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おじいちゃんが教える世界一たのしい経済の教科書4


第2章 円高・円安ってなんだ?


◉二つの国のお金を交換する

あぁ~、いい湯だ。生き返る~。ほれ、領太も早く入りなさい。

生き返るって……シャレにならない冗談はやめて、おじいちゃん。

このまま本当に生き返れたらなぁ……。

死んだことを後悔してるの? そもそも、おじいちゃんはなんで死んじゃったの?

まぁ、そのことについては、また今度語るとしよう。まずはマイク君と一緒にスルメジャーキーを食べるために、日本のお金と外国のお金についての授業をしようじゃないか。

うん、そうだね。ねぇ、おじいちゃん。日本のお金と外国のお金は違うって言ってたけど、どうしたらマイク君もスルメジャーキーを買うことができるの?

さっき言った通り、お金というものは国ごとに違うんだ。だから、マイク君が持っているアメリカのお金を、日本のお金に替えなければならない。そして、二つの国のお金を交換することを「通貨交換」とか「外貨両替」と呼ぶのだが、それは銀行や外貨両替機、両替専門店や旅行代理店や金券ショップなどでできるんだよ。最近だと、外国のお金を電子マネーに交換できる「ポケットチェンジ」という機械があるそうで、複数の通貨を一度に両替でき、両替時間も最短1分程度で完了するとか。

おじいちゃん、あの世でも現代の経済について勉強してるの?

当たり前田のクラッカー!

クラッカー? 何それ?

このギャグはちょっと古かったか……。ま、気にするでない。先へ進もう。

とにかく、マイク君の持っているお金を日本のお金に交換するには、銀行とかで交換しないといけないってことだよね? じゃあ、1ドルを1円に替えればいいの?

いや、それは違う。マイク君の持っているお金と日本のお金は、価値が同じではないんだ。

価値が同じじゃないって……どういうこと?

1ドルと1円は同じ価値じゃないってことだよ。1ドルを日本のお金に交換すると、おおよそ100円くらいになるんだ。

え? 何それ! 1ドルを日本の金に交換すると、1円じゃなくて100円? じゃあ、100ドルを日本のお金に交換したら?

だいたい1万円。

すごっ! 100ドルって、ぼくの1年分以上のおこづかいに交換できるんだぁ。

ただ、いつも同じ条件で交換できるわけじゃないんだ。1ドルが100円の時もあれば、120円の時もある。

どういうこと? 日によって交換できる金額が変わるの?

その通り。毎日毎日、価格は変わるんだよ。正確には、「動く」というんだけどね。

動く? こわっ! 何それ、お金が歩き出したりするの?

違う違う。領太は想像力が豊かだなぁ。二つの国のお金を交換することを、通貨交換とか外貨両替と呼ぶと教えたね? それらをひっくるめて「為替」というんだ。つまり、違う価値をしたお金を交換する手段かな。ここまでわかるかい?

違う価値をしたお金を交換する手段を「為替」っていうんだね。ってことは、原始時代に木の実とお肉を交換していたのも為替っていうの?

それはたぶん、物々交換じゃないかな。けど、違う価値を交換するという意味では、あながち間違いではないかも。まぁ、簡単に言うと、為替が動くというのは、二つの国のお金を交換するにあたって「金額は常に動いている」ということだよ。その日によって、交換する金額の率が変わるって意味さ。

金額の……リツ?

そう。率とは割合のことで、1ドル100円の時もあれば、120円の時もある。その「変わる部分」を「率」というんだよ。ちなみに、英語では率のことを「レート」と呼ぶわけ。だから、変動するお金の交換比率を「為替レート」というのさ。為替レートを見ると、その日のお金の比率がわかるんだ。

為替ってやつが動くのはわかったけど、なんで動くの?

◉為替レートは需要と供給で動く

領太、需要と供給って知ってるかい?

ジュヨウとキョウキュウ?

そう、需要は「ほしい」という意味で、供給は「与える」という意味だよ。

「ほしい」と「与える」? お店のお客さんと店員さんみたいだね。

まさにその通り! 為替レートの動きには、人々の「ほしい」と「与える」が関係しているんだ。

ふーん。

ん? 領太、もしかして飽きて……る?

そういうわけじゃないけど、「お客さんと店員さん」で思い出したことがあって……。

思い出したこと?

そう。ケーキ屋さんのこと。もうすぐぼくの誕生日だから、ママと一緒にイチゴのバースデーケーキを予約しに行ったら、去年より値段が上がってたんだ。

値段が上がってた? どうして?

ケーキ屋さんの話によると、今年は台風の影響でイチゴが不作で値段が高かったんだって。だからイチゴケーキを値上げしちゃったんだ。それを聞いたママは、今年はケーキを買わずにママが作るって言い出して……。でも、ママは料理が得意じゃないから、失敗するに決まってる。あーぁ、どこかに安いイチゴケーキ売ってないかなぁ。

領太、それだよ、それ。

それ?

