見出し画像

都市再生とNPO

1 都市再生=デベロッパーがやること?

とある社会学者から「三矢さんは都市・まちづくりを専門としているのに、どうして非営利組織(NPO)に詳しい(実践している)のですか?」との質問を受け、適宜回答をさせてもらったのだが、そのコメントが意外と大事なことを言っていた気がするので、備忘録的に残しておく。
自分のような1990年代に大学生を過ごした都市、まちづくりの人間からすると、非営利組織・NPOと都市再生はつながっていて当たり前だと思うが、一般の方々からすると、つながっていないということかもしれない。想像するに、一般の方にとって都市をデザインすること=デベロッパー(営利企業)や行政がやることであって、市民、民間、非営利組織が携わるものではない、という認識なのだろうか。

2 CDC(Community based Development Corporation)

話を戻して、上記の「三矢さんは都市、まちづくりを専門としているのに、どうして非営利組織(NPO)に詳しい(実践している)のですか?」の質問に対する返答を再現してみよう。
まず、自分が2006年に設立したNPO法人岡崎まち育てセンター・りたの原型となっている考え方が、CDCだ。CDCは、アメリカのまちづくり会社の総称で、Community based Development Corporation=地域に根差した開発公社、を略している。実際に、りたが設立される前、三矢と天野さん(岡崎市立竜美丘小学校の同窓生/現・りた事業企画マネージャー)の二人は「岡崎CDC研究会(岡崎に根差したCDCを実現するためのグループ、1999年発足)」を名乗っており、その活動の結実として、りたが誕生したことからも、その関係は明白だ(※1)。

3 民間非営利の立場で都市を再生する

CDCは、当時読んだ本によると、アメリカにおいて衰退した、あるいはスラム化した都市部を再生するために結成されたまちづくり会社である。概ね、都市計画家や建築家が主導して、会計士や弁護士、教育関係者や福祉の専門家といった様々な専門家がチームを組み、「コミュニティの再生を第一義」にして、都市再生に取り組む。政府からの補助金を活用して低家賃住宅を供給し、配食サービスにより地域住民の栄養状態を回復、法律や権利に詳しい専門家が心身ともに病んだ方々の支援に取り組む他、教育プログラムを提供して、都市再生の担い手や仲間を増やす(市民の主体性や自立性、コミュニティを育む)ことによって、都市を内側から立て直していく。
このような考え方は、2020年代の現代だと、日本でも比較的なじみのある考え方かも知れないが、1990年代にこうした取り組みを民間の非営利組織・NPOが担っているということを知った時、自分は驚いたものだ。「そんな公共的なこと、行政がやるのではないの?」という感覚をもったことを思い出す。アメリカと日本では国の状況も違うので、割り引いて考える必要があるが、ご存知の通り、アメリカは小さな政府論が強い傾向があり、政府が地域社会に関与することは小さめであることが影響している。むしろ、民間の非営利組織が、公共サービスの担い手として活動する(ちなみにNPOは資金的には、会費、寄付金はもちろんのこと、政府や助成財団からの資金調達を行う)ことが、アメリカでは比較的メジャーですらある。

4 都市再生を担うNPO

いずれにせよ、衰退し、再生の糸口が見えない状態から状況を立て直し、都市をイキイキとした場に再創造する(ソフトを重視し、ハードも適宜改良・改善する)プレイヤーとして、民間非営利組織・NPO(=CDC)が活躍する、というのは珍しいことではなく、一つの選択肢であるといってよい(※2)。
以上により、都市再生の一翼を担う主体の一つに、民間非営利組織・NPOがある。このため、三矢のような「都市再生に携わっている人間であるからこそ、非営利組織・NPOに詳しい人」が存在するのである。

写真はUnsplashRicardo Gomez Angelが撮影した写真。iStockより。

※1:詳細については、りたブックレット2「まちづくりNPOと公共施設の指定管理」に詳しい。
※2:日本の場合、大手デベロッパーによる華々しい都市再開発の方が情報発信力もあり、人々の認知が高いのに対し、NPOが行政などとタッグを組んで、地道に都市再生に取り組んでいる様子は、おそらく建築や都市を専門にしている人間以外にはあまり知られていないのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?