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【親の介護】認知症になった親の資産凍結を回避する方法


誰もが認知症になる時代

内閣府の資料によると、2012年は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)であったが、2025年には約5人に1人、2060年には約3人に1人が認知症になると推計されている。

現代は、もはや、誰もが認知症になる時代に突入したと言っても過言ではないだろう。

認知症高齢者数の推計, 平成29年版高齢社会白書, 内閣府

そんな時代に、高齢の親を持つ子供世代を悩ませるのが、認知症になった親のお金の管理問題ではないだろうか?


認知症による資産凍結問題

認知症が進行し財産の管理ができなくなってしまうと、たとえ家族であっても、本人名義の預貯金を引き出せなくなってしまう。

これが、いわゆる認知症による資産凍結問題である。

もちろん、親が認知症の診断を受けたからと言って、自動的に資産凍結されるわけではない。

それは、認知症の親を銀行窓口に連れて行ったり、親が認知症であることを自分から銀行側に伝えたりしない限り、銀行側はその事実を知り得ないからだ。

銀行側が親の認知症を知った後に、初めて資産凍結の手続きが取られるのだ。

従って、認知症の親を銀行窓口に連れて行かない限りは、資産凍結されることはない。

親を銀行窓口に連れて行かなければいいのだ!

しかし、セキュリティ対策上、定期預金の解約やキャッシュカードの再発行、ATMでの振り込み限度額の増額などの手続きをする際には、本人による手続きを必須としている金融機関は意外に多い。

結局のところ、認知症の親を銀行窓口に連れていけば資産凍結され、連れて行かなければ手続きはできず、ということになり、ここで家族は、前門と虎後門の狼とも言うべき大きなジレンマを抱えてしまうのだ。

このジレンマを避けるためには、できれば認知症になる前の段階で、遅くとも認知症の初期の段階で、資産凍結を回避する手を打っておく必要がある。

子にとって、親が元気なうちに親のお金のことを確認するのは、なかなか気が進まない作業ではあるが、いざ介護が必要となった場合には、親のお金を引き出すことができなければ介護も行き詰ってしまうという厳然たる事実を再認識しておきたい。

せっかく苦労して貯めた親のお金を介護に有効活用するためにも、日頃から親の様子をよく観察し、短期記憶の喪失や理解力の低下など認知症の初期症状が現れたら、間髪を入れずに行動に移したいものだ。


資産凍結の対策

認知症による資産凍結対策とは、予め手続きをしておくことにより、認知症になった親を銀行窓口に連れて行かなくても、預金引出しや振込ができる状態にしておくことを意味する。

簡単な対策から、ちょっと手間の掛かる対策まで存在するが、いざというときに困らないように、多重の対策を考えておきたい。

以下が、代表的な対応策となる。

  1. 暗証番号の把握

  2. 代理人カードの作成

  3. ネットバンキングの登録

  4. 代理人予約の登録

  5. 家族信託契約


 1. 暗証番号の把握

まず初歩的な対応策であるが、親の銀行のキャッシュカードの暗証番号を把握しておこう。

あくまでも本人の委託を受けたという前提であるが、暗証番号がわかれば、ATMでの預金引き出しや振込が可能となる。

ただし、キャッシュカードを紛失してしまったり、規定回数以上暗証番号を入れ間違ってキャッシュカードが無効化してしまった場合は、銀行窓口での手続きが必要となるため、これだけでは、万全の対策とは言えない。


2. 代理人カードの作成

これは、キャッシュカードが使えなくなったときの対策として、あらかじめ代理人名義のキャッシュカードを作成しておく方法だ(銀行によっては、本人名義のキャッシュカードがもう1枚追加になる場合もある)。

この場合、本人名義のキャッシュカードが使えなくなっても、代理人カードでの対応が可能となる。

ただし、代理人カードを作成するためには、本人による窓口での手続きが必要となるため、認知症が軽度のうちに手続きしておく必要がある。

また、代理人カードも磁気不良などで失効してしまった場合は、本人による窓口での手続きが必要となるので、そこで行き詰まってしまう。

したがって、リスクの先送りにはなるが、これも万全の対策とは言えない。

代理人キャッシュカード, 三井住友銀行HP, 2024.4


3. ネットバンキングの登録

近年では、たいていの銀行がインターネットで取引のできるネットバンキングに対応しているが、認知症の親の口座もネットバンキングに登録ておこう。

ネットバンキングに登録することで、万が一キャッシュカードが使えなくなっても、振込等の資金移動の手段が確保できる。

ネットバンキングの登録は、必ずしも銀行窓口に出向く必要はないが、携帯番号の登録や、スマホカメラでの本人確認が必要となるため、これも認知症が軽度のうちに手続きをする必要がある。

特に、登録時にスマホカメラを用いた本人認証で瞬きによるシャッターを求められる場合があるが、これは高齢者にはハードルが高い。できるだけ若い頃に手続きを済ませておきたい。

