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生贄の羊は肥えていたほうが神々は喜ぶ【三世議員のゆる政治エッセイ Vol.2】

 派閥の裏金事件の処分がいちおう、完了した。SNSでは「軽すぎる」、「甘い」と言われている。だけど、本気で総理を目指してきた野心ある男たちにとっては、痛い痛い処分になった。これで総理レース、安倍派の大物はみんな「一回休み」。次の選挙は相当厳しいだろうから、結果次第で一回休みどころか致命傷になるかもしれない。

リクルート事件後の政局

 むかしリクルート事件なるものがあった。リクルートの上場直前の子会社の株が政界にばらまかれて、受け取った議員の名前が次々に明らかになった。その結果、竹下内閣が退陣する。退陣したはいいものの、次の総理候補は軒並み株を受け取っていて、誰も総理になれなかった。三角大福中の次のニューリーダーと言われていた安竹宮はダメで、渡辺美智雄もやっぱりダメ。
 ミッチーは秘書だった息子が株を受け取ってたから、「セガレのせいで、総理がパーになっちゃったよ」と強がりを言っていた(らしい)。大物議員がだれも身動きが取れなかった結果、宇野宗佑にお鉢が回ってきた。その宇野総理もすぐにスキャンダル(女)で退陣して、次は海部俊樹が総理になった。この二人の総理は、「軽量級総理」「ワンポイントリリーフ」なんてひどいことを言われていた。

 そんな評判だったから、総理がパーになっちゃったミッチーや、もっと総理のイスに近かった安倍晋太郎、宮澤喜一はめちゃくちゃ悔しかったと思う。今回の安倍派のポスト岸田たちも同じ心境だろう。いや、そりゃ自分が悪いんだけどさ。

 自民党の歴史を振り返ると、金銭スキャンダルが出るたびに、集金力のある「重量級」の議員が舞台袖に引っ込んで、クリーンなイメージのある議員が登場して総理になってきた。田中金権政治批判からの三木武夫、リクルート事件からの海部俊樹。では今回は……?

県会議員時代の金正恩…… ではなく、若き日の渡辺美智雄。
体重はもとから重量級。

処分を決めるのは党でも、検察でもない

 お金をたくさん集める政治家は汚いとは限らない。むしろ優れた政治家には、自然に支援者と寄付金が集まってくる(=票とカネが集まってくる)。政治家は集めたお金でスタッフを雇い、議員や役人と会合を重ね、未来を語り、信頼関係を築き、仲間を増やして政策を実現させていく。民主主義は多数決だから、どんなに優秀でも一人じゃ何もできない。仲間が必要だ。
 政治家としての活動を増やせば増やすほど、仲間と付き合いが増えれば増えるほど、お金はかかる。一方でどんなに頑張っても議員の給料は一期目の議員でも、総理大臣経験者でも変わらない。だから自力でお金を集める。これって汚いことか?

 だけどお金の集め方や、使い方は問題になりやすい。家庭内ですら「こんなのに使って」、「そんなに使ったの?」って会話はどこにでもあるし、「いや、仕事だし」、「付き合いだから」という使途の報告もなかなか理解してもらえない。ましてやギャンブルによる臨時収入は秘密の簿外収入で、やりくりして貯めたへそくりは露見したらトラブルになる裏金だ。

 家庭での口論はエネルギーを使うし、相手に遠慮があるけど、政治家の財布にはみんなが文句を言える。これはリクルート事件後に、政治家の財布を透明化して、みんなでチェックする制度に改正したのだ。そして使途について罰則がなく、違反時の量刑が甘いのは、政治家に罰を下すのは司法ではなく有権者だからだ。

 今回の裏金事件で、世間が望んでいるのはもっとスカッとする決着だろう。大物議員が検挙されて、裁判で有罪、収監。落ちぶれた姿を見ればきっと溜飲が下がる。ロッキードでは総理経験者が、リクルートでは官房長官経験者がそうなった。生贄の羊は肥えていたほうが神々は喜ぶ。
 でも本当は、政治家を殺すには検察はいらなくて、その審判は有権者自身がやらなきゃいけないことだ。逆にこの国に必要だと思う政治家だったら、疑惑があっても議席に送ればいい。国会議員は私たちの代表者であると同時に、あなたが選ぶ代表者でもあるんだ。

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