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まちづくりの継続性を保つのは誰か


1 行政の政策をめぐる継続性の危うさ

NPOと行政の協働をめぐり、それぞれの強み、弱みを理解する必要がある。紋切り型に言えば、NPOは迅速で柔軟だが安定性や継続性に弱みがあり、行政はスピード感や柔軟性は欠けるものの安定的で継続的である強みが指摘されることが多い。
とはいえ、例えば都市計画コンサルやまちづくりNPOなど、複数年にわたって特定の都市政策、まちづくり事業に携わってきた方々であれば概ね共感してもらえると思うが、必ずしもこの構図は正しいとは言えない。実際に筆者は、20年を超えてまちづくりを仕事にしてきたが、びっくりするような行政活動の継続性のなさ、政策の持続性の低さに何度も立ち会ってきた。
本稿では、特に基礎自治体を対象として、そうした問題の状況を確認するとともに、今後に向けた処方箋の一端を提示したい。

2 行政の安定性の源泉

もちろん一般論としては、行政が一度決定した政策が容易に覆るとか、継続性を失うことは少ない。その理由は行政の仕組みにある。行政活動は、総合計画と言われるグランドビジョンが策定され、その元で分野毎の中長期計画や実施計画が策定され、これが実行される。これらの計画は数年単位で見直しがかけられるものの、その計画策定プロセスは、例えば行政の担当者レベルで自由にできるものではないし、ある程度の政策策定に向けた市民参加、専門家によるチェック機能(諮問機関、委員会)も整えられている。
さらに、計画の枠組みを規定した条例や要項といったものがあることも多く、各種の手続きはそう簡単に変更できないようになっている。こうした一見がんじがらめで自由度が低くなる仕組みがあることによって(柔軟性を減らすデメリットはあるものの)、行政活動の安定性を確保しているし、この安定性があればこそ、市民は安心して税金を行政に託すことが可能となる。

3 行政活動の継続性が途絶える場面

では、どのような状況によって行政活動の継続性が失われるか。筆者が思いたあるところでは大きく二つある。一つは首長の変更、もう一つは担当者の入れ替わり、である。
前者は、ご承知にように基礎自治体は二元代表制を採用しており、例えば市民は、市長と市議会議員を選ぶことができる。選挙の際、これまでの政策の継続でよいと市民が判断すれば、現職の市長が当選し、そうでなければ対立候補が当選する(市長の方向性をチェックするために市議会議員は活動)。市長が掲げる方針によって行政活動の方向性が左右されるため、例えば都市計画分野で言えば、市長が交代(前市長の方針を否定)して都市整備プロジェクトが頓挫、変更するようなこともある。
筆者としては、この仕組みは民主主義の根幹であるし、市民が政策の方向性を変える手段としても、市長を変えるという仕組みが機能していることを説明しているに過ぎないので、必然と思う。
むしろ課題として設定したいのは、後者、担当者の入れ替わりによって、政策の先にある事業や活動のあり方が大きく影響を受けてしまうこと、そこで起こる悪影響を市民、民間、NPOが食い止めることの困難性にある。

4 担当者ガチャ

筆者が過去を振り返っても、行政が取り扱う各種のまちづくり事業や、市民まちづくりの支援事業、市民協働事業は、担当者の入れ替わりで各種の危機に瀕することが比較的よくあった。
まず前提として、日本の行政組織では、概ね3年から5年程度で部署を異動することがスタンダードである。よく言われるのは「同じ部署に同じ人が長く在籍すると、民間と癒着が起こる」ため、日本の自治体は人事ローテーションシステムを備えている。これも、市民や地域の側からすると良し悪しがあり、良い面としてはあまり能力やセンスがよくない自治体職員が自分の地域まちづくりを担当していても、一定期間すれば交代してもらえるチャンスがある。逆に、能力やセンスの良い職員とクリエイティブな地域まちづくりを進めていても、5年を超えて安定的に続けるのは原理的に無理という課題がある。これは「担当者ガチャ」と言って良い。

5 担当者ガチャを対策する3つの処方箋

僕が思う課題の第一に「行政には引き継ぎがない」。もちろん、担当者のファイルを手渡しするとか、簡単な口頭説明をすることはあるが、例えば民間企業が行なっている一般的な引き継ぎの丁寧さから考えると「ない」と言って過言ではない状況の自治体が多い(筆者はまともな引き継ぎをしている自治体に出会ったことがない)。従って第一の処方箋は「行政組織における引き継ぎ文化の醸成」である。
第二に「事業継承者育成の仕組みの必要性」である。行政では先に示したように、定期的に新しい政策が打ち出され、新しい事業が始まる。新しい政策や事業を始めた頃の担当者は、その事業に対する思い入れもあり、ご一緒する市民や民間組織の側も、その担当者の思いに共感して気持ちよく仕事を始めることができる。しかし、先に示した仕組みにより、3年から5年を経るとほぼ間違いなく、その担当者はいなくなる。ここで後任の「担当者ガチャ」がうまくいくかどうかで、プロジェクトの成否が左右される。となると本来は、最も正しく新規政策や事業を理解し、実行してきた担当者こそが、その後継者育成をするところまでを仕事にしておいてくれれば、こうした不幸は軽減できるかもしれない。
第三に「市民でも行政でもない第三者機関の必要性」である。僕が提案したい第三の処方箋として、市民でも行政でもない第三者的な立場で、まちづくりの情報を蓄積し、市民と行政、それぞれの状況を把握し、適宜活動を支援し、状況によって介入する存在の必要性である。具体的には市民と行政の協働に不具合が発生した際、そこに介入して課題解決をする権限を持った専門組織の必要性である(※手前味噌で恐縮だが、筆者が関わってきたいくつかのNPOは、このあたりの役割を一定程度果たしてきた自負もある)。

6 まとめ

まちづくりを巡り、多様な主体の協働が重要視されるようになってきた。市民、地域、事業者、行政などが個別に取り組むだけでは実現し得ないまちの価値創造に向けて協働や連携は避けて通れない。この協働の舞台において、強大な権力を持つ行政の「担当者ガチャ」問題と市民や地域、事業者がうまく付き合っていくための知恵や工夫の整理が求められている。


冒頭の写真は、UnsplashPerry Merrity IIが撮影した写真

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