しかし、ネットバンキングの登録ができれば、遠距離に住んでいても親のお金の見守りができるし、代わりに振込をおこなうなど、忙しい子供世代には大変便利なツールとなる。

親の介護においても銀行のDXは活用したいものだ。

三菱UFJダイレクト(インターネットバンキング), 三菱UFJ銀行HP, 2024.4


4. 代理人予約の登録

一部の金融機関で導入されている代理人予約サービスとは、認知症と診断される前に予め代理人の予定者を金融機関に登録しておき、認知症になった後に診断書を提出することで代理人が発動されるサービスのことだ。

あくまでも認知症になる前の本人の意思表示が必要になるが、認知症になることを前提とした制度であり、これを登録しておくことで、資産凍結を回避できる。

代理人が発動されると、キャッシュカードネットバンキングの利用は停止され、代理人による銀行窓口での取引しかできなくなるなど制約は多いが、資産凍結を回避する最終手段として、ぜひ利用したい制度だ。

ただし、代理人予約サービスはここ数年で新たに導入され始め制度であり、まだ一部の金融機関でしか対応していない。メガバンクでも対応が分かれているようである。

自分の親の利用する金融機関が対応しているか調べてみることをお勧めする。

代理人予約サービス, みずほ銀行HP, 2024.4

代理人予約サービスを登録した上で、当面は代理人は発動せずに、代理人カードネットバンキングの活用で凌いでおき、どうしても窓口での手続きが必要な事態に陥ったときに、はじめて最終兵器として代理人を発動させるのが、現状での最適解のように思う。


5. 家族信託契約

金融資産のみの場合は、代理人予約サービスの登録で事足りるが、不動産の活用も考えているなら、別の手段を取る必要がある。

例えば、介護施設の入居費用に親の所有するマンションの売却費用を当てるつもりなら、家族信託契約が有効である。

そもそも、認知症を発症した人は当事者能力がないと見做され、不動産売買の契約をすることができなくなる。

しかし、認知症が発症する前に予め親子間で家族信託契約を結んでおけば、それが可能となる。

詳細な説明は割愛するが、下図のとおり、

  • 親=委託者=受益者

  • 子=受託者

として、契約する。

「家族信託」のイメージと機能, 一般社団法人家族信託普及協会HP 2024.4

契約書は公正証書として、公証役場に保管しておくのがトラブルを防ぐうえで重要だ。

手続きは、司法書士に相談すれば実施してくれるが、司法書士にも専門があるので、家族信託契約に詳しい司法書士に相談するのが肝要だ。

ここまでやっておけば完璧だが、家族信託は、ランニングコストは不要だが、初期費用が数十万円ほどかかってしまう。

そのため、親の介護で、不動産の活用が必要かどうかで家族信託の要否を判断しよう。


もし資産凍結されてしまったら

前述したとおり、認知症の親を銀行窓口に連れて行ったり、親が認知症であることを自分から銀行側に伝えたりしない限り、資産凍結されることはない。

それでも、もし何らかの事情で、親が認知症であることを銀行側が知ることとなり、資産凍結されてしまった場合は、どうすればいいのだろうか。

その場合の対応としては、成年後見制度の利用が考えられる。成年後見制度とは、本人に代わって後見人が必要な手続きをおこなう制度だ。

しかし、成年後見制度は、後見人に弁護士等の第三者が指名され、裁判所も介在するため、財産の使用に関する制約が多いようである。

また、成年後見制度は一度始めてしまったら途中でやめることができないため、親が存命中は、後見人に対して一生報酬を払い続けることになる。

使い勝手が悪い制度との声もよく聞くので、できればそこに至らない解決策を事前に講じておきたいものである。


最後に

認知症による資産凍結問題は、実は、金融機関にとってもグレーゾンのようだ。

複数の取引先銀行に確認したが、この問題に対しての対応は、銀行によってまちまちであった。

「原則はこうだが、実際は〇〇を黙認している」とか、こっそりと教えてくれる行員もいた。

親の手続きで金融機関の窓口に行った際も、書類の記載も押印も全て本人に求めた金融機関もあれば、同行した子供が全て記載するのを黙認してくれる金融機関もあった。

超高齢化社会への適切な対応と、預金は名義人の財産であるという憲法上の大原則との間で、金融機関も揺れているのだと思う。

だからこそ、親の取引のある個別の金融機関に電話などで問い合わせしてみることが大事だ。場合によっては、もっといい解決策が見つかるかもしれない。

ただし、その際は、あくまでも一般論の前提で問い合わせることがポイントだ。

間違っても、「親が認知症になりまして・・・」などと口にしてはならないのだ。


※本記事は、個人の見解を述べたものであり、法律的なアドバイスではありません。
金融機関によって取り扱いは異なります。
実施する場合は、ご家族など関係者と十分にご相談の上、自己責任でお願いします。
本記事を参考にして損害が生じても、一切の責任は負いかねます。


お知らせ

資産運用に興味のある方は、拙著『資産運用の新常識』をご覧ください。


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