それが需要と供給だよ。つまり、天候による影響で収穫できたイチゴが少ないため、今年のイチゴはとても貴重で高値。だから、ケーキ屋さんはイチゴを使うケーキの価格を上げざるを得ない。でも、あまり上げてしまうと誰も買ってくれない。そのため、損をせずにみんなが買ってくれそうな価格を考えて売っている。まさに、「与える人」と「ほしい人」の関係だね。さぁ、ここで質問だ。ケーキ屋さんと領太のママは、どっちが需要でどっちが供給?

えーっと、ケーキ屋さんが「与える」だから供給で、買うは「ほしい」だから需要がママ?

グレイト! 大正解! 領太のママは買わなかったかもしれないけど、たとえイチゴの値上がりによってイチゴケーキの価格が多少上がっても、イチゴケーキをほしいと思う人がいるということだね。だから、ケーキ屋さんはイチゴケーキの価格を上げたんだ。それと為替レートも同じなんだよ。人気のある(需要の高い)国のお金は高くなり、人気のない(需要が低い)国のお金は安くなるわけ。ただ、人気はずっと続くわけじゃない。ほしがる人が多い日もあれば、少ない日もある。為替レートも需要と供給によって上がったり下がったりするってこと。

そっかぁ、でもさ、日本のお金の人気があるとかないとか、円を高くするとか安くするとか、いったい誰が決めるの? 総理大臣? それとも銀行の人?

みんなだよ。

みんな?

そう。円の取引をしている「みんな」だよ。イチゴのバースデーケーキを2000円とするか3000円とするかは、需要と供給が決めるってことはわかったよね。そして、これと同じことがお金の需要と供給、つまり円の取引にも当てはまるんだ。

円のトリヒキ?

そう。マイク君がスルメジャーキーを買うのに円が必要なように、アメリカ人が日本で買い物をする時には円が必要になる。そうしたドルを円に替えたい人が増えると、円の需要は高まるよね。だから、この動きを「円高・ドル安」というんだよ。

じゃあ逆に、ぼくたちがハワイで買い物するためには、ドルを持っていかないといけないってことになるから、ドルの需要が高まるってこと?

そうだね。円とドルを交換する業者は「そっか、領太君はドルがほしいのか」と考える。つまり、ドルの需要が増えるということ。そうした円をドルに替えたい人が増えると、ドルの人気が出て、円の人気が下がることになる。それが「円安・ドル高」ということなんだよ。

そっか。少しずつだけどわかってきた。つまり、通貨交換って円とドルの交換だから、片方が高いともう片方は必ず安いってことだよね。円が高いとドルは安いってことであってる?

あってるよ。円が高いとドルは安い。逆にドルが高いと円は安い。今は100円で1ドルに交換できるけど、1ドル100円が80円になったり50円になったりする状態を円高っていうんだよ。

100円が80円とか50円とか安くなっているのに、円高なの?

そうだね、ここで言う高い安いは円の価値のことなんだ。例えば、1ドル100円が、1ドル90円になるということは、それまで1ドルの価値を買うのに100円必要だったものが、90円で買えるということだから、10円分、円の価値が高くなってるってことなんだよ(円高)。逆に、1ドル100円が、1ドル110円になるということは、それまで1ドルの価値を100円で買えたものが、110円出さないと買えないということだから、10円分、円の価値が低くなってるってことなんだよ(円安)。

◉円高、円安どっちがいいの?

円の価値が高くなるって、なんだかうれしいな。ねぇ、おじいちゃん。そもそも「円高・ドル安」と 「円安・ドル高」はどっちがいいの?

それは、どちらともいえないんだ。今度、領太たちがハワイへ行く時には円高がいいけど、ハワイでドルを使いきれず、ドルが余ったらどうだろう? 例えば、1ドルだけが余ったらどうする?

日本ではドルが使えないから円に替えなきゃ。

そう。もともとハワイに行く前に1ドルが100円だったとしよう。その100円だった1ドルを、今、円に替えるとすれば?

100円より多い方がいいよ。

1ドルが100円ではなくて、110円とか120円の方がいいよね。それはすなわち「ドル高・円安」ってことだ。つまり、ドルを円に交換するときは「円安・ドル高」が望ましい。

ハワイに行く時には円高が良くて、ハワイから帰る時には円安がいい。要するに、時と場合で変わるってことか。

そうだよ! もう完璧だね、領太。ただね、円とドルを交換することは、旅行の時だけではなくて、いろんなところで起こっているんだよ。

いろんなところ?

円高・円安が動くのには、実は旅行よりももっと大きな原因があるんだよ。

何? 何が原因なの?

それは、ぼー……。

ぼー?

ぼー……っとする……。

円高・円安が動くと、ぼーっとするの?

ちゃうちゃう、酸素が……。

酸素? おじいちゃん、なんの話してるの? 経済と酸素の話?

いや、そうじゃない……ワシに酸素を……呼吸が……苦しい……。

大丈夫? おじいちゃん! のぼせちゃったの? 白目むいてるよ!

領太……水を一杯おくれ……ブクブクブク……。

わー! 沈まないで! 幽霊が風呂でのぼせるなんて聞いたことないよ。とにかくお風呂を出よう!

ワシの孫はスペシャルグレイトな孫……ブツブツ……ワシの孫は……。

おじいちゃん! おじいちゃん! しっかりしてよ!

次回、第3章 「貿易ってなんだ?」へ続く

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