公園通り

二度と戻れない夜が終わって、二人は朝焼けのレストラン。テーブルの新聞に目を落とすと、今日も世情は暗い。ウェイトレスが去ったあとには、美しい沈黙だけが残る。フォークの先でつついた目玉焼きがやぶれ、涙のように黄身がこぼれる。僕もこんな風に泣いてやろうか迷ったけれど、泣かなかった。どうしたって君は振り返らないから、せめて思い出を飾ることに決めたのだ。

初雪が舞い始めた。国道を走る車の流れは途切れることがない。君は頬杖をついて窓の外を眺めている。いつかこんな日があったねって、頰が緩みかけた。ちがう、もう、ふり返る季節は過ぎたのだ。今の二人に、慰めは許されない。

コーヒーの湯気が立つ。永遠のさよならが近づいてくる。僕たちは、はじめから別々の方を向いていたのかもしれない。ほんの少しのあいだ、向かいのホームに停車していただけの、反対方向の列車にすぎない。そうして、今すでに出発の汽笛が鳴った。やがてお互いの姿も声も、すぐに忘れてしまうだろう。

僕はゆっくりと時間をかけて、冷めきったコーヒーを飲む。君は何も言わなかった。一度も視線は合わなかった。わかり合えなかった二人に、わかり合うための合図はいらない。席を立って、コートを着る。ウェイトレスのスカートが揺れる。出口のベルが鳴って、頰に雪が溶ける。

バイバイ、君は幸せになれるだろう。今でも嫌いになれないほど、やっぱり素敵な人だから。バイバイ、僕は幸せになれるだろう。こんなに美しい朝を、いつだって思い出すことができるのだから。


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