作られている物なのだと。そして何と、おばあちゃんがわざわざ拵えている物だとか。

おばあちゃんもその場にいたので、お話を聞くと、作るのはとても大変だと言う。大変すぎるので、家に置いてある「蓮茶」は子ども達には絶対触らせないとか。お正月に特別なお客様がいらした時に振舞ったり、何か特別な事があるまで飲まないのだとか。それで、お兄さんは「ベトナム人は蓮茶を飲まない」と言ったのだった。


でも、おばあちゃんが伝統的に丁寧に作ったものが、最高級の「蓮茶」って何だか良いじゃない?

本物の「蓮茶」を作ってるところ、見て見たいなぁ〜。


他にも、ハノイで出会った若者達に「ハス茶をどれぐらいの頻度で飲む?」と尋ねてみた。するとやっぱり、「殆ど飲まない」という答えが返ってきた。

もちろん、各家庭で差はあるとは思うけれど、本物の蓮茶は、グビグビ飲むには勿体無い貴重な物だとわかった。そして本物を大事にしているベトナム人って、粋だなぁーと、ますますベトナムを深く知りたくなった。


余談だけれど、よく海外の友人達から、「あかねは週に何回、寿司食べるの?」と聞かれる。「えっ?なぜ基準が週なの?私は年に2-3回しか食べない!」と答えると驚かれる。

個人的に、せっかく食べるなら、良いお寿司を食べたいというのが私の意見。だから、一回寿司屋に行くと、結構良い値段がする。それで一年にちょっとだけというのが、私にとってちょうど良い。

でも、海外の寿司はファストフード的な立ち位置でもあるから、値段としても買いやすい物が手近にあることが多いのだろう。それで、週に3回は食べるような人も出てくる。彼らにとって、大将がにぎってるかとか、ネタの旬とかは、もはや問題じゃない。

これって、ベトナムの「蓮茶」で起こってる事とちょっと似てる!!何が寿司で、何が「蓮茶」か、現地と海外とではズレが起きている。

文化の比較って面白い!


そんなこんなで、
「蓮茶」のベールが一枚剥がれた2018年11月。今度は蓮のお茶を作ってる季節にも来たいなぁ〜。もっと「蓮茶」を知りたいし、ベトナムのお茶文化をもっと紐解いて見たい。ぼんやりと抱いたこの思い。そして、この思いが翌年6月、私をハノイに再び引き戻した。旅はさらに深く、お茶の専門家に遭遇する事になる。

その時の事は、また今度。

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