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都心部の公園政策に関する一考察


(1)経済政策と都市(空間)政策

2023年12月5日、名古屋学院大学にて「オアシスライブセッション」が開催された。これは、学内にある「オアシス」という現代社会学部の学生と教員だけが出入りできるサロン的空間で時折開催されるミニ勉強会を指す。この日の話題提供者は三矢であり、コメンテーターに江口忍先生(現代社会学部教授)が登壇された。
三矢の話題提供から話が派生して、江口先生の指摘は、商業地域における都市施設のあり方にまで話が広がっていった。特に、名古屋のHisaya-odori Parksのあり方に関する議論が熱いものになったように思う。同施設の空間デザインの観点から考察したものは、過去に書いたことがあるので、その点に関する三矢の意見は以下のコラムを参照いただきたい。
【過去のコラム】http://blog.livedoor.jp/mitsuya0223-399/archives/33270418.html

江口先生のご指摘は、およそ「名古屋の都心部、特に商業地区にある土地であるため、更なる高度利用があって然るべき(園内にもっと商業施設を入れるべき)」とのことであった。その場で返答したこと、及び周辺的な論点を含めて、以下に整理する。
まず、ここには経済政策的アプローチと都市政策的アプローチの違いがあることに注意が必要である。(江口先生の前提にある)経済政策においては、収益性が高まることが最も重要である。その上で、Hisaya-odori Parks、特に北部区画においては、周辺に住居も混在しており、住民の意向(商業施設が増えることへの懸念)を考慮しすぎて、あのような状態になっているのは問題ではないか、との指摘であった。ここには、複数の論点が混在している。僕が思い当たる点について解説する。

(2)土地利用と都市機能

経済政策的に、土地の高度利用が指摘されるのはありうる議論だとして、一方で都市政策論としては「(敷地単体というよりは)都市全体としてどうあるべきか」「公園とは何か」という視点も重要となる。この都市(空間)政策論的にみると、名古屋の誇るべきランドマークであり、オープンスペース、加えて誰もが自由に出入り滞在でき、自然と親しみ、人との歓談や交流、レクリエーションを楽しむ都市施設(公園)としての重要性も加味する必要がある。そもそも公共用地をどこまで商業利用するのかという点については、米国でも「公共空間の商業化問題」として指摘されるところであり、P―PFIの実践例が増えてきた日本において、今後議論を呼んでいくことになる問題も孕んでいる。

(3)商住混在と公園

かたや、公園活性化と周辺住民との調停、という論点もあろう。近年、特に地方都市では、中心市街地衰退として、およそ1980年代頃まで隆盛していた地区が(郊外ショッピングセンターの隆盛などを受けて)商業地区としての活力を失い、住居機能が混在する(マンションが建つなど)例が増えている。一方で、2020年代において、歩いて楽しめる都心地区の重要性が指摘され、旧中心市街地の賑わい再生、商業活性化に取り組む都市は多い。
国内を俯瞰すると、こうした都心部の再生がうまくいっていない都市が多い印象はあるが、商業地区として新しい形で都市再生が進展することもある(久屋大通公園周辺は、大きくはこれらの一例と考えられる)。しかし、一度住宅地化が進んだ地区が商業地区として再生していくと機能混在が顕著になり、問題も起こる。よくあるのは「静かな住環境を求める住民」と「賑わいを求める事業者」の対立である。

(4)敷地主義からエリア主義へ

今回のライブセッションでは、時間の制約もあり、久屋大通公園(およびその周辺)のあるべき姿について「(住民の意見が偉いとか、専門家の意見が偉いということではなくて)住民、事業者、専門家、行政などが、お互いの主張が異なることを理解した上で協議を重ね、あるべき状況(ビジョン)を描くことが重要」という主張にとどめた。この指摘は、今振り返っても妥当だと思っているが、詳細にいうと様々な課題解決手法があり得る。その一端を列記しておく。
(地区内の商業床を増やすべき、という前提がある場合、公園内に商業施設を作る前に、民地の容積率緩和をするなどするべきと思う/ここでは仮に、園内北部区域に商業施設を増やすための方法を考える)
①構造的な問題として、公園周辺に住民が少ない状況を作ることも考えられる。この場合、オフィス利用などを含めて商業利用への誘導を図る(当然、数十年の時間がかかる)
②住民との合意形成を図る(商業施設への反対意向の背景にある課題を抽出し、その解決を図るルールや仕組みをデザインする=導入する施設のガイドラインや営業時間やイベント開催時間、音が出る際の許容限度や対策など)
③住環境の物理的修正(仮に音問題だとすれば、遮音壁を公園側に立てるのか、住居側に設置するのかなど/公共空間としての景観配慮は必要)
④住教育の展開(都心部に住むということは、都心部の利便性を享受することと都心部固有の問題を被ることのバランスは前提であることを確認したうえで住む人を増やす)

いずれにせよ、こうした都市の共有財産(公園や道路など)・コモンズの計画管理活用を巡っては、個別ケースによってかなり丁寧な状況把握、課題設定、課題解決プロセスが求められることが、読者の皆さんに伝われば幸いである。また、非常にクリティカルな議論を呼び込んでいただいた江口先生に感謝を申し上げ、本稿を閉じたい。

※冒頭画像は UnsplashPat Whelenが撮影した写真

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